第33話 作戦
魔獣が全力で衝突したにも係わらず、ウーゴはその場で耐えた。歯を食いしばり、腰を落として踏ん張っている。
デルピュネーは巨大な腕でウーゴで掴んだ。そのまま投げ飛ばそうとするも、ウーゴは抵抗し、斧で腕を斬りつけた。
魔獣がわずかに
尻尾を鞭のように振るい、ウーゴに叩きつけた。
「ぐふっ!」
ウーゴはバトルアックスで防いだものの、衝撃を殺すことはできず、後ろに吹っ飛んでしまう。
デルピュネーは腹ばいで大地を駆け、蛇行してミアに迫る。
大きく口を開け噛みついた。しかし、水が飛び散るだけで少女は消えてしまう。
魔獣はなにが起きたのか分からず、その場でキョロキョロと辺りを見回す。周囲に散った水が徐々に集まると、再び少女の形となる。
「危ない……水になれたかったら死んでたわ」
ミアは冷静に魔獣を見据える。デルピュネーは顔を歪めて咆哮すると、ミアに向かって突っ込んできた。
その時――猛スピードで魔獣に向かう人影があった。
人影は剣を振るい、デルピュネーの体に小さな傷を作る。魔獣は振り向き、目で影を追った。視界に映ったのは、剣を持った小さな人間だ。
その人間は剣を構え、猛然と向かってきた。
◇◇◇
テオは全力で大地を駆け抜け、デルピュネーに迫る。魔獣が二本の右腕を振り下ろしてくるが、テオは軽やかにかわし、返す剣で腕を斬りつけた。
魔獣の腕からは血が滴るものの、大した傷にはならない。
テオは足を止めず、魔獣の周囲を駆ける。蛇の胴にも一撃入れるが、あまり手応えを感じない。やはり【ファントム・フェニックス】の能力を使わなければ、致命的なダメージを与えられないのだろう。
テオは魔獣を二度、三度と斬りつけ、距離を取って足を止める。
――まだ足りない。これだけ巨大な魔獣だ。もっとダメージを蓄積させないと。
テオは唇を噛み、魔獣を睨む。
その役割を買って出たのは、ミアとウーゴだ。今は二人を信じて、サポートに徹するしかない。
テオが魔獣と対峙している時、横からドスンとドスンと足音が聞こえてくる。
ウーゴがバトルアックスを振り上げて突っ込んできたのだ。デルピュネーも視線を向け、攻撃態勢に入った。
テオは加勢しようと一歩踏み出す。その時、魔獣の周囲に水が集まっていることに気づく。テオはハッとしてミアがいた場所を見る。
そこにミアの姿はなかった。
――まさか……自分自身が"水"になって攻撃してるのか!?
水滴は数珠つなぎとなり、デルピュネーの顔の周りを取り囲んでいく。
魔獣もキョロキョロと目線を動かし、水滴を気にしているようだ。腕を振り回し、水を払うが、バシャバシャと弾けるだけで水がなくなることはない。
やがて水は魔獣の顔に張り付き、巨大な球体となった。
デルピュネーは必死に水を剥がそうとするものの、水を掴むことなどできない。
魔獣は息ができず、藻掻き苦しむ。
その様子を見たウーゴは魔獣に近づき、斧を振るった。
魔獣の胴を斬り裂き、大量の血が噴き出る。ウーゴは手を緩めず、さらに二度斧を振るう。蛇の胴体には深い傷が入った。
だが、魔獣は顔の水を剥がすことに必死で、のた打ち回っているだけだ。
ウーゴに注意を払う余裕がない。ウーゴはここぞとばかりに攻撃を畳みかける。
しかし、振り下ろしたバトルアックスが当たる刹那、動き回る魔獣の尻尾がウーゴに直撃する。
「がっ!!」
大きくバランスを崩したウーゴは尻餅をつき、後ろに倒れてしまった。
すぐに立ち上がろうとしたウーゴだが、魔獣が首を
その衝撃は凄まじく、地面は爆散し、近くにいたウーゴも後方にゴロゴロと転がっていく。
水はそこら中に飛び散り、魔獣の顔から水球は消えていた。
デルピュネーはブルブルと首を振り、周囲に散った水を睨む。地面に広がった水はゆっくりと集まりだし、やがて人の形を成す。
「うう……なんだか、頭がクラクラする」
人の姿に戻ったミアは、フラつきながらも立ち上がる。持っていた杖で体を支え、傷ついた魔獣を見る。
「やっぱり強いわね……簡単に倒せないし、致命的なダメージもまだ入ってない」
ミアは後ろを振り返り、倒れているウーゴに視線を向ける。
「ウーゴ、大丈夫?」
突っ伏していたウーゴは頭を上げ、「だ、大丈夫だよ」と笑顔を返した。持っていたバトルアックスを杖代わりにし、「うんしょ!」と言って立ち上がる。
ドスン、ドスン、と足音を響かせ、ミアの元まで歩み寄る。
「ウーゴ! 今のままじゃ、まだアイツに与えるダメージが足りないの。だからもっとダメージを与えるための作戦があるんだけど……協力してくれる?」
「も、もちろんだよ。僕は頭が良くないから、ミアが考えてくれる方がいいよ。僕はそれに従うから」
「ありがとう、ウーゴ」
ミアはキッと魔獣を睨む。今は高速で動くテオが魔獣の気を引いていた。テオは何度も攻撃を仕掛けているようだが、あまり効いているようには見えない。
やはり青い炎を使わず、剣だけで戦うのは限界があるのだろう。
――私たちがもっとダメージを与えて魔獣を弱らせないと……。
「ウーゴ、まず体の硬化を解いてくれる?」
「う、うん。分かったよ」
ウーゴは体の力を抜き、【アダマスの実】の能力を解く。体から黒い色がスッと引き、元の状態へと戻った。
「こ、これでいいかな?」
「うん、ありがとう、ウーゴ。このあとね――」
ミアはこれから行う作戦をウーゴに伝える。ウーゴはウンウンと頷き、「分かったよ。やってみる!」と気合いを入れる。
ミアは少し後ろに下がり、杖をウーゴに向けた。
「行くよ!」
「う、うん!」
ウーゴの周りに無数の水滴が浮かび上がる。水滴は繋がってゆき、辺りを囲むベールとなった。水のベールは徐々に下がり、地面の中に消えてしまう。
ウーゴは不安そうに、辺りを見回していた。ミアは意識を集中させ、杖の先に精霊の力――魔力を込める。
「ウーゴ! 歯を食いしばって!!」
緊張した表情のウーゴは肩をすくめ、防御態勢を取る。
次の瞬間、ウーゴが立っていた地面が爆発したように吹っ飛ぶ。デルピュネーの周りを走っていたテオは爆音に驚き、視線を向けた。
「な、なに!?」
なにかが爆発したのかと思った。しかし、よく見れば大量の水が噴き上がっている。
まるで噴水のようだと思ったテオだが、その水の先端に目が止まった。なにかがある。目を凝らすと、それがウーゴだと分かった。
「ウーゴ!? どうしちゃったの?」
ウーゴは噴水に吹っ飛ばされ、空中に投げ出されていた。クルクルと回転し、こちらに向かってくる。
「わ、わわわわわ」
テオは慌てて逃げ出す。ミアとウーゴがなにをやろうとしているか、理解できたからだ。魔獣はまだ気づいておらず、テオを追いかけよとしていた。
上から落ちてくるウーゴは能力を発動し、硬化する。
バトルアックスを振り上げ、デルピュネーの頭上に迫る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ウーゴの渾身の一撃が、デルピュネーの頭に入った。
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