第32話 二人の戦い

 ※今日から19:00頃と21:00頃に一話づつ、計二話を最終回まで投稿していきます。お時間があればご覧ください。


  ――――――――――――――――――――――――――――――――――


「まず私とウーゴで魔獣にダメージを与えるから。弱ったところで、テオ! あなたがとどめを刺して」


 走りながらミアが提案してくる。テオは少し考えるが、確かにそれしかないように思える。十分しか使えないファントム・フェニックスの能力では、あの巨大な魔獣は倒せない。 

 ミアたちの協力は必要不可欠だ。


「分かった。僕は二人の戦いをサポートするよ」

「お願い!」


 ミアが先行し、そのあとをウーゴが続く。二人は充分過ぎるほど強い。きっと魔獣を追い込んでくれるはずだ。

 テオは二人を信頼し、ファントム・フェニックスの能力を温存することにした。

 それでも【ギャロップ】と【クリュサオル】の力を使えば二人を援護することはできるだろう。徐々に魔獣の姿が近づいたきた。多くの冒険者が奮闘しているが、次々に打ち倒されている。

 その光景を見たウーゴが足を速め、ミアの前に出る。

 冒険者たちの脇を抜け、能力を発動した。一瞬で全身を硬化させ、皮膚は暗い灰色に染まる。

 雄叫びを上げ、そのまま突っ込んでいった。


 ◇◇◇


 C級冒険者のタイラーは必死になって剣を振るう。腕に自信があってこの討伐に参加したものの、まさか魔獣がここまで強いとは思っていなかった。

 逃げ出したい気持ちもあったが、魔獣を倒した時の成功報酬に目がくらみ、逃げるタイミングをいっしてしまう。

 仲間は次々に倒され、もうパーティーメンバーで残ったのは自分だけ。


「く、くそ……どうすりゃいいんだ!?」


 タイラーがジリジリとあとずさると、冒険者の遺体につまずき、倒れてしまう。


「うっ……うぅ……」


 冒険者や騎士団を薙ぎ倒していた魔獣が、ギロリとこちらを見る。タイラーは恐怖で体がすくみ、動けなくなってしまった。

 魔獣は蛇行しながら向かってくる。

 もうダメだ! と思った瞬間、誰かが目の前に立ちはだかった。

 ドカンッ!! と凄まじい衝撃音が鳴った。タイラーは腕で顔をかばい、目をつぶってしまう。

 衝撃音のあと静かになったので、薄く目を開けると、そこには信じられない光景があった。

 

「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……」


 大男が突っ込んで来た魔獣を止めていたのだ。四つある腕の一つを掴み、押し返そうとする。

 だが、そんなことが無意味なのはタイラーにも分かっていた。

 魔獣の腕は四つ。一つ止めたところで――

 案の定、魔獣は残りの手で大男を攻撃する。鋭い爪を大男の顔や喉元に突き立てた。アレでは一溜まりもない。

 タイラーは目を背けたくなったが、大男は引くどころか、さらに前に出る。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 大男は魔獣の腕を突き放し、持っていた金棒を振り上げる。そのまま魔獣の大きな顔面に叩きつけた。 

 魔獣は顔を歪め、口から血を吐き出す。


「シャアアアアアアア!!」


 魔獣は体を回転させ、長い胴を鞭のように振って大男に叩きつけた。

 男は金棒を落とし、二十メートル以上吹っ飛ばされてゴロゴロと転がっていく。

 あれでは即死だ。タイラーはそう思ったが、男は何事もなかったかのように立ち上がり、また走ってきた。


「おいおい、嘘だろ!?」


 タイラーは驚愕し、男の行動を凝視する。大男は地面に落ちていたバトルアックスを拾い上げた。

 倒された冒険者が持っていた武器だろう。

 巨大な魔獣は腕を上げて襲いかかる。男は魔獣の爪撃を左腕で受け止めると、右手に持っていた斧を振り下ろす。

 斧が魔獣の腕に深々と食い込み、大量の鮮血がほとばしる。魔獣は絶叫し、体を大きくらせた。

 大男はさらに踏み込む。バトルアックスを両手で握り、横に薙いだ。

 魔獣の胴を斬り裂き、深い傷をつける。

 流れる血と供に広がる魔獣の悲鳴。男は間を置かず、もう一撃を入れようとする。だが魔獣も黙ってはいない。

 頭から突っ込み、で男を殴り飛ばす。

 これには男も耐えきれず、十メートル以上飛ばされ、雑木林の木に激突した。

 今度こそ死んだだろうと思ったタイラーだったが、その予想に反し、男はむくりと立ち上がる。

 持っていたバトルアックスを両手で掴み、再び地面を蹴った。


 ――あ、あの野郎。不死身なのか!? なんで死なないんだ?


 困惑するタイラーを余所よそに、大男と魔獣がぶつかり合う。その時、後ろから声が聞こえてきた。


「……水の槍ウォーターランス


 タイラーの頭上を、なにかが飛んでいく。そのなにかは、大男を攻撃している魔獣に激突した。

 激しい水飛沫が舞い散り、魔獣が唸り声を上げる。

 それが何十回と続き、魔獣を後ろに押し込んでいった。タイラーは慌てて振り向く。

 そこにいたのは、フードを目深に被った幼い少女。周囲には透明な水の玉が揺蕩たゆたい、ふわふわと浮かんでいる。

 少女が持っていた杖を魔獣に向けると、浮かんでいた水球が一斉に飛び出し、魔獣に襲いかかる。

 タイラー驚愕した。これは"水"による魔法攻撃。


 ――あの杖『アーティファクト』なのか!? いや、それにしても威力が強すぎる気がする。まさか……。


 タイラーが考え込んでいる間にも、攻撃は絶え間なく継続していた。水の魔法が魔獣に効いているかどうかは分からないものの、嫌がっているのは間違いない。

 魔獣が気を取られている隙をつき、大男はバトルアックスを振るう。

 斬撃は魔獣の胴に入り、悲鳴と供に血が噴き出す。タイラーは尻餅をついたまま、その光景に見入ってしまう。


「あ、あんな化け物相手に、二人で戦ってやがる。一体どこの冒険者なんだ!?」


 ◇◇◇


 ミアは駆け出し、魔獣に迫った。ウーゴは魔獣の腕にしがみついて動きを止めようとしているものの、大きさが違いすぎる。

 掴んでいた腕を振るわれ、ウーゴはゴロゴロと山肌まで飛ばされてしまった。


「ウーゴ!!」


 ミアは蒼白は顔になるが、すぐに立ち上がるウーゴを見てホッと息をつく。

 やはり、あの鋼鉄の肉体は魔獣相手でも傷つかないらしい。持っていた杖を振るい、空中に大きな"水球"を作る。

 ミアは足を止め、杖を正面にかかげた。


「いっけえええええ!!」


 水球はグルンッと回ったあと、弾けるように前に飛んでいく。

 弾丸の如き凄まじいスピード。デルピュネーの上半身に当たると水球は弾け、衝撃で魔獣は倒れそうになる。

 ウーゴもバトルアックスを両手で持ち、突進した。

 斧を横に薙いで相手を斬りつける。さらに斧を高々と振り上げ、まっすぐに振り下ろす。デルピュネーの長い胴に、十字の傷が刻まれた。

 魔獣は怒り狂った雄叫びを上げ、ウーゴに向かって突進する。

 ウーゴも足を踏ん張り迎え撃った。デルピュネーとウーゴがぶつかり合った瞬間、衝撃音が鳴り響き、周囲一帯の空気が震えた。

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