第24話 告白

「さあ、三日後に始まる討伐依頼のために、みんなで戦闘の訓練をしよう!」


 いつもの原っぱで意気揚々と声を上げたテオ。その前にはウーゴとミアがいた。


「訓練って、なにをどうするの?」


 冷静なミアの言葉に、テオは「あ~そうだね。能力をもっとうまく使うためのトレーニングというか……」とモゴモゴと曖昧なことを言う。

 それを聞いたミアは、「つまり、具体的な訓練方法はないってことね」と冷たい目をテオに向けた。


「ま、まあ……そうなんだけど」


 テオはポリポリと頭を掻き、ハハハとミアに向かって愛想笑いをする。


「それにしても、ミアがこんなに積極的に協力してくれるなんて思ってなかったよ。最初は凄い嫌がってたからね」


 ミアはハァーと溜息をつき、青い髪をかき上げる。


「別に積極的に協力してる訳じゃないわ。ただ、テオとウーゴにだけに任せてたら、どうせトラブルを起こすに決まってるし」

「ハ、ハハ……そうかな」


 冷たく睨んでくるミアから視線を逸らし、ウーゴに目を向ける。


「ウーゴはすぐに僕のお願いを聞いてくれたけど、本当に良かったの? 冒険者の依頼だから、危険な戦いは避けられないよ」

「うん、それは分かってるんだけど……テオの頼みは断れないよ。それに、僕も冒険者の仕事には興味があったし、一度くらいは経験してもいいかなって」

「ウーゴ……」


 ちょっと涙目になるテオを余所よそに、ミアは「訓練するんじゃなかったの? 時間がないんだから、やるなら早くしなきゃ」と、冷たく言い放つ。


「う、うん、そうだね。【神獣の実】の能力はイメージが大切だから。うまく使えるまで繰り返し試してみるのがいいんじゃないかな?」


 その話を聞き、ウーゴは「じゃあ、体を鉄に変えて、筋トレとかすればいいのかな?」と無邪気に言う。

 一見、バカげた提案にも思えるが――


「確かに……【アダマスの実】に対する練習としてはいいかもしれないよ。体を鉄に変えるには、ずっと全身に力を入れてなきゃいけないみたいだからね。感覚を掴むためにも、普段から能力を使うのはいいかもしれない」


 テオは一人納得し、うんうんと頷く。その話を聞いていたミアは、自分の手を見つめていた。


「私の【ウィンディーネ】の能力はどうやったら向上するんだろう。今までは自分で試行錯誤して能力を使ってたけど、本格的な訓練なんて、どうすればいいかさっぱり分からない」


 顎に手を当て、考え込むミア。そんなミアにテオは複雑な表情をする。


「ごめん、ミア。【ウィンディーネの実】はすごく特殊で、僕でもどうやったら練習になるのか分からないんだ。ミアがどんな『イメージ』をするのかにかかってると思うけど……」


 ミアは小さな声で、「そう」とだけつぶやき、おもむろに歩き出した。

 原っぱの中程で立ち止まると、右腕を上げ、手の平を前に向ける。


「イメージ……水の槍以外のイメージを……」


 ミアはぶつぶつ言いながらまぶたを閉じ、意識を集中する。すると、手の平の前に水の球体が現れた。


「水は地面にも、空気中にもある。そこからたくさんの水を集めれば……」


 球体はどんどん大きくなっていき、直径2メートル以上の巨大な球体になった。ミアが手を横に振ると、球体は動き出し、ゴロゴロと地面を転がっていく。

 加速した球体は、そのまま立ち木に激突した。水は一気に弾け、衝撃を受けた木はメリメリと音を立て倒れていく。

 その様子をテオとウーゴは口をあんぐりと開けたまま眺めていた。


「確かにイメージすると色々できそうね。おもしろい能力かも」


 ミアは自分の手の平を眺めながら、ほんの少し笑みを漏らした。

 テオはゴクリと喉を鳴らす。


 ――凄い……【ウィンディーネの実】は扱うのが難しい『三ツ星』なのに。完全に使いこなしてる。ひょっとして、ミアって天才なんじゃ……。

 

 驚愕するテオを気にすることなく、ミアは淡々と練習を続けた。ウーゴも筋トレをしながら能力を何度も発動し、感覚を掴んでいるようだ。

 テオも【ギャロップの実】の能力を使い、原っぱを駆け回る。

 そんなことをしてる間に日が暮れてきた。


「もう暗くなってきたし、帰りましょうか」


 ミアの提案に、テオは「そうだね」と言い、ウーゴに「帰ろうか」と呼びかける。

 帰るため三人で畦道あぜみちを歩いていると、ミアが声をかけてきた。


「ところで、テオの能力って速く走れるだけなの? それ以外でなにかできないの?」

「う~ん、それは……」


 テオはなんて言っていいか分からず、戸惑ってしまう。確かにギャロップの能力は、ミアやウーゴの能力に比べて戦闘向きではない。 

 ミアはそのことを心配しているのだろう。 

 ここで他にも能力が使えると言えば、変に思われないだろうか? テオはしばし悩むも、一緒に戦う仲間に嘘は良くないと思い直す。

 隣を歩くミアに視線を向け、口を開いた。


「【ギャロップの実】は速く動けるだけだよ。ただ……僕、他にも【神獣の実】を食べてるんだ」

「え?」


 ミアはキョトンとした表情をし、話を聞いていたウーゴはよく分からないといった顔で頭を掻く。


「【実】を二つ以上食べたってこと? どうしてそんなにいっぱい【神獣の実】があるの? あれって一つ手に入れるのも奇跡に近いって聞いたことあるけど……」

「もちろんそうなんだけど」


 テオは言葉に詰まる。嘘はつきたくないが、この件に関してだけは誤魔化さなきゃいけない。【神獣の実】が成る伝説の木を見つけたなんて、天地がひっくり返るような情報だ。

 簡単に言う訳にはいかなかった。


「その、前にも言ったけど、南の海岸で何個もまとめて見つけたんだ。全部で四つあってね。二つを自分で食べて、残り二つをミアとウーゴにあげたんだよ。だから僕が使える能力は二つあるんだ」


 実際には三つ食べているが、【クリュサオルの実】は見た目で分かる能力ではない。

 見つけた【実】が多すぎると余計怪しまれるかもしれない。そう考えたテオは、食べた実は二つだと言うことにした。

 テオの話を聞き、ミアはやや怪訝な顔をする。やはり怪しまれたかと思ったが――


「そう、私は【神獣の実】については詳しくないから、テオが言うことは信じるわ。それで他にはどんな能力を持ってるの?」

「うん、もう一つの能力はね……」


 テオは笑みを漏らし、【幻影の不死鳥ファントム・フェニックスの実】について話し始めた。

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