第25話 冒険者の合流地

 木々の紅葉が目立ち、やや肌寒い風が吹き抜ける。

 ギルドから招集を受け、テオたちは北の鉱山に向かっていた。パルキアから今回の『神格獣討伐依頼』を受けたのはテオたちのパーティーだけ。

 しかし、ブルノイア領にあるいくつもの都市から冒険者がやって来るらしい。

 

 ――どんな人たちが来るんだろう? もしかして【能力者】がいるのかな? そうじゃなかったとしても、凄いアーティファクトを持つ人は絶対いるよね。


 テオはウキウキした気持ちで街道を歩いていた。その後ろには、ミアとウーゴの姿もあった。

 テオはいつも通り白いフード付きのマントを羽織り、顔を隠すためのマスクをしている。腰にはショートソードを帯び、見た目だけならそれなりの冒険者だ。

 ミアとウーゴも装備を整えていた。

 テオと同じように、ミアもフード付きのマントを着て顔を隠し、右手にはアーティファクト【水の杖】を持つ。

 ウーゴは鬼のマスクを被り、手には大きな金棒を持っていた。

 テオは後ろを振り向き、二人が手にした武器を見て微笑む。これはパルキアのギルドから借りてきたものだ。

 元々は武器なしで依頼に行こうと思っていたが、「それでは心元ないでしょう」とクラウツに言われ、ギルドとして武器を用意してくれたのだ。

 クラウツいわく、テオたちが活躍すれば、パルキアのギルドの評価が上がるらしい。

 テオにはよく分からなかったが、クラウツやイヴリンが喜ぶなら悪い気はしない。益々やる気に火が付き、「がんばるぞー!」とよりテンションを上げていた。

 そんなテオを、ミアは冷たい目で見つめる。


「張り切ってるところ申し訳ないけど、北の鉱山までかなりの距離があるのよ。このまま歩いて行くの?」

「あ、うん。それ以外移動手段がないからね。ちょっと大変だけど、我慢して歩くしかないよ」


 テオがハハと笑いながら言うと、ミアの表情はさらに険しくなった。テオは顔を引きつらせ、視線を逸らすように前を向く。

 パルキアの町からしばらくは行商の馬車に乗せてもらっていたが、方向が違うため途中で降ろしてもらい、そこからは歩いていた。

 だいぶ北の鉱山に近づいたとはいえ、歩いて行くには辛い距離だ。

 ピリピリした空気の中、明るい声でウーゴが話し始める。


「でも僕、なんだかピクニックみたいで楽しいよ。こんな風にみんなと出かけるのも久しぶりだしね」

「ウーゴは黙ってて。テオが調子に乗るかもしれないでしょ」


 ミアにピシャリと言われ、ウーゴはうつむいて黙り込む。体は大きいものの、ウーゴはとても気が小さい。ミアに口で勝つことなど、未来永劫ないだろう。


「ま、まあ、あと少しで集合場所の集落だよ。もう少しがんばろう。ね、ミア」


 テオは明るく言うが、ミアは相変わらずブスッとした表情を崩さなかった。

 テオは前を向き、ふぅーと息をつく。ミアが不機嫌なのも気にかかるが、今回の依頼でもっとも問題になったのは、親になんと言って誤魔化すかだ。

 討伐依頼は、どんなに早くても二日はかかる。つまり、必ず一泊はしなきゃいけないということ。

 テオだけでなく、ミアやウーゴも家族には今回のことを言っていない。

 絶対に心配されることが分かっているからだ。そのため外泊の言い訳を考えるのに苦労することになった。

 最終的についた嘘は、テオはウーゴの家に泊まりに行く。ウーゴはテオの家に泊まりに行く。ミアは別の友達のところに勉強に行く。というもの。

 綿密に計画を立てたミア以外は、いつバレてもおかしくない言い訳だ

 それでも受けた依頼を達成することができれば、Cランクの冒険者になれるかもしれない。そこまでいけば家族に報告することができる。

 テオは一縷の希望を抱き、前向きな気持ちで集合場所へと向かった。


 ◇◇◇


 討伐対象の魔獣がいる北の鉱山から、南に四キロ。

 数世帯しかいない小規模な集落に、数多くの天幕が張られていた。各地から集まった冒険者が来ているようだ。

 テオたちは集落に着いてから、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた。

 多くの荷物も運び込まれ、業者や商人のような人たちの姿も見える。

 さらに進むと、周りには冒険者と思われる屈強な男女がおり、テオやミアを怪訝な表情で見つめてくる。やはり体格から子供だと分かるのだろう。

 テオはミアとウーゴを引き連れ、天幕の間を抜けて責任者と思われる人物を探す。


「ねえ、テオ。軍の偉い人がこの依頼の責任者なんでしょ? どんな人かは聞いてるの?」

「いや、詳しくは聞いてないんだけど。クラウツさん……ギルドの職員の人は行けば分かるって言ってたんだ」


 テオはポリポリとほほを掻きながら、多くの人たちがいる場所に向かう。

 見る人、見る人、全員強そうに見える。

 立派な鎧や盾を持ち、魔石が付いた武器を装備している。『アーティファクト』と呼ばれる魔法が使える代物だ。

 男性は元より、女性も筋骨隆々の人が多い。 

 凄く強そうな人たちの中にいると、自分が場違いなところにいるように思えてしまう。しばらく歩いていると、一際大きな天幕が見えてきた。

 その前にはたくさんの騎士と思われる人たちがいる。テオは立ち止まり、ゴクリと唾を飲んだ。

 騎士団の中に、明らかに異質な鎧を纏う男性がいる。

 テオは緊張しながら歩み出て、男性に近づいた。


「あ、あの!」


 テオの声に反応して男性が振り向く。長い金髪をなびかせ、白銀の鎧を着たおごそかな騎士、というのがテオの印象だった。顎髭も金色で、とても格好良く、端正な顔立ちをしている。

 この人が魔獣討伐の責任者だということは、雰囲気ですぐに分かった。

 男性は見下ろす形で、テオに視線を向ける。


「君は?」

「パルキアの町から来ました。ライツと言います。後ろにいるのが、僕のパーティーメンバーです」


 後ろを振り向いてミアとウーゴを紹介し、再び視線を男性に戻す。


「ああ、君がパルキアから冒険者か。一組しか来ないとは聞いていたが……そうか、君たちか」


 どこか棘のある言い方に聞こえた。やっぱり子供だけのパーティーでは心配なんだろうか?


「私はブルノイア騎士団の副団長、ライアン・ホークだ。この討伐隊のリーダーを務めさせてもらう。ライツ、君たちを歓迎するよ。よろしく頼む」


 ライアンが右手を差し出してきたので、テオは慌てて握手を交わす。ガッシリとした手の力強さに、テオは安心感を覚えた。


 ――すごく強そうな人だな。この人と一緒に戦えるなら、討伐はすぐに終わるかもしれない。


 そんなことを考えていたテオに、ライアンは明るい笑顔を向けてくる。


「討伐は明日から始める。君たちは後方支援になると思うが、気は抜かないでくれよ。相手はなんと言っても、"神格獣"なんだからね」

「はい、もちろんです! 油断なんて絶対しません」


 元気に応えたテオに、ライアンは「その意気だ」と言ってほほを崩した。

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