第26話 嬉しい再会
テオたちは騎士団の人間に案内され、集落の端にある天幕に来ていた。
ここがパルキアの冒険者に用意された休憩所らしい。三人で中に入ると、寝袋が用意されている他にはなにもなくガランとしていた。
本当に休憩するためだけの場所らしい。
歩き続けて疲れたテオは、床に座って足を投げ出す。ミアも腰を下ろし、荷物を下に置いた。ウーゴは体が大きいせいもあり、この小さな天蓋では窮屈だろう。
足を伸ばすことなく、両膝を立て、肩をすぼめて床に座る。
「で、これからどうするの? テオ。討伐が始まるまでここで待ってるつもり?」
ミアが足を揉みながら聞いてくる。テオは「う~ん」と
「それしかないんじゃないかな。僕はギルドの依頼を一回しか受けたことないし、ミアとウーゴは初めてだからね。完全に初心者だよ。リーダーであるライアンさん言うとおりに動くしかない」
話を聞いたミアは、ハァーと溜息を吐く。
「どうしても受けたい依頼って言ってたのに、ずいぶん消極的なのね。例え初心者だって、できることはいっぱいあると思うけど」
「できること? 例えば?」
「情報の収集よ。討伐する魔獣の情報や、ここに集まった冒険者の情報。知ってる人がいるなら、一緒に戦うことだってできるかもしれないし」
「なるほど!」
テオは正座をして腕を組み、考え込む。パルキアの町から来た冒険者はテオたち三人だけ。そのため知り合いなどいないが……。
その時、テオはハッとする。
「あ!」
「なに? 急にどうしたの?」
突然声を上げたテオに、ミアは怪訝な顔をする。
「一人だけいるよ! 知り合いの冒険者が」
「え?」
◇◇◇
テオはミアとウーゴを引き連れ、天蓋の合間を歩いていた。
怖そうな冒険者を避けつつ、テオはキョロキョロと辺りを見回す。すると少し先にいた女性の冒険者がこちらを向く。
「ライツ! ライツじゃないか!」
満面の笑顔で近づいてきたのは、パルキアの冒険者アメリアだ。
パルキアのギルドでは今回の依頼を受ける冒険者がいなかったため、アメリアは別の街でパーティーを組んだとクラウツから聞いていた。
「やっぱりアメリアさん、今回の討伐に参加してたんですね」
アメリアは「ああ、そうなんだ」と言って微笑む。金色の髪が風になびき、銀色の鎧が陽光を反射していた。
腰に帯びた美しい装飾の剣が目につく。アメリアは優しげな表情でテオを見る。
「ボルゴンドの街まで行ってね。そこのギルドでパーティーに入れてもらえたんだ。あそこにいるのが、うちのパーティーだよ」
アメリアが指さした先には、五人の男女がいた。
屈強な戦士が二人、回復役が一人、弓を担いだアーチャーが一人、もう一人は『アーティファクト』の杖を持っている。
魔法を使って仲間を支援する魔術師だろう。
「皆さん、強そうですね」
「ああ、とても優秀な冒険者だよ。私のことも
アメリアはテオの後ろに目を向けた。
「その二人は、君のパーティーメンバーかい?」
「あ、はい。ミアとウーゴです。どうしても今回の討伐に参加したくて……なんとか集めた冒険者です」
「そうか」
アメリアはなんとも言えない複雑な表情をした。
「実は君を誘おうかどうか迷ってたんだ。実力的は申し分ないからね。ただ年齢を考えて見送ることにしたんだ」
「はい。その話はクラウツさんから聞きました」
「そうか、クラウツが君に話したか。あの時は断腸の思いで諦めたが……君はそんなに参加したかったんだね。やはり声をかけるべきだった。一緒のパーティーになれなかったことが残念だよ」
テオは「いえ、そんな」と首を横に振って謙遜する。
「結局は同じ討伐隊で戦えるんです。僕はアメリアさんがいて心強いですし、とても嬉しいです」
「そうか、そうだな。私も君と一緒に戦えることを光栄に思うよ。よろしくな、ライツくん」
「こちらこそ」
テオとアメリアはガッチリと握手を交わし、互いの健闘を祈った。
自分たちに
「はあー良かった。アメリアさんがいてくれて、凄い頼りになる人だからね。ミアとウーゴもすぐ親しくなれるよ」
と言って床に座り、足を投げ出して笑顔を見せる。
ウーゴは「そうだね。優しそうな人だったね」と満足そうに頷いて床に座った。
だがミアだけは立ったまま腕を組み、テオを見下ろしている。それに気づいたテオは、眉根を寄せ「どうしたの?」とミアに尋ねた。
「知り合いを見つけたのはいいけど。魔獣の情報収集はどうしたの? さっきの人に聞けば良かったじゃない」
「あ! すっかり忘れてた」
ミアは腰に手を当て、ぶすりとした表情でテオを睨む。
「まったく! 私たちはこのあと本当に危険な魔獣と対峙するのに、緊張感が足りてないんじゃない?」
「そう思ってるなら、さっき聞いてくれれば良かったじゃないか。アメリアさんだって、きっと答えてくれたよ」
「それは……その……初めて会った人だし、信用できるかも分からないし……」
モゴモゴと言うミアを見て、テオは「ああ、そうだ」と思い返す。
ミアは初対面の人間と気軽に話せるような性格ではない。元々は引っ込み思案で、親しい人間以外とはあまり話さないような子だ。
本来ならこんなところに来るようなこともなかっただろう。
「ごめん、ミア。そのことはまたあとで聞きに行こう。今日は疲れたから、ちょっと休まない? 討伐も明日からだって言ってたし。ウーゴも疲れただろ?」
「う、うん、ちょっとね。歩き続けたから、足が痛いかな」
テオとウーゴは天蓋内の隅に置いてあった寝袋を引っ張り出す。テオはすぐ寝袋に潜り込んで眠ろうとするが、ウーゴは体が大きすぎて寝袋に入らなかった。
それを見ていたミアは「もう」と呆れ、いくつかあった寝袋をウーゴの体にかけてあげる。
「ありがとう、ミア」
「うん、二人は寝てていいよ。私はしばらく起きてるから」
テオとウーゴはミアにお礼を言い、眠りについた。ミアは外の様子を気にしつつ、座って休んでいたが、やはり疲れは隠せない。
うつらうつらと
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