第20話 参加の条件

 イヴリンに話を聞いてから三日――

 テオは【神格獣討伐依頼】を受けるため、どこかのパーティーに入れないかと奔走した。最初に思いついたのは、アドラにお願いすることだ。

 冒険者の知り合いがいないテオに取って、アドラとその友人、ダンテは数少ない顔見知りだった。

 なんとか頼めないかと思ったが……。


「すまねえ、ライツ。その依頼は危険すぎるから受けないことにしてるんだ。ダンテも同じ意見だと思う」

「そう、ですか……残念ですけど、仕方ありません」

「悪いな。お前には借りがあるから、できれば手助けをしてやりてえんだが。こればっかりは命に関わる」

「いえ、いいんです。僕の方こそ無理を言ってすいませんでした」


 頼みの綱だったアドラに断られ、テオは肩を落とす。


 ――危険な依頼だってことはイヴリンさんも言ってたしな。無理に誘うことはさすがにできないし……。


 テオは次にアメリアに頼めないかと考えた。Bランク冒険者である彼女なら、この依頼も受けるかもしれない。

 一緒に戦いたいと言えば、嫌な顔はされないだろう。

 そう思ってクラウツに相談するのだが――


「アメリアさんですか? 彼女なら【神格獣討伐】に参加するために、ボルゴンドの街に行きましたよ」

「え!? ボルゴンドの街?」


 ボルゴンドはとても大きな街で、すごくにぎわっていると聞いたことがある。しかし、ここからはかなりの距離があった。


「どうしてアメリアさんはそんなところに行ったんですか?」

「この町のギルドでは【神格獣討伐】に参加する冒険者が見つからないからですよ。ボルゴンドなら大きなギルドがありますからね。パーティーを組むのは容易です」

「そうだったんですか……」


 テオはガッカリする。そんな遠くの街までは行けない。ギャロップの力を使っても、日帰りするのは無理だろう。

 仮に行けたとしても、アメリアはすでにパーティーを組み、参加登録してるかもしれない。

 登録が終わってしまえば、あとから追加メンバーを入れることはできないらしい。

 どうすることもできない、とテオは溜息をつく。

 きびすを返し、帰ろうとすると、クラウツが声をかけてきた。


「ただ、アメリアさんはライツさんを誘うかどうか迷っていましたよ」

「え? 本当ですか?」


 テオは立ち止まり、振り返ってクラウツを見る。


「ええ、アメリアさんはライツさんの強さを高く評価していましたからね。この神格獣の討伐に興味を持つなら誘ってみようかと」

「じゃあ、どうして誘ってくれなかったんですか!?」


 クラウツはあごに手を当て、なにかを考え込む。 


「……やはり、年齢を考えたのでしょう。ライツさんが子供であることは分かっています。アメリアさんが危険なこの依頼に、子供であるライツさんを巻き込みたくないと思っていたとしても不思議ではありません。もっとも、本人から直接聞いた訳ではありませんが……恐らくそうではないかと」

「……そうですか、分かりました」


 アメリアに悪気がないことは分かっている。むしろ心配してくれたことに感謝しないと。


「ライツさん。もし、どうしても依頼に参加したいのであれば、自分でパーティーを作られるのはいかがでしょう?」


 クラウツの意外な提案に、テオは目を丸くする。


「パーティーって、そんな簡単に作れるんですか?」

「Dランク以上の冒険者が三人いれば、登録は可能です。登録料は多少かかりますが、比較的簡単に作れますよ」


 パーティーを作るなど考えてもいなかったテオだが、クラウツの話を聞き、真剣に作ってみようかと思い始めた。


 ◇◇◇


 家に帰ってきたテオは、一人悩んでいた。討伐対象の魔獣は、北の鉱山に居座り、まだ移動していないようだ。

 とはいえ、いつ去ってしまうか分からないため、冒険者がある程度あつまり次第、現地に向かうだろう。

 つまり、急いで参加申請しないとこの依頼は締め切られてしまう。


「なんとか参加したいんだけどな……」


 テオはベッドに寝転がり、天井を見つめる。この討伐には是が非でも行きたい。その理由はいくつかあるが、もっとも大きいのは評価される基準だ。

 イヴリンに聞いた話では、この討伐依頼は公爵様直々の依頼であるため、成功すればギルドの評価も大きく上がるらしい。

 そうなればCランクへの昇格も、短期間で可能になる。

 ずっと成りたかったCランク冒険者。そのチャンスが目の前に転がっているなら、全力でつかみ取りたい。

 そして報酬の高さも魅力だ。

 参加しただけでレッドベア討伐より高い報酬がもらえる。そのうえ討伐に成功した場合には、追加の報酬もあるらしい。

 危険な依頼だけあって、破格の好条件だ。最後に、自分の力を試してみたいという思いもある。

 今回の魔獣がそれほど強いなら、

 興奮を抑えられないテオだったが、それは参加できればの話だ。

 このままでは参加することもできない。

 このままでは……。


「悩んでても仕方ないか」


 テオはベッドから起き上がり、部屋を出て玄関に向かった。外に出ると、すでに夕日が沈みかけている。


「急いでいかないと……」


 テオは裏山を上り、"木"がある場所を目指して走った。ここ最近は討伐依頼をどうしようかと奔走し、裏山には行けていない。

 久しぶりに木の元まで行くと、そこには予想外の光景があった。


「あ!」


 実がなっていたのだ。ゴツゴツとした形で、暗い灰色のような色。テオは一目で、それがなんの実か分かった。


「【アダマスの実】! 希少性星二つ!!」


 テオは興奮しながらも、実が自然に落ちるのを待った。アダマスの実は有名で、体を硬化させ、鋼の肉体となって戦うことができる。 

 この実を使った冒険者は戦場で活躍し、後に英雄と呼ばれた者も多い。

 そんな【実】が目の前にあるのだ。

 しばらくすると実は落下し、投網の中に入る。テオはアダマスの実を拾い上げ、大事そうに抱えて家に帰った。

 自分の部屋に入り、実を机の上に置いてジックリ観察する。


「使ってみたいけど……僕に使いこなせるだろうか? 希少性が星二つだから、けっこう扱うのが難しいだろうし」


 う~んと悩むテオだったが、ハッとあることを思いつく。

 机の引き出しに入れてあった【ウィンディーネの実】を取り出し、【アダマスの実】の隣に置いた。

 二つの実を交互に見て、テオは確信する。


「……この二つの実を使えば、神格獣の討伐に参加できるかもしれない!」

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