第14話 全開の能力

 風の如く走り、レッドベアのふところに飛び込む。鋭い爪が振り下ろされるが、テオは難なくかわし、相手の腹に斬撃を見舞う。

 テオが放つ流れるような剣筋に、レッドベアは手も足も出なかった。

 やはり剣の達人になれる【クリュサオルの実】の効果は確実に出てるようだ。テオは魔獣が炎に包まれるのを確認してから、次の魔獣に向かう。


「あと五頭!」


 冒険者を襲っていたレッドベアの腕を斬りつけ、こちらに顔を向けた瞬間、首筋にも一撃を入れた。

 レッドベアは腕と首が燃え上がり、一気に火だるまになる。

 それでもすぐには死なず、テオを睨み付けて噛みつこうとしてきた。だが、テオの体に触れることはできない。

 テオの体はゆらりと揺れるだけで、傷一つ付けられない。レッドベアは恨みがましそうに唸りながら、炎に包まれ絶命した。


「あと四頭だな」


 テオはふぅーと息を吐いてから、ギャロップの能力を使って高速で移動する。

 絶叫しながら向かってくる魔獣の鼻先を斬りつけた。頭が燃えたレッドベアは二足で立ち上がり、悶え苦しむ。

 テオは無防備になった魔獣の腹に、さらに二度斬りつけた。

 レッドベアはあっという間に燃え上がり、七転八倒してから力尽きる。


「あと三頭……あっ!」


 テオが辺りを見渡すと、三頭のレッドベアは一目散に逃げ出していた。仲間がやられ、危険を感じたのだろう。

 依頼達成のため、逃がす訳にはいかない。

 テオは全力で走り、二頭のレッドベアより前に出る。魔獣は驚愕して足を止めた。

 テオは振り向きざま美しい剣閃を描き、二頭のレッドベアを斬りつける。一瞬で青い炎は体毛を駆け、魔獣を包み込む。


「あと一頭!!」


 そう思ったが、残りの一頭は逆方向に逃げていった。ここから追いつくのはかなり骨が折れる。

 それでも――


「うおおおおおおおおお!」


 ギャロップの能力を最大限引き出す。

 くるぶしから噴き出す炎が火力を増し、途轍もないスピードで森を走った。だが、あまりの速さに足がもつれそうになる。


「あともうちょっと! もってくれよ、僕の足」


 木々の合間を抜け、低木を飛び越え、大きな岩を回り込む。逃げたレッドベアの背中が見えてきた。

 テオは追い抜きざま、手に持った短剣を薙ぐ。

 魔獣の肩をかすっただけだが、青い炎がチリチリと燃え移る。レッドベアは炎に包まれ、絶叫しながら地面に伏せる。

 テオは足を止め、燃える魔獣を見やった。ゴロゴロと転がって火を消そうとしているが、一度火が付けば簡単には消えない。

 燃やすことができた時点で、勝敗は決したのだ。

 レッドベアは次第に動かなくなり、絶命した。

 テオはハァハァと肩で息をし、振り返って短剣を鞘に収める。みんなの元にいかないと。

 テオはゆっくり、来た道を戻って行った。


 ◇◇◇


 アメリアは班のメンバーを引き連れ、急いで森の北に向かっていた。

 通信用の魔道具から聞こえてきたのは、すでに魔獣に襲われ、パニックに陥った冒険者の声だった。

 戦わないように注意していたが、恐らく、ふいを突かれたのだろう。

 急がなければ間に合わない。アメリアはグッと下唇を噛んだ。


「頼む……無事でいてくれ」


 大きな木を回り込み、生い茂った草花をかき分け、さらに走る速度を上げて深い森を進んでいく。


 ――この辺りのはずだが。


 アメリアが注意深く周囲を警戒していると、遙か先に青い光が見えた。

 最初はなんなのか分からなかったが、近づくにつれ、それがなにか理解できた。


「人……? 人が光っているのか?」


 目をらして見れば、それは間違いなく人が放つ光。全身が青く輝くその人物は、短剣を持った男のようだ。北の捜索に行った班のメンバーだろう。

 恐ろしいスピードで駆け回り、レッドベアを攻撃していた。

 無駄のない太刀筋。軽く斬りつけただけに見えたが、レッドベアは炎に包まれ、悶え苦しんでいた。


「能力者か」


 アメリアは走りながら辺りを見回す。所々に青い炎で燃えている魔獣の死骸があった。

 あの人間がやったのか。アメリアは思考を巡らす。


 ――あんな冒険者がメンバーにいただろうか? 有名な能力者なら私が知らないはずがない。


 本来、能力者は珍しいため、ギルド内でも有名になるのが普通だ。それなのに無名だというなら、ごく最近能力者になったのだろうか?

 短剣を持った男は最後のレッドベアを仕留め、その場に立ち尽くしていた。

 アメリアは走るのをやめ、ゆっくりと歩いて男に近づく。かなり小柄に見えた。

 男の体に灯った青い光は徐々に消えていく。炎系の能力だろうが、青い炎を使う能力というのは、見たことも聞いたこともない。

 アメリアは一呼吸置いて、目の前の男に声をかけた。


「おい、君。君がレッドベアを全て倒したんだろ? 名前を教えてくれないか」


 問いかけに反応し、男が振り返る。アメリアは思わず「えっ」と声を発した。

 目の前にいる人物が、明らかに子供だったからだ。

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