第13話 対魔獣戦

 体長三メートルは優にあろうレッドベアは、のっそのっそとこちらに向かって歩いてくる。

 テオはその威圧感にゴクリと息を飲んだが、気圧されたのは他のメンバーも同じだった。冒険者たちは誰もが恐れおののき、あとずさっている。

 それを見たスキンヘッドの男は、鬼のような形相で仲間を睨み付けた。


「バカ野郎! 相手はたった一頭だぞ。こんだけ冒険者がいて、倒せない訳ねえだろう!!」


 男の発破を受け、冒険者たちは後退をやめ武器を構える。


「そ、そうだ! 一頭ぐらい、たいしたことねえ!!」

「おお! ぶっ殺してやるぜ!」


 男たちは息巻き、鼻息荒く前進する。だが、テオは嫌な予感がしていた。レッドベアは群れで行動すると聞いていたからだ。

 だとしたら――


「お、おい、あれって……」


 冒険者の一人が指さす先、木々の合間に二頭のレッドベアがいた。さらに別方向の岩陰からは、三頭のレッドベアが出てくる。


「囲まれてるぞ!!」 


 いつの間にか十頭以上のレッドベアが周囲にいた。気づかないうちに、敵のテリトリーに入っていたようだ。

 テオは腰にたずさえていた短剣を抜く。

 他の冒険者たちも武器を握り締め、緊張した面持ちで切っ先を相手に向けた。

 レッドベアはゆっくりと、しかし確実に距離を詰めてくる。

 剣を構えていたスキンヘッドの男は、ハッとして懐から通信用の魔道具を取り出した。


「すぐに助けを呼ばねえと!」


 男は慌てながら魔道具に付いた赤い宝石を強く押し、大声で助けを求める。

 それを見てテオは顔をしかめた。

 この状況で助けが間に合うとは思えない。自分たちで打開するしかないんだ。自分たちで!

 テオがそう思った瞬間、レッドベアたちは腰を落とし、一斉に駆け出した。

 テオは覚悟を決め、正面から来るレッドベアを睨む。


 ――まずはこいつから!!


 両足のくるぶしから赤い炎が噴き出す。一歩踏み込むと地面が爆散し、テオは高速で大地を駆ける。

 レッドベアと衝突する刹那、ファントム・フェニックスの能力を解放した。

 持っていた短剣に青い炎が灯り、足から出ていた炎も青く染まる。全身が青く輝き、

 レッドベアは凶暴なキバで噛みつこうとする。だが、テオの体はゆらゆらと揺らめき、レッドベアのあごをすり抜ける。

 敵の背後に回ったテオは、振り向きざま短剣を横に薙いだ。

 レッドベアの背中に、ほんのわずかな傷が入る。それだけではとてもダメージを与えたとは言えない、ただのかすり傷だ。

 だが、傷口から火花が散って一気に燃えていく。

 体毛に青い炎が広がり、レッドベアは火だるまとなった。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 絶叫と供に魔獣は地面に倒れ、悶え苦しみながら転げまわり、次第に動かなくなった。テオは改めて青い炎の恐ろしさを知る。


「本当に通用するんだ……【幻影の不死鳥ファントム・フェニックス】の力は」


 テオは青く輝く自分の体に感心するが、周りを見てそれどころでないことに気づく。

 他の冒険者はレッドベアに苦戦し、次々と倒されていた。ある者は腕を食いちぎられ、ある者は地面に押さえつけられている。

 唯一まともに戦っているのは、班長であるスキンヘッドの男だけ。

 それでも二頭のレッドベアに追い込まれていた。

 テオは【ギャロップ】の力を使って、高速で大地を駆ける。

 短剣を構え、冒険者に襲いかかる二頭を連続で斬りつけた。斬撃によるダメージはない。だが――


「「ガアアアッ!!」」


 二頭は断末魔の声を上げながら、青い炎に包まれ絶命した。


「これで三頭! まだ行ける!!」


 冒険者に覆い被さるレッドベアに迫り、その背中を斬りつけた。テオはそのまま走り抜け、チラリと後ろを見やる。

 レッドベアは燃え上がっていたが、近くにいた冒険者に火は移らない。

 やはり、任意の対象だけしか燃えないんだ。テオは安心して他の魔獣に向かった。


 ◇◇◇


 スキンヘッドの男、アドラは息も絶え絶えになっていた。

 レッドベアの鉤爪で右腕と左足は血だらけ、立っているのもやっとの状態だ。アドラは剣を構えながら、したたひたいの汗をリストバンドでぬぐう。


 ――くそっ! レッドベアが強いのは分かっていたが……数が多すぎる!


 アドラは魔獣と正対しながら、ゆっくりと後退し、どうすべきか逡巡していた。

 その時、レッドベアの後ろからなにかが迫ってくるのが見えた。青く輝く人間が、こちらに向かってくる。


「なんだ!?」


 間近まで迫って、それが誰か分かった。あのガキだ。

 ライツとか名乗っていたDランク冒険者。足手まといにしかならないと思っていたガキが恐ろしい速度で走ってくる。

 なにがなんだか分からないうちに、ガキは二頭のレッドベアを斬りつけた。

 ガキは反転し、別の場所へと走っていく。一体なんなんだ? と思っていると、目の前のレッドベアは突然燃え上がり、魔獣がのたうち回って地べたを転がる。

 しばらくして魔獣は動かなくなった。

 信じられないほどの火力。炎の魔法か? と思うものの、こんな攻撃は見たことがない。


「……まさか、あいつ能力者なのか!?」


 アドラは驚愕し、森を走り抜けるガキを見つめた。

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