第18話 未知の脅威
「う~ん……ないな」
テオは学校が休みの日を利用して、パルキアの町に来ていた。
ギルドの掲示板にある依頼書を見るためだ。魔獣討伐などの依頼がないかと期待していたが、Dランクでできるものはない。
あるのは素材採取や護衛依頼、逃げ出した家畜の捜索依頼など。
「やっぱりDランクだと、受けられる依頼も少ないな」
テオが顔を曇らせていると、背後から声がかかる。
「気に入った依頼はないみたいね」
振り返ると、そこにいたのは赤髪をポニーテールにした若い女性。このギルドの受付嬢、イヴリンさんだ。
「え、ええ、この前みたいな依頼はないかな、って思ってたんですけど……」
「ああ、レッドベアの討伐依頼だね。確かに魔獣の討伐依頼は少ないし、Dランクから募集がかかるような依頼はもっと少ないよ。前回のはかなりレアケースだね」
「そう、ですよね」
テオはがっくりと肩を落とす。レッドベアを倒したことで、ギルドでの評価は上がったらしい。
この調子でガンガン依頼をこなし、早くCランクに上がりたかったのだが。
「イヴリンさん、DランクからCランクに上がるのって、どれぐらいの期間がかかりますか?」
「う~ん、そうね。早い人なら三年ぐらいでランクアップできるよ」
「さ、三年!? そんなにかかるんですか……」
思っていた以上に大変みたいだ。かなり楽観的に考えていたが、そんなに甘くなかった。
「ライツ君は早く昇格したいの? なにか急ぐ理由があるとか」
「あ、いえ。ただ僕は冒険者としてやっていきたいんで、最低でもCランクになっておかないと、周りの人も認めてくれないだろうし」
イヴリンは納得したように頷き、明るい笑顔をテオに向けた。
「確かに、冒険者はCランクからが一人前って言われてるし、専業でやっていくなら、最低でも必要なランクよね」
イヴリンの言うとおり、認められるのはCランクからだ。
テオはCランクになることができたら、将来、冒険者になりたいと祖父や母親に言うつもりだった。
――でも三年もかかるんじゃ、だいぶ先になりそうだな。
「まあ、もしDランクの冒険者でもできる魔獣討伐があったら、なるべくライツ君が受注できるようにしておくよ」
「え? そんなことできるんですか?」
イヴリンはフフンと言って腕を組む。
「まあね。最終的に依頼をどの冒険者に割り振るかは、ここの責任者であるクラウツさんが決めるけど、ライツ君なら優先して依頼を回してくれるよ」
「僕なんかのために、そんなことしてくれますかね?」
半信半疑のテオに対し、イヴリンは「もちろん!」と自信有り気に微笑んだ。
「だってライツ君、腕っぷしには自信があるんでしょ?」
「え、あ、まあ……多少は」
かなり期待されているようだ。テオは少々のプレッシャーを感じながら、この日は帰ることにした。
◇◇◇
山の稜線に日が沈んでいく。
パルキアの町から戻ったテオは、家の近くにある原っぱで剣を振っていた。
「332……333……334」
買ったばかりのショートソードを手に、素振りを繰り返す。
木剣より重いため、手にできるマメは増え、潰れて血が滲んでいた。それでもテオは手に布を巻き、剣の練習を続ける。
神獣の実の能力を使いこなすためだ。
夢中になって剣を振っていたため、いつの間にか辺りは暗くなっていた。
「今日はこのくらいにしておこう」
テオは剣を鞘に収め、近くの木に立てかける。家に持って帰り、万が一にでも母親に見つかったら大変だ。
テオが冒険者になることを、一番反対しているのが母親だからだ。
家に帰ったテオは夕飯を食べ、風呂に入ってから自分の部屋に戻った。
勉強机の前にある椅子に腰を下ろし、引き出しを開ける。そこには青く美しい【実】が入っていた。
「まだ大丈夫だな。特に痛んでる様子もないし」
テオは安心して引き出しを閉める。
ギルドの依頼も大事だけど、これをなんとかするのが直近の問題だ。もっとも価値のある【神獣の実】。
自分が使えない以上、売るか、もしくは誰かに使ってもらうしかない。
どうしたものか……テオは答えが出せず、悶々と悩んでいた。
◇◇◇
パルキアの町から北に二十キロ――
ブルノイア公爵領にある炭鉱で、大きな爆発が起きていた。
「おい、魔獣だ! 炭鉱の入口が潰されたぞ!!」
「衛兵がやられた! ここももうもたない!」
「に、逃げろ! 逃げろおおおお!!」
人々が逃げまどう中、その魔獣は炎と煙の向こうに
炭鉱を守るために派遣された公爵領の兵士は全滅。炭鉱の作業員と合わせて数百人の死者を出した。
その惨状は、すぐさまブルノイア公爵に報告される。
「突然現れた魔獣によって、多くの者が殺されたそうです。衛兵も食い止めることができず……申し訳ございません」
執務室で頭を垂れたのは、公爵領の騎士団団長、オッペン。対面の机に座っていたブルノイア公爵は深い溜息をつく。
「起こってしまったことは仕方がない。それで、その魔獣は例の個体なのか?」
オッペンは苦々しい顔になり、
「生き残った者たちの話を聞く限り……その可能性が高いかと」
ブルノイアは椅子に深く寄りかかり、指を組んでなにかを考え込む。
しばしの時間が過ぎ、黙ったまま直立するオッペンの頬に汗が伝った時、ブルノイアは静かに口を開いた。
「ギルドに依頼を出せ。【神格獣・デルピュネー】を倒すため、周辺の冒険者を集めるのだ!」
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