第3話 小さな芽
穴を抜けて五分ほど走ると、昼間に発見した"木"が見えてきた。
白く綺麗な幹の小さな木。
テオは木に近づき、じっくりと観察する。葉っぱや実は一つもなく、冬の樹木のように
木の前にある丸い池。そのほとりでテオは立ち止まる。
しゃがんで手提げ袋を地面に置き、中から
テオは網を広げ、池の上に被せるように敷いていく。手提げ袋からいくつもの杭とトンカチを取り出し、杭で網の端を打ち付けていった。
「これで良し、と……」
網の周りを八本の杭で打ち、網がズレないようにする。これなら【実】が落ちても、沈んでいくことはないだろう。
テオは額の汗を
この木に他の【神獣の実】が成るかどうかは分からない。ひょっとしたら【ギャロップの実】しか成らない木かもしれない。
世界中には【実】が成る木が一本づつあって、それがたまたま見つかっていないだけかもしれない。
なんといっても【神獣の実】に関することは、ほとんど分かっていないのだ。
テオはトンカチを手提げ袋の中に入れ、立ち上がって膝の汚れを払う。
「まあ、神獣の実が簡単に手に入るとは思えないけど……もしもってこともあるし、対策はしておかないと」
テオは木を
神獣の実を人が食べると、その人間は【能力者】と呼ばれるようになる。能力者が生きている間は、その能力と同じ【神獣の実】が見つかることはない。
つまりテオが生きている限り、【ギャロップの実】が成ることはないということ。
仮にこの木が【神獣の実】が成る木だったとしても、早々に実が成ることはないだろう。そんなことを考えつつ、テオは山道を戻っていった。
◇◇◇
夜。夕食を囲んでいたのは、テオと祖父、そして母親の三人だ。
「テオ、なんで先に帰ったんじゃ? せっかく狩りの仕方を教えようと思ったのに」
「ごめん、じーちゃん。ちょっとやらなきゃいけない宿題を思い出して……」
「そうなのか?」
祖父が不満そうに眉根を寄せる。
「お父さん、今日のテオは変だったんですよ。家を出たり入ったりして」
母親が口を尖らせた。
大きな体の祖父は「宿題をやっとったんじゃないのか?」とジロリと睨んでくる。
テオはしどろもどろになりながらなんとか誤魔化し、夕食のシチューを「おいしいね!」と言って口に掻き込んだ。
◇◇◇
翌日、テオはリュックを背負ってあぜ道を歩いていた。
学校に行くためだ。この村には小さな学校があり、村の子供(六歳から十六歳まで)は全員通っている。
しばらく歩いていると、遠くから「お~い」と大きな声が聞こえてきた。
「ウーゴ!」
別のあぜ道からどっしんどっしんと走って来たのは、友達のウーゴだ。
テオと同じ十三歳だが、体は大人より大きく、力持ちで有名だった。性格はとてもやさしく、学校では人気者だ。
「テオ~おはよ~う。一緒に行こうよ」
「うん、一緒に行こう」
二人は並んで歩き、二キロほど先にある学校を目指した。校舎に辿り着き、教室に入ると青い髪の女の子が声をかけてくる。
「おはよう。テオ、ウーゴ」
ウーゴと同じように小さい頃からの友達、ミアだ。学校で一番頭が良く、よく勉強を教えてもらっていた。
「おはよう、ミア」
「お、おはよう」
挨拶してテオとウーゴは席に着く。この教室には、比較的年齢の近い子供が十人ほどいる。
元々、子供の少ない村であるため、学校全部の子供を合わせても五十人ほどしかいない。テオはいつもと同じように授業を受け、みんなと一緒に昼食を取り、夕方には帰路についた。
一緒に帰り道を歩いたウーゴに別れを告げ、テオはその足で山に向かう。
やはり、どうしてもあの木のことが気になってしまう。気づいた時には駆け足になり、山を登っていた。
大きな木の根元にある穴を見下ろし、一呼吸してから中に入って暗い内部を進む。
穴を出て山間を走り、あの木の元まで辿り着く。木をマジマジと見つめながら周囲を歩くと、枝の一つに目が止まった。
「あ! これって」
よく見れば、枝から小さな芽が出ている。
「これ……また【神獣の実】になるんじゃ……」
断言はできないものの、実になる可能性はある。テオは定期的に確認しようと心に決め、その日は帰ることにした。
それから三日。テオは学校に通いながら山に入り浸り、枝になった芽を観察していた。芽は少しづつ大きくなり、実のような形になってくる。
テオは期待を膨らませていた。この木に新しい【実】が成るなら、ギャロップの実であるがずがない。
新しい【神獣の実】がきっと成るんだ。
さらに二日が経つと、枝に成った芽は完全に【実】となってぶら下がっている。
しかも【実】は二つも成っていた。どちらも形や色が違う。ここまでくると間違いないだろう。テオは確信した。
これは【神獣の実】が成る木だ。
世界中の人々が憧れ、追い求める伝説の木。それがこんなところにあるなんて。
信じられない気持ちと同時に、嬉しさが込み上げてくる。
これが伝説の木なら【ギャロップの実】以外の【神獣の実】も手に入るということ。それは、テオがずっとほしいと思っていた物でもある。
「ああ~、早く実が下に落ちてこないかな」
待ちきれない気持ちを抑えつつ、テオは
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