第16話 新しい武器

「どうだ? うまいだろ、ここの料理は」


 ハハハと笑いながら酒をがぶ飲みするアドラを前に、テオは出された料理に舌鼓を打っていた。

 今いるのはパルキアの町にある酒場。

 料理もなかなかいけるんだよ、とアドラにつれてこられていたのだ。アドラの隣には赤い短髪の男、ダンテも同席していた。

 二人は同じCランク冒険者で、よく一緒に依頼をこなす仲らしい。

 今回のレッドベア討伐依頼にも参加していたものの、班が別々になったため、ダンテはテオの活躍を見ていない。


「いや、やっぱり今でも信じられんな。こんなちっこいガキがレッドベアを全滅させたなんて」


 ダンテはそう言って酒の入ったジョッキをあおり、プハーと息を吐く。

 それを聞いたアドラは「ガキなんて呼ぶんじゃねえ!」と息巻いていた。


「俺はこいつのおかげで助かったんだ。命の恩人ってヤツだ」

「はぁーすげえな。あんた【能力者】なんだろ? なんの【実】を食ったんだよ」


 ダンテが酒瓶を片手に聞いてくる。テオはなんと答えようか困った。

 ギャロップの実は世に知られた【神獣の実】だが、ファントムフェニックスの実は誰も知らないはずだ。

 ましてや、どこで手に入れたなど聞かれると厄介。そう考えたテオは、答えを濁すことにした。


「能力については、話さないことにしてるんです。すいませんけど」


 ダンテの隣で聞いていたアドラは「そりゃそうだ」と首肯する。


「自分の能力を他人に明かすのは悪手だ。よほど有名な冒険者以外、普通は能力については語らねえからな」


 ダンテも「確かに」と納得して酒をあおった。アドラはフフと微笑み、テオに視線を向ける。


「それはともかく。なにか困ったことがあれば俺に言えよ。これでもベテランの冒険者だ。お前が冒険者としてやっていくなら、けっこう役に立つアドバイスができると思うぜ」


 酒で赤ら顔になるアドラを見て、テオは確かにそうだな、と思う。

 自分はまだ右も左も分からない駆け出しの状態。相談できる相手がいるなら、それに越したことはない。

 テオはアドラに視線を向けた。


「じゃあ、一つお願いがあるんですけど」

「おう、なんだ? なんでも言ってくれ」


 アドラは嬉しそうに答えた。


 ◇◇◇


「わあ、ここがパルキアの武器屋ですか!」


 テオはキラキラと目を輝かせ、店内を見回した。ロングソードやゴツい盾、重厚な斧や槍などが壁に飾られている。

 冒険者に憧れていたテオに取って、武器屋や防具屋は来てみたい場所ナンバー1だった。


「この町に武器屋はここしかねえが、なかなか品揃えはいい方だと思うぜ」


 テオは目の前の台に置かれた剣に目を落とす。美しい装飾が施された豪奢な剣だ。

 ほしい! と思うものの、値札を見れば金貨二枚。とても手が出る額じゃない。


「なんだ、アドラじゃないか。武器を買い換えに来たのか?」


 店の奥から銀髪の男が出てくる。この店の店主のようだが、冒険者より筋肉質で、がっしりした体格をしていた。


「俺じゃねえよ。こいつに合う剣を買いに来たんだ」


 アドラはテオの肩を叩く。それを見た店主は眉根を寄せた。


「子供じゃないか。剣なんぞいらんだろう」


 不服そうに顔をしかめる店主に、テオは気後れしてしまう。やはり冒険者を相手にしている商売だけあって、店主自身もかなり迫力がある。

 とはいえ、剣はどうしても必要だ。

 テオは勇気を振り絞って一歩前に出た。


「あ、あの! 僕、冒険者なんです。自分に合う剣がほしくて……」


 店主は「冒険者?」と言って渋面をする。確かにこんな子供が冒険者と名乗っても、にわかには信用できないだろう。

 店主はチラリとアドラを見るが、アドラは腕を組み、黙ったまま微笑んでいた。

 店主はハァと息を吐き、不承不承といった感じでテオの前まで歩いてくる。


「手を見せてみろ」

「あ、はい!」


 テオは右手を前に出す。その手をつかんだ店主は、手や腕を色々触ったり、隅々まで観察し始めた。

 三分ほど眺めてから、店主は口を開く。


「とても冒険者の手には見えんが……しかし剣の稽古でできたマメや擦り傷が所々に確認できる。それなりに訓練は積んでるようだな」


 店主は振り返り「まあ、いいだろう」と言って店の奥に入っていった。

 しばらくして出てくると、その手にはやや短い【剣】が握られていた。その剣をカウンターの上に置き、テオを呼び寄せる。


「こいつはショートソードだ。成人した男に取っちゃぁ物足りないが、あんたの体格ならこれが丁度いいはずだ」


 テオは店主からショートソードを受け取ると、マジマジとその剣を見つめた。

 手にしっくりと馴染み、丁度いい重さ。剣身は美しく、とてもいい作りに思えた。アドラに視線を向けると、ニヤッと笑い頷いている。

 この剣でいということなのだろう。


「これを買います。いくらですか?」

「銀貨一枚と銅貨三枚だ」

「分かりました。じゃあ、これで」


 テオは布袋から硬貨を取り出し、支払いを済ませる。立派な皮のさやをもらい、剣を腰に装備した。


「うわ」


 やはり短剣とは訳が違う。一気に冒険者っぽくなったな、とテオは満足気にショートソードのグリップを撫でる。

 そのあとアドラの案内で防具屋も回り、簡易な皮の鎧も買った。

 アドラの口利きもあって少しおまけしてもらい、予算内で全て買うことができた。

 見てくれだけはそれなりの冒険者に見えるんじゃないだろうか。

 テオに取っては、まさに大満足の一日となった。

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