第7話 パルキアの町

 それから数日、テオは【幻影の不死鳥ファントム・フェニックス】の能力を細かく検証しすることにした。

 炎を全身にともし続ければ、一日十分ほどしか使えない。だけど一度炎を消し、再び火を灯して使うこともできた。

 これなら戦う時だけ能力を発動すればいい。

 節約しながら使うのであれば、実戦ではかなり役に立つだろう。

 テオは学校に通いつつ、家に帰っては『能力』を使いこなす練習を繰り返した。

 制約型である【幻影の不死鳥ファントム・フェニックスの実】はすぐに使えるようになったものの、【ギャロップの実】や【クリュサオルの実】は簡単にはいかない。

 何度も発動しては能力に振り回され、転んだり、木にぶつかったりと散々な目に遭った。それでもテオはめげず、筋トレなどを行って体を鍛える。

 クタクタになりながら学校に通っていたため、疲れすぎて授業中に寝てしまう。

 先生にこっぴどく怒られ、廊下に立たされることもしばしば。

 そんなテオを心配したミアが声をかけてくる。


「最近、どうしたの? 寝てばっかりで……ちゃんと授業についていけてる?」

「あ、いや、ちょっと寝不足なだけだよ」

「授業で分からないところがあるなら、私が教えてもいいけど」


 親切に言ってくれるミアの心遣いは嬉しかったものの、家に帰って『能力』の練習をしなきゃいけない。ここで時間を使う訳にはいかない。

 テオは「大丈夫、大丈夫。ちゃんと家で勉強するから!」と答え、小走りで学校をあとにした。


 その後もウーゴからの「遊びにいこうよ」という誘いも断り、じいちゃんからの狩りの誘いも断った。

 テオはひたすら『能力』の練習に明け暮れる。

 定期的に【神獣の実】が成る木を見に行ったが、あれから【実】が成る気配はまったくなかった。やはり、そんな簡単には成らないようだ。

 そして一ヶ月後――


「よしっ! だいぶ使えるようになってきたぞ」


 いつもの原っぱで、テオは自信に満ちた表情をしていた。

 手に持っている角材を見る。元々、長い木の端材だったが、小型のナイフでこつこつと削り、今は剣のような形になっていた。

 見てくれの悪い"木剣"だが、テオに取っては冒険者を目指すための大事な武器だ。

 その木剣を両手で持ち、正眼に構える。意識を集中して、全身の力を抜く。

 次の瞬間――テオの体に"青い炎"が灯った。両足のくつぶしからも炎が噴き出す。今までのような赤い炎ではなく、全身と同じ青い炎がメラメラと燃えていた。

 わずかに身を屈めて踏み切ると、地面は爆発したかのように土くれが舞う。

 テオは凄まじい速度で空き地を走り抜け、一本の木に向かった。高さ七メートルほどの広葉樹で、たくさんの葉が生い茂っている。

 テオは木と交差する刹那、木剣でみきを打った。

 衝撃で上から何枚もの葉が落ちてくる。テオは反転し、落下する葉に向かって剣を振るう。

 流れるような剣閃。

 テオの体がブレることはなく、また足がもつれることもなかった。

 数十枚の葉は全てまっぷたつになり、青い炎に焼かれて消滅する。テオは剣を振り、満足気に微笑む。

 剣を握り続けた手は豆だらけになり、【ギャロップの実】を使って走り続けた足は靴擦くつずれで血が滲んでいた。

 一ヶ月間、練習しすぎて体はボロボロになっていたが、テオの顔を晴れやかだ。


「これだけ『能力』が使えれば、冒険者として通用するんじゃないかな?」


 テオは自分が身につけた力を、実際に使ってみたいと思うようになっていた。

 今は誰の目にもつかない原っぱで練習しているだけ。冒険者になるためには、実際に行動を起こさないと。

 テオは西の空を見た。夕日が稜線に沈もうとしている。


「もうこんな時間か……家に帰らなきゃ」


 テオは静かに決意していた。村から少し行った場所に『パルキアの町』がある。

 そこには冒険者を雇うギルドがあり、腕の立つ者を集めているらしい。自分の実力を知るには丁度いいかもしれない。

 テオは学校が休みの日、『パルキアの町』に行くことにした。


 ◇◇◇


「テオ、どこに行くの?」


 大きなリュックを担ぎ、玄関にいたテオに母親が声をかける。


「ちょっと出かけてくるよ。夜には帰るから」

「夜って……どこか遠くに行く気なの?」


 母親は心配そうに見てくるが、テオは構わず靴を履いてつま先をトントンと叩き、リュックを担ぎ直した。


「うん、でも日帰りできる範囲だよ。心配しないで」


 テオは扉を開け、外に飛び出す。母親がなにか叫んでいたが、テオは聞こえないふりをして走った。

 田んぼの畦道あぜみちを進んで民家の脇を抜け、村の端まで来る。

 ここから『パルキアの町』まで、けっこうな距離がある。馬車を使うならまだしも、歩いて日帰りできる距離じゃない。


「だけど、この"力"があれば」


 テオは足に意識を集中する。グッと屈んで一気に駆け出した。

 足のくるぶしから炎が噴き出し、凄まじい速さで街道を進む。田舎の道だけに、ひとっこ一人いなかった。

 これなら誰かに見られる心配もない。

 テオが全力で走り続けた結果、馬車で移動するより遥かに早く町に到着することができた。


「ハァ、ハァ……疲れたけど……なんとか来れた」


 手の甲でひたいの汗をぬぐい、息を整えて町の中に入る。村とは比べものにならないほど人の往来があり、辺りは活気に満ちていた。

 大きな民家や商店、屋台などが立ち並ぶ。

 しばらく行くと、四階建ての立派な建物が見えてきた。

 入口からは屈強な男たちが出て来る。どうやら目的の場所に着いたようだ。


「ここが……パルキアの冒険者ギルド!」

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