第7話 パルキアの町
それから数日、テオは【
炎を全身に
これなら戦う時だけ能力を発動すればいい。
節約しながら使うのであれば、実戦ではかなり役に立つだろう。
テオは学校に通いつつ、家に帰っては『能力』を使いこなす練習を繰り返した。
制約型である【
何度も発動しては能力に振り回され、転んだり、木にぶつかったりと散々な目に遭った。それでもテオはめげず、筋トレなどを行って体を鍛える。
クタクタになりながら学校に通っていたため、疲れすぎて授業中に寝てしまう。
先生にこっぴどく怒られ、廊下に立たされることもしばしば。
そんなテオを心配したミアが声をかけてくる。
「最近、どうしたの? 寝てばっかりで……ちゃんと授業についていけてる?」
「あ、いや、ちょっと寝不足なだけだよ」
「授業で分からないところがあるなら、私が教えてもいいけど」
親切に言ってくれるミアの心遣いは嬉しかったものの、家に帰って『能力』の練習をしなきゃいけない。ここで時間を使う訳にはいかない。
テオは「大丈夫、大丈夫。ちゃんと家で勉強するから!」と答え、小走りで学校をあとにした。
その後もウーゴからの「遊びにいこうよ」という誘いも断り、じいちゃんからの狩りの誘いも断った。
テオはひたすら『能力』の練習に明け暮れる。
定期的に【神獣の実】が成る木を見に行ったが、あれから【実】が成る気配はまったくなかった。やはり、そんな簡単には成らないようだ。
そして一ヶ月後――
「よしっ! だいぶ使えるようになってきたぞ」
いつもの原っぱで、テオは自信に満ちた表情をしていた。
手に持っている角材を見る。元々、長い木の端材だったが、小型のナイフでこつこつと削り、今は剣のような形になっていた。
見てくれの悪い"木剣"だが、テオに取っては冒険者を目指すための大事な武器だ。
その木剣を両手で持ち、正眼に構える。意識を集中して、全身の力を抜く。
次の瞬間――テオの体に"青い炎"が灯った。両足の
わずかに身を屈めて踏み切ると、地面は爆発したかのように土くれが舞う。
テオは凄まじい速度で空き地を走り抜け、一本の木に向かった。高さ七メートルほどの広葉樹で、たくさんの葉が生い茂っている。
テオは木と交差する刹那、木剣で
衝撃で上から何枚もの葉が落ちてくる。テオは反転し、落下する葉に向かって剣を振るう。
流れるような剣閃。
テオの体がブレることはなく、また足が
数十枚の葉は全てまっぷたつになり、青い炎に焼かれて消滅する。テオは剣を振り、満足気に微笑む。
剣を握り続けた手は豆だらけになり、【ギャロップの実】を使って走り続けた足は
一ヶ月間、練習しすぎて体はボロボロになっていたが、テオの顔を晴れやかだ。
「これだけ『能力』が使えれば、冒険者として通用するんじゃないかな?」
テオは自分が身につけた力を、実際に使ってみたいと思うようになっていた。
今は誰の目にもつかない原っぱで練習しているだけ。冒険者になるためには、実際に行動を起こさないと。
テオは西の空を見た。夕日が稜線に沈もうとしている。
「もうこんな時間か……家に帰らなきゃ」
テオは静かに決意していた。村から少し行った場所に『パルキアの町』がある。
そこには冒険者を雇うギルドがあり、腕の立つ者を集めているらしい。自分の実力を知るには丁度いいかもしれない。
テオは学校が休みの日、『パルキアの町』に行くことにした。
◇◇◇
「テオ、どこに行くの?」
大きなリュックを担ぎ、玄関にいたテオに母親が声をかける。
「ちょっと出かけてくるよ。夜には帰るから」
「夜って……どこか遠くに行く気なの?」
母親は心配そうに見てくるが、テオは構わず靴を履いてつま先をトントンと叩き、リュックを担ぎ直した。
「うん、でも日帰りできる範囲だよ。心配しないで」
テオは扉を開け、外に飛び出す。母親がなにか叫んでいたが、テオは聞こえないふりをして走った。
田んぼの
ここから『パルキアの町』まで、けっこうな距離がある。馬車を使うならまだしも、歩いて日帰りできる距離じゃない。
「だけど、この"力"があれば」
テオは足に意識を集中する。グッと屈んで一気に駆け出した。
足の
これなら誰かに見られる心配もない。
テオが全力で走り続けた結果、馬車で移動するより遥かに早く町に到着することができた。
「ハァ、ハァ……疲れたけど……なんとか来れた」
手の甲で
大きな民家や商店、屋台などが立ち並ぶ。
しばらく行くと、四階建ての立派な建物が見えてきた。
入口からは屈強な男たちが出て来る。どうやら目的の場所に着いたようだ。
「ここが……パルキアの冒険者ギルド!」
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