第6話 検証

 校長の話を聞き終え、いつも通り授業を受けていたテオだったが、まったく集中できないでいた。

 校長が言っていた【幻影の不死鳥ファントム・フェニックスの実】の話が気になって仕方なかったからだ。


 ――僕が食べた【実】は、本当にそんな凄い物なんだろうか? 校長も御伽噺おとぎばなしだって言ってたし……。


 テオは半信半疑だったものの、もし本当に【幻影の不死鳥ファントム・フェニックスの実】なら、希少性は『星三つ』を超えるだろう。

 もっとも珍しい、国家予算級の取引額がつく代物だ。

 テオが悶々としながら授業を終えると、一人の女の子が席に近づいて来た。幼馴染のミアだ。

 肩まで伸びたブルーの髪が揺れ、翡翠色の瞳で見つめてくる。


「テオ。今日の授業、全然集中してなかったでしょう。せっかくお母さんが教えてくれてるのに」

「あ、ごめん……ミア。ちょっと考えごとしてて……」


 ミアの両親はこの学校の教師だ。ミアも大人になったら学校の教師になると普段から言っているため、真面目に授業を受けていないことに怒っているのだろう。


「もう、明日はちゃんと授業を受けてよね」


 ミアはぷいっと顔を逸らし、そのまま帰ってしまった。確かに勉強はちゃんとしないといけない。テオは反省しつつ帰ることにした。


「ウーゴ! 一緒に帰ろ」

「うん、分かったぁ」


 ウーゴは大きな体をどっしん、どっしんと揺らしながら駆けてきた。短髪のいがぐり頭をボリボリと掻き、穏和な表情で笑っている。

 ウーゴのような立派な体と腕力があったら、冒険者も夢じゃないのにな。と、テオはいつも思っていた。

 でも、今の自分には【神獣の実】で得た力がある。


 ――今なら僕でも冒険者を目指せる。必ずなるんだ。一流の冒険者に!


 ◇◇◇


 学校から帰って来たテオは、いつものように原っぱに来ていた。

 剣の代わりになる長い角材を持ち、意識を集中させる。徐々に体が光り始め、青い炎が全身を覆う。

 角材にも青い炎は移るが、やはり燃える気配はない。

 テオは角材を振り上げ、切っ先を地面に叩きつける。青い炎が地面を走り、周囲の雑草を一瞬にして燃やしてしまう。


「……やっぱり、任意のものを燃やせるんだ。攻撃では役に立つけど……問題は防御だよな」


 校長の話によれば、【幻影の不死鳥ファントム・フェニックスの実】は相手のいかなる攻撃も効かないらしい。本当ならとんでもない能力だ。


「でも、どうやって調べたら……」


 テオが検証方法を悩んでいると、足元にある石が目に入った。そこそこ大きい石。これにぶつかったら痛いだろうな、と思いながら石を手に取る。

 この石を上に投げて、頭で受ける。相当痛いだろうけど、それ以外検証の方法が思いつかなかった。


「仕方ない、やってみよう」


 テオは角材を地面に置き、覚悟を決めて深呼吸をする。

 足を肩幅に開き、両手を使って石を上に投げた。かなりの高さまで上がった石は、勢いをなくして落下してくる。

 テオは石が落ちてくる場所に頭を持っていく。

 とんでもなくバカなことをしてる気もするが、【実】の能力を知るにはこれしかない。テオは目を閉じて、歯を食いしばった。

 石が当たる瞬間、体からフッとなにかが抜け落ちる。不思議な感覚に恐る恐る目を開けると、石は真下に落ちていた。

 一瞬、なにが起きたか分からなかった。この位置に石があるなら、頭に当たってないとおかしい。

 テオはもう一度石を持ち上げ、頭に当たるように放り投げる。

 落下地点を予想し、その下に頭を持っていく。今度こそ当たるはずだ。そう思っていたが、さっきと同じように石は地面に転がっていた。

 頭にはなんの怪我もない。


「これって……?」


 石が自分の体をすり抜けている。そうとしか考えられない。その後も色々試していると、おもしろいことに気づいた。

 近くにある木の前まで行き、角材に炎を灯したまま打ちつける。

 木が燃えることはなく、角材が弾かれるだけだ。そんなことを何度かやっていると角材がゆらりと揺れた。


「え?」


 火の灯った角材が、。もう一度! と思い、角材で木を打ち据える。またしても角材がゆらりと揺れた。

 木に当たることなく、通過している。

 その時、テオの脳裏に校長の言葉がよみがえった。


 ――英雄が得た青い炎……それはまるで幻。いかなる攻撃も効かず、あらゆる敵を焼き尽くしたという。


「幻の……炎。火が全身を覆っている間は、体自体が幻になるってことかな? だとしたら――」


 テオは思わず息を飲む。幻に攻撃できる訳がない。

 つまり自分は相手から攻撃を一切受けず、逆にこちらからは攻撃できる。


「それって、無敵なんじゃ……」


 心臓は早鐘のように脈打っていた。どんなに強い敵にも打ち勝つ一流の冒険者。

 自分も同じようになれるかもしれない。それはずっと憧れていた夢でもある。テオは興奮状態で能力を使い続けた。すると――


「あれ?」


 体を覆っていた青い炎が、ふっと消えてしまったのだ。また出そうと思って意識を集中するが、炎が灯ることはなかった。


「どうして急に消えちゃったんだ? 使い慣れてないせいかな?」


 その時、テオはあることに思い当たる。


「もしかして! これって『制約型』なんじゃ」


 【神獣の実】はいくつかの種類に分けられる。使いやすいもの、使いにくいもの。

 体力を消費するもの、しないもの。強力なもの、そうでないもの。

 その中に、『制約があるもの、ないもの』という分類ある。これは回数や使用時間などに制限があるものをいう。


「だとしたら、この【幻影の不死鳥ファントム・フェニックスの実】は"時間制約型"ってことか。だから強力なのに使いやすかったんだ」


 こんなに強い力を無制限に使える訳ないか。と、テオはちょっとだけガッカリして肩を落とした。

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