第6話 暗黒魔導士と巨大剣

俺たちは、レイナに巨大剣を見せるため、広場の入り口のところへやってきた。そこにはシシマルの荷馬車に積まれた巨大剣がある。


「フゴッ!フゴゴゴゴッ!」


「な、なんで、こんなところにブルファングがいるのよ⁉︎」


「こいつは、シシマルだ。人を襲ったりしないから安心してくれ」


「・・・。魔物に名前をつけて飼っているなんて、あなた、かなりイカれてるわね」


レイナはシシマルに警戒しながらも荷馬車の巨大剣に近づいた。


「・・・・・」


「ははは・・。どうだい?ウケるデカさだろ?」


「な、なによ、これ⁉︎これが剣だというの⁉︎・・うっ!」


「ん?・・おい!どうした⁉︎」


レイナは、巨大剣の前で脚をガクガクと震わせて、その顔は青ざめていた。


「なんという禍々しさ!・・感じる、感じるわ!この剣に漂う身を焦がすような憎悪や情念を!」


「な、なに⁉︎こいつは、そんなにヤバいものなのか⁉︎」


「この剣は、最初、名匠が余興で作った金属の巨大な塊だった。しかし、それを使う者が、何千、何万という人や魔物を斬り倒すうちに、その血を吸ってどんどん硬化していったのよ」


なんだよ、そのエピソードは⁉︎某神作マンガのあの剣にそっくりじゃないか⁉︎もしかして、同じもの⁉︎だとしたら、ヤバッ!ファンとしてはたまらないね!単行本全巻持ってるし、アニメだって全部見てるし!


「レイナ、震えているじゃないか!そんなヤバいものだったら、それ以上の鑑定は危険だぞ!」


「ん?なに言ってるの?これは、とんでもなく魅力的な品物だってことよ。ワクワクが止められなくて、ブルブルしちゃったのよ」


「・・・・・」


「この巨大剣、あたしに譲りなさい。お金はいくらでも出すし、あたしの作った魔道具全部と交換でもいいわ」


「断る!」


即答!あの神作マンガの剣だとしたら、ファン垂涎すいぜんの一品じゃないか⁉︎そんな貴重中の貴重なものを、誰が譲るか!


「えぇ⁉︎なんでなのよ⁉︎あなたのようなヒョロヒョロの虚弱体質男じゃこの剣は振れないじゃないのよ⁉︎」


「誰が虚弱体質男だ⁉︎失礼な!・・間違ってないけども」


「ソウタさん、ようやくこの剣の凄さに気づいてくれたんですね!」


「ミーア、俺は最初から分かっていたさ。こいつの凄さにな」


「最初、売ろうとしていましたよね」


ユイは冷静だ。


「ともかくだ。今は振れないけれど、そのうち、こいつをぶん回して、魔王と伝説のドラゴンをぶった斬る。だから、レイナ、アークウィザードのあんたの力を貸して欲しいんだ」


「断る!」


ゲッ!即答返し‼︎


「あんたみたいな弱小冒険者は、その剣を振る前に死ぬのがオチよ。そんなパーティに入って時間を無駄にはしたくないの」


くっ!こ、こいつぅ!ちょっと可愛いからって調子にのりやがって・・!


「それじゃ、失礼」


「あぁ、ちょっと、待って・・」


レイナを呼び止めようとした、その時だった。



「キャーーー!」


「大変だ!みんな逃げろ!」


突然、人々が次々と駆け出していく。


「なんだ⁉︎なにが起こった⁉︎」


「街の入り口の方です!行ってみましょう!」


ユイは、そう言って走り出した。


街はパニック状態だった。俺たちは人の流れに逆らって、街の出入り口の門の方へ走って行く。途中、ギルドのおねえさんに会った。


「なにが起こったんです⁉︎」


「魔物が襲って来たんです!レベルの高い冒険者には門のところに集まってもらってます!」


俺は、まだ初級冒険者だが、ここで逃げ出すわけにはいかない。



人の流れに逆らいつつ、ようやく門のところまで来た。


そこには、絶望的な光景が広がっていた。


「こ、これは・・⁉︎」



ゴゴゴゴゴ・・ドスン!ドスン!


「ギュアァオォオォン!」


目の前には、巨大なドラゴンがいた!


「アークドラゴン‼︎」


ユイが叫ぶ。


アークドラゴンだって⁉︎そんな強力な魔物が、なぜこのかけ出し冒険者の街に⁉︎


「レベル80です!」


80⁉︎おいおい、この街にはそんなレベルの高いヤツいないぞ!ホワイトナイトのユイでさえ、レベル45だ!


「くるぞ‼︎」


アークドラゴンは口を大きく開けて、青白い炎を吐いた!その瞬間、もの凄い熱と爆風が襲ってくる!


ゴォオォオォオォオォオォオォオォ‼︎


城壁の一部は吹き飛び、街の中まで一直線に炎が焼き尽くす。


「な、なんなんだよ、あれは⁉︎」


「この世界では、アークドラゴンは『伝説のドラゴン』とか『神の化身』とか呼ばれていて、滅多に人前に現れることはないのですが・・」


伝説のドラゴンだと⁉︎いきなり来ちゃったよ、最終局面。つまり、こいつを倒したら、女神さまのミッション達成てわけだな。日本に帰れる⁉︎・・でも、早すぎだろう⁉︎俺、まだレベル3だぞ⁉︎巨大剣だって持ち上がらないのに、どうやって倒せっていうんだ⁉︎無理ゲーすぎだ‼︎


アークドラゴンの足もとにローブを着た不気味な男が立っている。


「フハハハハッ!焼き尽くせ!アークドラゴンよ!」


「何者だ⁉︎」


「ん?一段と弱々しい冒険者風情が、この俺様に名乗れだと?」


フードの奥には赤い眼がギラリと光っている。こいつはヤバいやつだ!ゲーマーの直感がそう訴えてくる!逃げた方がいい!


「俺は、スズキソウタだ!なぜ、この街を襲う⁉︎」


なに、名乗ってんだよ、俺!


「俺様はツダ、暗黒魔導士ツダだ」


「暗黒魔導士だと⁉︎魔王軍の幹部とかか⁉︎」


「魔王?は?俺様は、そんな陳腐なものとは関係無い」


いちいち『俺様』て言うのが腹たつな!


「この街に来たのは、ある者を探しているからだ。わかっているんだぞ、ここにいるのは!さぁ、出て来い!フローディス王国の騎士よ!」


「なんだと⁉︎」


ユイが前に出てきた。


「あなたが探しているのは、このわたしでしょう⁉︎街への攻撃をやめなさい!」


「ユイ‼︎」


「ほほぉ、これは、これは。思いもかけない大物に当たったな。今日の俺様はツイてるぜ。まさか、王女を見つけてしまうとはな!フハハハハハ!」


王女だと⁉︎


「いかにも、わたしの名は『ユイリ・ベルサイア・フローディス』。フローディス王国の王女です!」


おぉおぉ!マジか⁉︎ユイが王国のお姫様だったのか⁉︎だとしたら、俺はなんと失礼なことを・・打首覚悟せねば。


「望みは、わたしでしょう⁉︎これ以上、街への攻撃を止めなさい!」


「フフフ、覚悟できてるってことか。ならば、ここで死ぬがいい。やれ!アークドラゴン!」


「ギュアァオォオォオォオォオォオォン!」


青白い炎のディバインブレスが、ユイに向かって吐き出される!



ダダッ!


火炎を素早くかわしたユイは、一気にアークドラゴンとの距離を詰め、足首のあたりに剣を振った!


「せやっ!」


巨大モンスターを倒す常套じょうとう手段といえば、足首狙いである。その攻撃で動きを止めて、トドメは首だ。


「とった!」


ユイは大きく飛び上がった。そして、一瞬、姿勢を崩したアークドラゴンの首をめがけて、全身で剣を振り下ろす。


「シャイニングダスト‼︎」


ユイの必殺技が炸裂した!

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