第39話 赤ちゃんライフと巨大剣

ドルガニア城を占拠していた暗黒魔導士ツダの軍は、ツダが自爆したことにより暗黒騎士が消滅。残った魔物の軍は、バルダス率いる猪の団とフローディス王国軍の前に、ただの敗残兵と化していった。勝敗は決したのだ。


暗黒魔導士ツダこと、転生者『ツダリョウスケ』は、きっとまた、女神さまの下に帰され、こってり絞られていることだろう。


そして、この戦は、復活した邪悪な覇王との戦いと言われ、その噂は、あっという間に大陸中に広まった。俺は、覇王を倒した希代の英雄と謳われるようになったが、この戦いで名誉の戦死を遂げたことにされたのだった。


巨大剣は、宮廷内のフローディス王国立博物館で、『覇王ごろし』と名付けられて展示されている。連日、それを見に、多くの人々が王都へ集まっているとのことだった。


『神殺し』が持つ剣が『覇王ごろし』か・・・。言葉だけだと、とんでもなく恐ろしいヤツだな。


そして、そんな伝説の人物、わたくし、スズキソウタは、というと・・・。



「オンギャーッ!オンギャーッ!」


「よーし、よーし、いい子いい子」


「抱っこしてなきゃ、すぐに泣き出すわね」


魔王の呪いで赤ちゃんになって、日夜『甘えん坊ライフ』にいそしんでいた。


ただただ、周りの美少女たちに抱っこしてもらい、お世話をしてもらう。これ以上のことがあろうか!


ユイのふくよかな胸、レイナの甘酸っぱいちっぱい、フェリシアの禁断のツルペタと・・・その感触を大いに満喫しているのだった。赤ちゃんって、最高だな!



「それにしても、この呪い、どうやったら解けるのでしょうね?」


「呪いを込めたシス本人も『分からない』て言ってるから、どうしようもないわね」


「一応、お父様も帝国の神官たちに調べてもらっているようですが、今のところ、手がかりはないようです」


「ソウタさんが、このままだったら、わたし、どうしたらいいのでしょう⁉︎」


俺の御付きの妖精ミーアは焦っていた。・・そう言えば、女神さまなら呪いの解き方くらい知っているんじゃないのか?そうだ!女神さまのところへ行って、聞いてきてくれ!


「オンギャーッ!オンギャーッ!」


「今度は、なんでしょう?」


「おなかすいたんじゃないかしら?」


「ミルク作りますね」


ちがーうっ!そうじゃないーーーっ!


ダメだ。言葉が喋れない以上、コミュニケーションの取りようがない。


「そういえば、シスの姿が見えませんね」


「シスは、『どり〜む・きゅあ♡』の方が忙しくて、それどころじゃないみたいよ」


くっ!あの薄情者め!



コン、コン!



「失礼します」


やって来たのは、うちの会計士シルヴィアだった。


「ソウタさまに決算書の確認をしてもらい、承認のサインをいただきたいのですが?」


「か、確認と言われましても、こんな状態ですし・・・」


「一応、見せてみたらどうかしら?なんかリアクションあるかもよ?」


「・・・・・。では、こちらが、決算書でございます」


赤ちゃんにそんなもの見せて、わかるかーーーッ!・・いや、わかるけど、赤ちゃん以前に、ニートの俺には内容がわからん!ごめんなさい!


「オンギャーッ!オンギャーッ!」


「また、泣き出してしまいましたね」


「難しすぎたのかしら?」


俺は、シルヴィアに向かって、大いに『泣き』をアピールしてみた。


「なんか、シルヴィアさんに向かって、泣きじゃくっているわね」


「抱っこしてほしいのでしょうか?」


「ソウタさまのために抱っこしてもらえませんか?」


「えっ⁉︎わ、わたしが⁉︎ですか⁉︎」


おぉ!みんなよく俺の言いたいことが理解できてるな!もう、立派なママだよ!


「し、仕方ありませんね」


黒髪にメガネのキリッとした印象に、エロい想像を掻き立ててくれる制服・・・美少女もいいが、こんな性格がキツそうなおねえさんも大好きなのだよ♡


「よ、よーし、よーし、いい子ですねー・・こ、これで、いいのでしょうか?」


シルヴィアは、顔を赤らめながら俺を抱っこした。


胸のサイズは、シス、ユイに次ぐものがあるなぁ・・なんとも心地よい。そして、とってもいい匂いがする♡このまま、この胸に埋もれていたい・・・。



ん?あれ?さっき飲んだミルクのせいだろうか・・・おしっこしたい!ヤバい、ヤバい!で、出るぅうぅうぅ!


ジョロ、ジョロ、ジョロ〜。



「フンギャーッ!フンギャーッ!」


「あれ?どうしたのかしら?」


「ん?この臭い・・おしっこしたわよ!」


「オムツ替えは、わたくしが」


お、おい!こんな大勢の女子の前で・・・!


フェリシアは俺のオムツを盛大にご開帳した。そして、女子たちが俺のナニを見つめている!もちろん、赤ちゃんのソレではあるが・・・。


お、おまえら、そんなにソレを見つめるな!・・いやーーーん♡変な性癖に目覚めてしまうだろうがっ!




数日後。


俺は、相変わらず、拠点の屋敷で『赤ちゃんライフ』を送っていた。


ユイ、レイナ、フェリシアは、交代で俺の面倒を見てくれる。おなかが空いたら泣き、抱っこしてもらいたくなったら泣き、おしっこしたら泣き・・・常に、美少女たちに抱っこされ、お世話をしてもらう。なんという安心感!


こんなの一度味わったら、もう大人の生活には戻れない!というか、戻りたくない!


魔王も引退したし、暗黒魔導士も倒した。弱い魔物は、まだたくさんいるが、だいたい世界は救われたんだし、このままでもいいのではなかろうか?


「ソウタさん!いつまでも、このままではいられませんよ!」


うっ!ミーアが飛んで来た。


「真鍮のドラゴンを倒さないと、再び、新しい魔王が誕生してしまいます。そうなれば、また、命懸けの冒険をやらなければなりません。シスさんが、ドラゴンの洞窟への道を開けてくれる、今こそ、チャンスなんですよ!」


うーむ、たしかに、その通りだ。だが、赤ちゃんに、あの巨大剣は持てない。いや、元に戻っても持てないのだけれども・・・。



バタン!



「呪いを解く方法が見つかったわよ!」


そう言って、勢いよく部屋に入って来たのは、元魔王シスだった。

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