第40話 決意と巨大剣

シスは、メイドカフェ『どり〜む・きゅあ♡』1号店2号店の運営をしながら、空いた時間を利用して、呪いの解き方を探っていたという。


責任感の強い魔王とか見たくねーッ!・・と言いたいところだが、ありがたい話しだ。ていうか、シスが込めた呪いなんだから当たり前だがな。


「魔王城の私の部屋で見つけた『魔王の呪い取扱説明書』によると、赤ちゃんになるというのは『赤ちゃんの呪い』というらしいのよ」


・・・そのままだな。そして、呪いにもトリセツあるとか、親切すぎるだろ!


「それで、この呪いを解くには、どうしたらいいのですか⁉︎」


「みんなソウタのお世話でクタクタなのよ」


え⁉︎俺、そんなに負担になってたの⁉︎ごめんなさい!


「『赤ちゃんの呪い』を解く方法は・・・母乳を与えることよ!」


「「「ぼ、母乳⁉︎」」」


おぉ!母乳ですとーーーッ⁉︎


「ユ、ユイなら、そんなにおっぱい大きいんだから、出るんじゃない?」


「えっ⁉︎で、で、出ませんよ!大きさなら、シスの方が大きいから、出るんじゃないですか⁉︎」


「で、出るわけないでしょう!大きさは関係ないわ!案外、フェリシアちゃんなら出たりして?あはは・・・」


「・・・。ソウタさんのためなら、試してみてもいいですよ」


おぉっ!き、き、禁断のロリぱいをいただけるんですかーーーッ⁉︎こんなチャンス滅多にない!いただけるものは、いただいておく!赤ちゃんだから条例とか関係ないよね?


・・と、そこでミーアが一言。


「母乳は、妊娠した女性でないと出ないと思います」


余計なことを言わんでいい!


「そ、そうですよね」


「冷静に考えたら当たり前ね」


「オンギャーッ!オンギャーッ!オンギャーッ!」


「急に泣き出しましたね」


「あたしたちの誰かのおっぱいじゃないと嫌だ、と言わんばかりのアピールね」


うっ!見透かされている・・・。




ユイたちは俺を連れて街へ出て来た。妊娠している女性を探して、母乳を飲ませてもらうためだ。


「こうして歩いてみると、なかなかお腹の大きな女性は見つかりませんね」


「そんな都合よく見つかるものじゃないわね」


「あの人、お腹大きいですよ!」


フェリシアの見つけた女性は、たしかにお腹が大きかった。だが、年齢は60代か70代か、そのくらいだ。言っちゃ悪いが、デブのおばさんだ。いや、おばあさんだ。


「声をかけてみましょう!」


ちょ、ちょっと待て!あのおばあさんが妊娠しているわけがないだろうが!おい、横!その横に美人のおねえさんがいるだろうが⁉︎そっちの方がいいってーッ!


「オンギャーッ!オンギャーッ!オンギャーッ!」


「また、急に泣き出しましたね」


「なんか、あっちのおねえさんのほうに行きたがっているわね」


「おしっこじゃないしょうか?」


ちがーーーうっ!レイナの言うことが当たってる!


「オンギャーッ!オンギャーッ!オンギャーッ!」



「あらあら、かわいい赤ちゃんね」


そう言って近づいて来たのは、デブのおばあさんのほうだった。


「ずいぶん若いママね〜」


おばあさんは、抱っこしているユイを母親と間違えたようだ。


「あ、いや、わたしの子供ではないんです。実は・・・」



ユイは、おばあさんに事情をこと細かく説明した。というか、そんなに詳しく説明しても無駄だというのに!


「そういうことなの!驚いたわ!でも、お国を救った英雄ですものね、ここは、私に任せなさい!」


ふぇっ?


「おばさん、今年78歳になるのだけれど、不思議といまだに母乳が出るのよ!」


そう言って、おばあさんは上着を捲り上げ、びょろ〜んと伸びたおっぱいを出した。


「おばさんくらいの年になると、人前でおっぱい出しても恥ずかしくないのよ。ギャハハハハ!」


昭和のコント番組の笑い声だ。


「オンギャーッ!オンギャーッ!オンギャーッ!」


はなせーッ!はなしてくれーッ!いやだーーーッ!


「おーよしよし、お腹空いたのね」


そう言って、おばあさんは、しわしわのおっぱいを俺の口に突っ込んだ。


ちゅぽん!


「・・・(ムグムグ、ムグムグ)」


俺は、思わず、おばあさんの母乳を飲み込んだ。



ボンッ!



一瞬、煙に包まれたかと思うと、俺の身体は元の大人の身体に戻っていた。


「ん?」


おばあさんは、裸の俺を抱きかかえて、呆気に取られた顔をしている。


「ハ、ハハハ、す、すみませんでした・・・」


「「「キャーーーッ!」」」


裸の俺を見たユイ、レイナ、フェリシアは手で顔を覆って叫んだ。






拠点の屋敷にて。


「い、いろいろあったが、みんなありがとう。助かったよ」


「一時は、どうなることかと思いましたよ」


「子育ての大変さが分かったという意味では有意義な経験をさせてもらったわ」


「ソウタさまが甘えてくれなくなると思うと寂しいです・・・」


どうやらフェリシアの母性を目覚めさせてしまったらしい。


こうして、俺の『赤ちゃんライフ』は終わった。




そして、俺はミーアに促されて、ついに『真鍮しんちゅうのいドラゴン』の討伐を決意した。


現在、俺はレベル41になったが、いまだ巨大剣は構えることができない。かろうじて、引きずるくらいができるだけだ。だが、過去の戦いから、やりようによっては、この剣を振ることができるということが分かった。


『魔薬』を使うという手もあるが、呪いがかかったまま、女神さまのところへ帰るわけにはいかないだろう。そして、『真鍮しんちゅうのドラゴン』は、この世界の裏ボスで「やり込み要素」だ。仲間を連れて行っても、ただ、危険にさらすだけだ。


だから、俺一人で行こうと思う。巨大剣を引きずりながらなので、数日かかるかもしれないが、たどり着けないこともないだろう。


ヤツを倒せるかどうかわからないが、これが、この世界で最後の戦いになると思うと感慨深い。ここまで一緒に戦ってきた仲間たちとも、これでお別れなのだ。


振り返ると、とても辛くとも、とても楽しい、冒険者生活だったな。あいつら、俺がいなくなっても大丈夫だろうか?・・そんな心配もよぎるが、きっと、あいつらと別れたくないという気持ちの裏返しなんだろうな。


さよならは言いたくない。今、あいつらの顔を見たら、一歩踏み出せなくなってしまうから。だから、夜が明ける前に、ここを出よう。


「ユイさんたちにお別れの挨拶をしなくて、いいんですか?」


「あぁ」




俺は、旅支度をととのえ、ミーアと共にシスの部屋にやってきた。元魔王のシスのみが『真鍮しんちゅうのドラゴン』の棲む洞窟への道を開けるからだ。


「本当に、いいのね?」


「あぁ。シスにも世話になったな。ありがとう」


「本気で惚れかかった男だったわよ。また、どこかで会えたら・・・」


「きっと、会えるさ」


「・・・。じゃ、いくわね」


「たのむ」


シスは呪文の詠唱に入る。


「・・・黒き暗雲に閉ざされし隔世の門よ!求めし者の前に、開かれよ!ハービーブレナン!」



「ん?」



「あれ?おかしいわね。もう一度、ハービーブレナン!」


何も起こらなかった。


「え⁉︎なんでよ⁉︎これで、ドラゴンの洞窟に転送できるはずなのに!」


シスは焦っていた。


「ハービーブレナン!ハービーブレナン!ハービーブレナン!ハービーブレナン!・・」


「おいおい、落ち着けよ、シス」


「だ、だってぇ・・」


「もしかして、新しい魔王が誕生してしまったのかもしれませんね!」


「なんだって⁉︎」


新しい魔王が誕生すると、『門』の鍵としての役目も移る。ミーアの言うとおりかもしれない。


「えーんっ!なんでよ⁉︎私は魔王よ!」



「なんですか?騒がしいですね」


目を擦りながらユイが部屋に入って来た。


「こんな夜中に何の騒ぎ?」


レイナとフェリシアも入って来た。


「あーっ!何その格好⁉︎」


「もしや、わたしたちをおいて、『遊び』に出かけようとしていましたね!」


「おい、おい、違うって!」


「許しませんよ!二人だけで遊びに行くなんて!」


「大人だけでお酒飲みに行く気だったに違いないわ!」


「おーーーーーーいっ!そんなに服を引っ張るなーーーっ!」


ビリッ!


「「「「「あっ」」」」」






しばらくして、シスのところへ手紙が届いた。


「元魔王さまへ。新しく魔王の座につきました『デスモーリア』と申します。今後とも、よろしくお願い申し上げます。」


律儀な魔王とか見たくねーッ!


なんてな。ははは。


俺の冒険は、まだ終わりじゃない。うんざりするような新魔王との戦いが始まる。そして、この頼りなくも最高な仲間との冒険の第二幕が開けるのだった。



〈第1章終わり〉




ーあとがきー


最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

第2章は、現在のところ、更新未定となっているので、ここで一区切りとさせていただきます。

つきましては、今後の参考のために、★による評価やコメントなどいただけるとありがたいです。

それでは、また、いつの日か、一緒に冒険の旅へ出かけられますよう。


月園まる

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異世界史上最強の巨大剣ぶん回し、『真鍮のドラゴン』の首ブった斬るまで帰れません!ひ弱な俺が持ち上げられない剣で無双しろって、そりゃムリな話しだろ! 月園まる @tukizono-maru

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