第27話 決戦!ブリタニア城と巨大剣

温泉宿では、アニエスという配信者のせいで最後は散々な目にあったが、それでも、湯治に行って良かったと思う。傷は癒えたし、なにより、のんびりできたからだ。


そして、俺たちはハイムの拠点に戻ってきた。リビングのソファでくつろぎながら。


「あぁ、やっぱり我が家は落ち着くなぁ」


「はぁ、拠点に帰って来たのも久しぶりですね。なんかホッとします」


「しばらくは、のんびりしたい気分だわね」


いったん切れた緊張の糸は、なかなか元には戻らないものである。



「ソウタさん、そういえば、巨大剣が見当たらなかったのですが、どこかに隠してあるのでしょうか?」


「え?たぶん、荷馬車の上じゃないのか?」


ミーアの言葉が気になって、1階で仕事中のシスに聞いてみることにした。


「なぁ、シス、俺の巨大剣、どこに置いたんだ?」


「巨大剣?私は見てないわよ。そもそも、シシマルがここに着いた時には荷馬車の上に無かったから、ソウタが持っているものだと思っていたわ」


「そ、そうなのか⁉︎」


温泉宿に泊まる際、巨大剣を置く場所も無いからシシマルにハイムへ運ばせたんだが、着いた時には無くなっていた⁉︎俺たちは急いでシシマルの荷馬車を確認しに行った。


「シシマル!巨大剣はどうした⁉︎どこかで落としてきたのか⁉︎」


「フゴッ?フゴフゴッ」


「知らないうちに無くなっていただって⁉︎」


「なに言ってるか、よくわかりますね」


「剣士よりビーストテイマーの方が向いているわね」



「ちょっと待って、この臭い⁉︎」


シスは荷馬車の荷台に顔を近づけ、何かを嗅ぎつけたようだ。


「暗黒魔導士だわ!やつらの悪臭がプンプンする!」


シスは元魔王だ。その嗅覚は人間の比じゃない。


「じゃ、暗黒魔導士のやつらが巨大剣を盗んだってことなのか⁉︎」


「きっと、シシマルが道中で休んでいるところを見計らって、こっそり盗み出したのかもね」


たしかにその可能性は高い。なぜなら、この大きさのブルファングだ、並の盗賊なら怖がって近づかないだろう。


巨大剣を取り戻さなければならない。それに、旅の道中で、「暗黒魔導士は勢力を拡大し、一国を滅ぼした」という話しを耳にした。その国の国民は、女子供も問わず、皆殺しにされたという。これ以上、やつらを野放しにはできない。


「よし!暗黒魔導士の居城へ乗り込むぞ!場所は、ブリタニア城だ!」


「えぇ⁉︎そこは、私の元マイホームじゃないの⁉︎」


「そうだよ。シスが出て行ってから、暗黒魔導士ツダのやつがそこを根城にしているらしいんだ」


「いくら出て行ったとはいえ、人の家に無断で・・。許せないわね!」


「よし!みんなを集めよう!そして、準備でき次第、出発だ!」


敵は一国を滅ぼすほどの戦力だ。まともに戦っては勝ち目がない。だが、敵の戦力だって必ずしも本拠地に集結しているとは限らない。勢力を拡大している今こそ、分散して本拠地が手薄になっているはずだ。



「ようし、野郎ども、準備はいいか⁉︎」


「「「オォーーーッ」」」


バルダスの掛け声に100人の兵士が応える。集結しているのは『猪の団』だ。


「カシラ、この時を待っていたぜ!」



「いよいよ、決戦の時が来ましたね」


「せっかくゆっくりできると思ったのに、急展開だわね」


「よし!みんな行くぞ!」


シスの転送魔法で、みんなをブリタニア城まで運んでもらう。


「いくわよ!テレポート!」






俺たち一団は、ブリタニア城の城門前に来た。


「よし!敵に勘づかれる前に、入口の門を突き破るぞ!レイナ、シス、どデカいやつをかましてくれ!」


「まかせてよね!元魔王には負けないわよ!」


「ふふっ、まだまだ、わたしの魔力は衰えていないわ」


「はぁあぁあぁ!メルトスフィア!」


「はぁあぁあぁ!アビス・オブ・ペイン!」


レイナの手元から大きな火球が放たれ、シスの手元からは無数の青白い炎が放たれた。


ドゴォオォオォオォオォン‼︎


ズドドドドドドドドドドッ‼︎


炎と閃光が辺りを照らす!


「す、すごい威力だ!これが、大陸一の魔導士と元魔王の力なのか⁉︎」


城門の扉は、たちまち爆煙に包まれた!



「・・・⁉︎なにっ⁉︎」


なんと、あれだけの魔法攻撃を直撃しながらも、扉は傷一つついていない。


その時、城壁の上に人影が・・・暗黒魔導士ツダだ!


「何かと思って来てみれば、おまえたちか。フハハハハ、この門には魔法攻撃など効かぬわ!俺様が結界を張ったからな!」


「魔法攻撃を無効にする結界だと⁉︎」


「いつか、ここに魔王が戻ってくると思ってな、準備していたのだ」


「くそっ、ツダ、おまえも転生者だろ⁉︎なぜ、暗黒魔導士などになった⁉︎」


「フッ、おまえの知ったことか。俺様は、現実世界で叶えられなかった夢を叶える!世界を滅亡させるのだ!」


このバカ、魔王より魔王らしくなってるじゃないか⁉︎要するに、こいつあれだ、サイコパスだ!女神さまも、とんでもないヤツを異世界に送り込んじゃったな!


「俺の剣は、どこへやった⁉︎」


「フッ、貴様には見つけられまい。欲しければ、ここまで来てみろ!」



「フゴッ、フゴッ」


シシマルが近くの木の下を掘っている。


「お、おい、よせ!そこを掘るんじゃない!」


なんか、サイコパス野郎が慌てている。


「ん?なんだ?」


そこに埋まっていたのは、俺の巨大剣だった。


「くっそぉ!万が一、城が制圧されても見つからないようにと、『灯台下暗し作戦』で隠したのにぃ!」


あれ?もしかして、こいつバカ?



「こうなれば・・弓兵!やれ!」


城壁にズラっと並んだアンデッド兵が、一斉に矢を放ってきた!



「はぁっ!」


キンキン!キンキン!


ユイを先頭に、猪の団の100人の兵は剣で弓矢を跳ね除ける。


くそっ、城門の扉に魔法は効かないし、このままじゃ・・・。魔法は効かない?・・そうか‼︎



俺は巨大剣のつかを両手で握りしめた。


「シス!あの竜巻の魔法で、俺を巻き上げろ!」


「えっ⁉︎そんなことしたら・・」


「大丈夫だ!コントロールしてみせる!」


「わ、わかったわ。・・ソウタ、好きになっちゃいそう!」


シスは両手を広げ、呪文を唱えた。


「デッドトルネード!」


俺の足下に発生した竜巻は、どんどんその勢いを増していった。


「うわぁあぁあぁあぁあぁ!」


ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!


竜巻の風圧を利用して巨大剣をブン回す!


キンキン!キンキン!キンキン!キンキン!


俺は高速回転し、弓矢を跳ね返しながら、城壁へと近づく!


「うおぉおぉおぉおぉおぉ!そ、そこじゃなーいッ!」


ガッガッガッガッガッガッガッガッ!


巨大剣は城門ではなく、城壁に何度もぶつかる!


ドゴンッ!ボゴンッ!ドッガーーーン!


そして、ついには城壁も崩していった!



「まるで竜巻ですね!まさに狂戦士!」


「災害級の破壊力だわ!」


「よし、ヤロウども、カシラに続けぇー!」


「ソウター!素敵よー♡」



「ぐぐっ、なんてヤツだ⁉︎」


ツダは城の方へ逃げていく。


「うおぉおぉおぉおぉおぉ!」


巨大剣の1回転で、アンデッド兵が5、6体真っ二つになった。まるで、ミキサーだ!


「「「グギャアァアァアァッ!」」」


俺が通った後には、無数の亡骸が散乱している。


「アンデッド兵が復活する前に突っ込むぞ!」


バルダスの掛け声で『猪の団』の兵がなだれ込んできた!


「俺の剣風に巻き込まれるんじゃないぞーーーッ!」


警告を発する。なぜなら、もう自力では止められないからだ。

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