異世界史上最強の巨大剣ぶん回し、『真鍮のドラゴン』の首ブった斬るまで帰れません!ひ弱な俺が持ち上げられない剣で無双しろって、そりゃムリな話しだろ!

月園まる

第1章 狂戦士スズキソウタのターン

第1話 転生と巨大剣

巨大な鉄の塊が空中を舞う。


それは、剣だった。


その剣は、剣と呼ぶには、あまりにも長く、広く、ぶ厚く、そして重かった。


俺は今、そのつかを両手で強く握りしめている。空中を二転三転しながら弧を描くように飛んでゆく巨大な剣に、振り落とされまいと必死にしがみついている。


真下に『神の化身』と呼ばれるドラゴンを確認した。あとは、そのまま落ちてゆくだけだ。


「うおぉおぉおぉおぉ!」



斬‼︎



振り下ろされた巨大な剣は『神の化身』の首を斬り落とした。


その時、俺のレベルは、まだ『3』だった。




二日前に話しを戻そう。


俺の名前は、スズキソウタ。先日、二十歳になったばかりだ。そして今、病床でこの人生を終えようとしている。不治の病だそうだ。思い返せば、しょうもない人生だった。


高1くらいから家に引きこもり、楽しみはアニメとゲームだけ。友達もいなかった。そんな人生だ。このへんで終わるのもいいかもしれない。唯一の心残りが童貞で死んでいくことか。


眩しい光が俺を包み込んでいく。いよいよお迎えが来たんだな。みんな、さよなら。そして、ありがとう。



「ん?」


ここはどこだ?


「スズキソウタさん」


「あ、あなたは⁉︎」


「わたしは、転生の女神です。あなたの命は今、尽きようとしています」


おぉ!ラノベやアニメだけの世界だと思っていたが、本当にあったのか⁉︎そして、この流れからいって、次は・・。


「あなたには、二つの選択肢が残されています。一つは、現世で生まれ変わること。そして、もう一つは・・」


「はい。異世界転生します!」


「え⁉︎まだ全部言ってないのですが⁉︎」


「この流れでいったら、そりゃもう異世界転生しかないでしょ。野暮なことは言いません。とっととやっちゃってください。あ、特典のレア武器お忘れなく。倒すのは、魔王でいいんですよね?」


「え⁉︎ちょ、ちょっと待ってください!なぜ、そこまで・・」


「いやね、俺くらいの異世界ファンタジーファンになりますとね、この流れは何度も見てきてますからね。テンプレでしょう」


「・・はぁ。と、とりあえず、話しが早くて助かります」


女神さまの話しはテンプレなんだが、ちょっとだけ、思っていたのと違う点がある。


「最終目標は魔王討伐ではなく、真鍮しんちゅうのドラゴンという魔物を退治することです」


真鍮しんちゅうのドラゴン・・ですか?」


「はい。そのドラゴンは魔王を倒した後でなければ行くことのできない洞窟で眠っています」


ラスボス倒した後の『やり込み要素』か⁉︎だいたいそういうのって、プレイヤーのチャレンジ精神を煽るために、めちゃくちゃ強い設定になってるんだよなぁ。


「魔王を倒すだけじゃダメなんですか?別に寝た子を起こさなくても・・」


「それが実は、真鍮のドラゴンはその世界のシンボルモンスターといわれるもので、シンボルモンスターが生きている限り、魔王を倒しても魔物が消えてなくなることはありません。そして、その魔物の中からまた新しい魔王が生まれてしまうのです」


なるほど、そういうことか。・・まぁ、倒せなくても、その時は憧れの異世界ライフをのんびり過ごせばいいか。


「もし倒していただけましたら、また現世で意識を取り戻し、病気も治って、その後の人生を送れるようにいたします」


「あ、死んじゃっても問題ありませんよ。もうこの人生には未練もありませんので」


「え⁉︎そうなんですか⁉︎あれだけ『ブレイブクエスト2』の発売日を楽しみにしていたのに・・」


「ハッ⁉︎」


そうだった!俺が人生で最も楽しみにしていた名作ゲーム『ブレクエ2』の発売日が3日後だったんだ!やばい!死んでる場合じゃない!今から攻略情報の収集でスタダ(スタートダッシュ)の計画練らんと!


「う、ウソです!未練あります!いや、未練しかない!だから現代に帰してください!お願いします!」


「大丈夫ですよ。真鍮のドラゴンを倒していただけましたら帰れます。それに、異世界へ転生している間は現世の時間も止まっているので、ゲームの発売日にも間に合うと思います」


「あ、ありがとうございます!では、早速、転生お願いします。特典の武器は大剣がいいですね。どデカい剣ぶん回し、某神作マンガの主人公みたいに敵をぶった斬ります。男のロマンですよね。ちなみに『モンスターバスター』でも大剣一択でプレイしてきましたから」


「え⁉︎ちょ、ちょっと話しがどんどんと・・。わ、わかりました。それでは、こちらの石板にめ込まれたハンドルを回してください。上から武器が舞い降りてきます」


おぉ!武器ガチャか⁉︎


「それじゃ、いきます!」


神様仏様!お願いします!俺に何卒、最高ランクの大剣を!



ガチャ、ガチャ!



何もない空中から武器がゆっくりと降りてくる!


「こ、これは・・⁉︎」


「ミニマムダガーですね。レア度は【N】です」


「【N】?」


「【N】は一般的なレア度です。その上が【R】で、さらにその上が【SR】。そして最上位が【SSR】となっています。ただ【SSR】は、異世界の人々も造りだすことはできず、現存するものも七つしかありません。まさに神の造りし伝説の武器となっています」


それは欲しい!【SSR】の武器があれば、冒険の難易度がかなり変わってくるぞ!


「あと2回ありますので、チャンスはまだまだありますよ」


「よ、よし!じゃ、2回目いきます!」



ガチャ、ガチャ!



「ゲッ⁉︎」


「2回目もミニマムダガーですね・・。あ、でも、あと1回ありますから、気にしなくても大丈夫、だと思いますよ。・・あはははは・・」


くっ!まさかのカブリありとは⁉︎


「ちなみに、【SSR】が出る確率って何%くらいなんですかね?」


「そうですねぇ、その人の功徳くどくとか色々加味されて決まりますので、一概には言えませんが、0.001%未満かと・・」


鬼畜ガチャ決定‼︎これで、その先の人生が左右されるなんて、暴動起きるレベルだぞ‼︎


ふぅ。俺は一つ深呼吸をした。せめて【SR】以上!たのむ!


「ラスト、いきます!」



ガチャ、ガチャ!



突然、俺の身体が光に包み込まれ、天界から遠ざかっていく。


「なっ⁉︎」


「最後の武器は、現地に直接送っておきますよー」


遠ざかる女神さまの声が、かすかに聞こえた。






気が付くと、俺の目の前には見渡す限りの広野が広がっていた。


「おぉ!ついに来たか⁉︎憧れのファンタジー世界!ここから俺の冒険が始まるんだな・・って、普通はかけ出し冒険者の街とかから始まるもんじゃないのか?」


遠くに街らしきものが見えている。


ゴン!


「痛って!・・何だコレ?」


足下の何かにつまずいた。それは、大きな鉄の板のように見える。


「えっ⁉︎これは、もしや・・大剣じゃないのか⁉︎」


さっき女神さまが「最後の武器は送っておきますよー」とか言ってたが、こいつがそれだとしたら、当たりも当たり、大当たりじゃないか⁉︎


「そ、それにしてもデカいな。俺の身長の2倍はあるような・・」


マンガやゲームの世界の大剣は確かに大きく描かれているが、よく考えたら、それを持つ主人公の身体もデカい。つまり、俺のような平均的な日本人体型だと、その差がより大きくなってしまうということだ。


「はじめまして、スズキソウタさん!」


ん?誰もいないところから、声だけが聞こえてくる。よく目を凝らすと、そこには小さな妖精がいた。


「フェアリーか⁉︎」


「よくお分かりで!わたしはフェアリーのミーアです」


ミーアは女の子のようで、桜の花びらのような髪色と愛らしい顔をしている。服は着ていない。さらに、よくよく見ると・・。


「ちょ、ちょっと、なに、そんなに見てるんですか⁉︎や、やめてください!」


「あ、・・はは。ごめん、ごめん。それにしても、フェアリーまでいるとは、いよいよファンタジーらしくなってきたな」


「女神さまの言い付けで、ソウタさんに付き添うようにと言われて来ましたので、色々とフォローさせていただきます」


なんと、最初から妖精の相棒付きとはありがたい!


「それじゃ、ミーア、まず、あの街まで行ってみようか!」


「はい!」


俺は足元の大剣、いや、巨大剣のつかを握った。


「さぁ、冒険の始まりだ!」


・・って、あれ?めちゃくちゃ重い。


「さぁ、行きましょう!」


「ちょ、ちょっと待ってね。おかしいな」


俺は全力で持ち上げようとした。


「うぉおぉおぉ‼︎」


しかし、微動だにせず。


何かの間違いだ!こんなはずはない!あんなに軽々と持ち上げて、数多の巨大モンスターと渡り合ってきたじゃないか⁉︎・・って、それはゲームの中の話しか。


よく考えたら、人間の体にこのサイズは、あまりにもアンバランスすぎる。物理的に持ち上がるわけがないんだ!


「・・ダメだ。重すぎて持ち上がらない。俺の大剣に対する憧れは、ただの幻想だったのか⁉︎」


泣いた。まるで子供のように泣いた。そして、現実を直視した。


「さぁ、行こう」


「『行こう』って、この剣はどうするんですか⁉︎」


「ここに置いていく。俺は切り替えの早い男なんだ」


「ちょ、ちょっと待ってください!『置いて行く』って、せっかく授かった武器なのに⁉︎今、ミーアが鑑定してみますから、ちょっと待ってください!」


そんな持ち上げることさえできない剣、ただのゴミ武器に決まってる。


「出ました!こ、これは・・」


「鑑定するだけ無駄だよ。きっと【N 】ランクどころか、その下の・・」


「【UR】‼︎」


「ん?【UR】?」


「そうです!最高レア度と言われていた【SSR】のさらに上!ウルトラレアの【UR】です‼︎」


「へ⁉︎そんなのあるの?女神さまの話しじゃ【SSR】も世界に七つしかないとか言ってたが、その上ってことは・・」


「ミーアも初めてみました。こんなものが、この世にあるなんて・・。世界に一つだけの、まさに最強中の最強武器です!」

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