第2話 謎の剣士と巨大剣

「え⁉︎マジで⁉︎」


「マジです!」


ゲーマーとしての本能か、アドレナリンがどっと出て心臓がバクバクする。


「・・でも、ダメだ。持ち上がらないんだもん」


わかったぞ!これ、あれだ、ソシャゲでよくある『運営がインパクト狙いで作った武器が、ゲームバランスぶっ壊して、慌てて後になって、しばりや修正加えて使い物にならくなった』やつだ!


しかし、使い物にならないとはいえ、最高レア度の武器だ。売れば、金になるかもしれん。


「なぁ、この巨大剣、どのくらいの価値があるんだ?」


「それはもう、世界に一つで最強ですからね。国の一つや二つ、いや、それ以上の価値があると思いますよ!」


「マジか⁉︎」


それだ!それでいこう!こいつを売って、その金で伝説の装備を買いそろえ、さらに軍隊作って、近代兵器なんかも開発しちゃったりして、とっとと魔王もドラゴンも倒してしまおう!


「も、もしかして、売ろうと考えていません?」


「考えているよ。当たり前だろ」


「えぇ⁉︎こんなありがたい武器を売るだなんて、正気じゃないです!」


「いやいや、正気だよ。こんな振れない剣、何の価値もないゴミ武器ですわ」


「そ、そんなぁ・・」


それにしても、このデカブツ、どうやって街まで運ぶかが問題だな。


「ん?おっ!あそこに誰かが放置していった荷馬車があるぞ!あれを使おう!」


俺はウキウキで荷馬車に近づいていった。



「なんだ?この毛むくじゃらは?」


「フゴッ、フゴッ!」


荷馬車の脇に置かれた大きな毛の塊は、巨大な猪、ブルファングだった‼︎


荷馬車の周りには荷物が散乱している。襲われた旅人が捨てて逃げたのだろう。


「しまった!」


・・そうか、ここは異世界なんだ!どこで魔物と出くわすかわからない。油断したら命取りだぞ!くそっ!不意をつかれたぜ!俺はまだレベル1で、武器は転生特典のダガーが二本だけじゃないか!


「ソウタさん!相手が強すぎます!ここは、いったん逃げましょう!」


「いや、無理だ!この魔物は、間違いなく俺より素早い。街まで逃げ切るのは不可能だ!」


ブルファングは、こちらを睨みつけ、前足で土を蹴って威嚇してくる。くそっ!恐怖で身体が動かない!実践でいきなりこれかよ!


「フゴッ!フゴーッ!」


次の瞬間、もの凄い勢いで突進してきた!


その時だった。



一閃!



それは一瞬だった。目の前に現れた銀髪の剣士は、鞘から剣を抜くと同時に、迫り来るブルファングの首のあたりを斬った!『抜刀斬り』というやつだ。


ドスン!


足を止めた巨大な猪は、その場に倒れた。


「つ、強い!」


驚いた!なんという強さだ!


「あ、ありがとう」


「いえ、礼には及びません」


「俺は、スズキソウタ。恥ずかしながら、かけ出し冒険者だ。助かったよ」


「わたしは、ユイといいます。今は放浪の身です」


ユイと名乗る謎の剣士は、歳は十代後半か、間違いなく俺より年下だ。身長も俺より低く、160センチあるかないかだろう。肩のあたりで切りそろえられた銀髪は艶々に輝き、その肌は透きとおるように美しい。瞳は青く、どこか神秘的で、まるで宝石のようだ。


まだ幼さの残る顔立ちだが・・胸は結構あるようだな。マントの下の頑丈そうな鎧は、胸の膨らみを計算して作られているように見える。オーダーメイドか?


「それにしても、このブルファング、まだ息がありますね。今のうちに、トドメを刺しておきましょう」


「お、おい!」


可愛い顔して、けっこう残酷なのね!


ブルファングは、首もとを斬られてグッタリしている。大きな猪だが、丸っこくて、どことなく愛嬌があるように見えるのは気のせいか。そして、こいつの目が助けを求めているようにも見える。


小さい頃、秋田のばあちゃん家で、ケガをした猪の赤ん坊を助けて森に帰したことがある。


「ちょっと待ってくれ!こいつは、もう観念しているから、殺すこともないだろう。それに、この荷馬車の周りを見てくれ。人の死体が一つもない。こいつは、荷馬車の荷物から食べ物を奪っただけで、人は喰ってないんだよ」


「・・・。確かにそのようですが、これは魔物です。この場で殺しておかなければ、また人を襲うかもしれません」


ブルファングの丸くて大きな瞳は、さらにウルッとして助けを求めている・・ように見える。


「そ、そう、決めつけないでやってくれないか⁉︎あっ、そうだ、ちょうど、この荷馬車を拝借して、あの街まで荷物を持って行く引き手を探していたんだ」


「こ、これは魔物ですよ!それを馬のように使おうというのですか⁉︎」


「これを見てくれ!この巨大剣!普通の馬じゃ引っ張れないんだ!」


「な、なんですか、これは⁉︎剣ですか?だとしたら、なんて見栄っ張りな・・」


ユイは巨大剣を見て驚いている。


「これは神から授かった神聖な武器です」


「ミーア!」


「こんなところにも魔物が⁉︎」


ユイは慌てて剣を構えた。


「ひぇえぇー!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!こいつは、俺の相棒のフェアリーだよ。悪さはしない」


「何を言ってるんです⁉︎魔物ですよ⁉︎ここで討伐しなければ!」


くっ!こいつ見た目とは裏腹に、氷のような心の持ち主だな。融通の利かない学級委員長タイプだ。



ユイには、転生者ということはふせつつも、事情を説明した。


「魔王討伐⁉︎・・そうでしたか。それは、失礼しました。世間知らずというか、わたしも経験が浅いもので・・」


「ソウタさん!この方、凄いですよ!職業ホワイトナイト、レベル45です!」


どうやら、ミーアには相手の能力を鑑定するスキルがあるらしい。


「な、なんだって⁉︎」


ホワイトナイトといったら、ナイトの上位職じゃないか⁉︎剣を自在に操り守備力も高い。さらに、白魔法も使える。


「バレてしまいましたか。さすが、フェアリーですね。鑑定スキルが使えるとは」


「あんたみたいな強者が、なぜこんなところにいるんだ?」


「ちょっと訳がありまして、この大陸を調べて回っているのです」


ゲーマーの直感だが、彼女を仲間に引き入れたら、かなり有利だ。それに、かわいい。


「それじゃ、このブルファングにトドメを刺しましょう」


「おぉおぉい!さっきの話し聞いてたー⁉︎」


ったく、かわいいくせに、残酷なんだよな!



俺はブルファングの手当てをしてやった。驚くべきことに、ミーアは多少の回復スキルも使えるようだ。たぶん、ホワイトナイトも使えるはずだが、魔物相手には使ってくれそうにない。


「よし、これでいい」


「フゴッ、フゴゴゴッ」


ブルファングは立ち上がった。そして、元気になったブルファングを荷馬車に連結し、テコの原理とか色々使って、ようやく巨大剣を載せた。


「それじゃ、わたしはここで」


「ん?どこへ行くんだ?」


「あの街までです」


「そこなら俺たちも向かうところだ。一緒に乗っていけよ」


「え?でも、迷惑じゃないですか?鎧つけてるし、わたしが乗ったら重くなりますよ?」


「別に大丈夫だよ。な、シシマル?」


「フゴゴゴゴッ」


「大丈夫だってさ。ははははは」


「いつの間に名前まで⁉︎しかも、ブルファング語も分かるんですか⁉︎恐るべし!」


俺はシシマルの背中にまたがり、荷台に巨大剣とユイをのせて出発した。




しばらくして、かけ出し冒険者の街『ハイム』に到着。


この道中、ずっと考えていたんだが、転生の時、女神さまは、なぜこの街に降ろしてくれなかったのだろう?もしかして、この巨大剣が重すぎて、ここまで運べなかったとか・・?まさかな・・。



「ありがとうございました。じゃ、わたしは、ここで」


「お、おい、ちょっと待てよ!どうせ、この街にしばらくいるんだろう?だったら、せっかくだから一緒に行動しないか?さっきのお礼もしたいしな」


「別にお礼なんて・・」


「いいから、いいから、晩メシくらい、お兄さんにおごらせてよ、ね?」


ユイの高い戦闘力は魅力的だ。なんとか、このままなし崩し的にパーティに入ってもらえないものか。


「そうですか・・。お金も無いことですし、では、すいませんが、お言葉に甘えさせていただきます」


よし!こんなチャンスは滅多にあるもんじゃない!


「ソウタさん、晩ご飯のお金なんてあるんですか?」


「ミーア、これがあるだろ。巨大剣だよ、巨大剣!」


「やっぱり売る気なんですね⁉︎えーん・・」


まず、ギルドに行きたいところだが、先に武器屋へよっていこう。お金の確保が最優先だ。この世界はゲームの中の世界とは違う。お金が無いと飯も食えない。よく考えたら、なんて過酷な世界なんだ。

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