第5話 大魔導士と巨大剣

俺たちは今夜の寝床を確保するため、宿屋に来た。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」


「えーと、二人なんで、2部屋お願いします」


「あらま、残念。今日はもう1部屋しか空いてないんですよ」


「えぇ⁉︎そうなんですか⁉︎・・じゃ、その1部屋で」


「ちょ、ちょ、ちょっと!待ってください!困ります、ソウタと同じ部屋なんて!」


「え?なんで?別にいいじゃん」


「別によくないですよ!も、も、もしもの時は、ど、どうするんですか⁉︎」


「何?もしもの時って?・・あ、もしかして、俺のこと信用してないとか?・・だったら、ショーーック!ソウタ、ショーーック!」


「い、いや、信用してないわけじゃないですよ、ただ、ちょっと・・」


「よしっ!じゃ、決まりだ!」


この街に宿屋はここしかないし1部屋しか空いてないんだ、ユイには悪いが、同部屋になるのは仕方のないことだ。だって、昨夜、俺は野宿で身体中が痛くて、ぐっすり眠れていない。それに、今日はクエストをこなしてクタクタなんだ。今夜も野宿は絶対にイヤだ。死んでしまう。



というわけで、俺たちは同じ部屋に泊まることになった。


「ぜ、絶対、手を出してきたり、のぞいたりしないでくださいよ!」


「そんなことせんわー!・・随分と信用ないんだな。俺は別名『仏のソウタ』て呼ばれているんだぜ。もしも、隣で裸の美女が寝ていたとしても、そっと布団をかけて耳元で『ケアレス・ウィスパー』を歌ってあげるほどの紳士なんだ」


「・・そ、そうなんですか。疑ったりして、ごめんなさい」


「まぁ、いいってことよ。とっととシャワー浴びてきてくれ。紳士はレディーファーストだから」


「じゃ、お言葉に甘えて、お先に失礼します」


「ミーアもユイさんとご一緒させていただきます」


ユイとミーアはシャワー室へと入って行った。


ガサガサ、ゴトン。


キュッ、キュッ、シャー。


「はぁ。今日は疲れました。仲間と一緒に行動するのが慣れていないもので。でも、いい人に出会えた気がします。ちょっと頼りないですが、生き物を助けたり、ご飯をごちそうしてくれたり、優しいですしね」


「はい。ソウタさんは基本的には優しいです」


そんなセリフを聞いていたら、脱衣所の陰に潜り込んだことを後悔する。あいつら、ちゃんと言葉に出して言ってくれれば・・。それじゃ、そっと、退散、退散と。


「はぁ、さっぱりしましたね」


シャワー室と脱衣所を隔てているカーテンが勢いよく開かれ、そこには忍び足で去ろうとする俺の後ろ姿があったのだった。


「はっ!ちょ、ちょっと・・何やってるんですかーっ!」


「ひぇえぇえぇ!」


「信じたわたしがバカでした!この場で斬り捨ててやりましょう!」


「ご、ご勘弁をーーー!」



とりあえず、命だけは助けてもらった。


俺は脱衣所を出る際、後ろ向きだったので、ユイの裸を見ていないこと。今後、そのようなことがないように注意すること。この2点で、なんとか許してもらったのだ。


「・・ははは。さっきは悪かったな」


「ほんと、油断も隙もあったもんじゃありません!」


「お詫びと言っちゃなんだが、一つしかないベットはユイにゆずるよ」


「え?でも、ソウタは昨夜、野宿して身体が痛いと言っていましたよね?宿代も払ってもらったことだし、わたしなら床に毛布を敷いて寝るのでお構いなく」


「そんなわけにはいかないよ。女の子を床に寝させるわけにはいかない。俺は、もう硬いところで寝るのも慣れたし、昨日のベンチに比べたら、ここは部屋の中だ、かなりマシな方だよ」


「そんなわけには・・」


「いいから、いいから。気にすんなって」


「・・・・・」




窓から差し込む月の明かりに照らされたユイの寝顔は美しかった。ふっくらとした花びらのような唇は薄紅色で、ずっと見ていると触れてしまいたくなる。


髪や身体からは、ほのかな石鹸の香りが漂い、近くに顔を寄せると心地よい安らぎを与えてくれる。もったいないので深呼吸しておこう。


そして、鎧をつけている時には拝むことのできなかった胸の膨らみは、服の上からでもその柔らかさが伝わってくるようだ。その豊満なボディラインは腰からヒップにかけて女性特有の曲線を描いてスラッとした脚へと続いている。


「んんん・・、ん?・・・ちょ、ちょっと!何やってるんですかーっ⁉︎」


「さっき言ったろう?耳元で『ケアレス・ウィスパー』を歌ってあげると」


「・・・・・この男はーーーっ‼︎」


ユイの身体を舐めるように見ていたのがバレた俺は、その夜、半殺しにあった。




翌日、俺たちはギルドへ向かっていた。


「だから、さっきから謝っているだろう?」


「そのこととは別の話しです」


ユイが今日でこの街を去るというのだ。王国の騎士として、やることがあるらしい。


「じゃ、俺たちも連れて行ってくれよ。足手まといにならないように最大限努力するからさ」


「それはできません。わたしの任務は、かなり危険が伴うので、お二人に危害が及ばないとも限らないのです」


色々助けてもらったしな。これ以上、引き留めても迷惑かけるだけか。とりあえず、代わりのメンバーを一緒に探してくれるみたいだから、後のことは、それから考えるとするか。



ギルドに着いてすぐ、パーティに参加したい人がいないか、受付のおねえさんに聞いてみた。


「う〜ん、ここは駆け出し冒険者の街ですからね、上級職の強い冒険者と言われましても・・。みなさん、すでにパーティに入っている人がほとんどですし」


まぁ、そりゃそうだな。上級職のベテラン冒険者がこんなかけ出し冒険者の街に用があるわけがないんだ。ユイは特別だったんだな。


「あ、そうだ、一人だけいます!まだ、パーティに入っていない方が。つい先日、この街にやって来た方で、たしか、アークウィザードだったはずですが・・」


「その話し、詳しく!」




ギルドのおねえさんが言うには、そのアークウィザードは、たまにこの街に訪れ、広場でバザーをやっているという。


「このへんか?」


「ソウタさん、あれ!」


ミーアの指差すほうへ目をやると、広場の端の方で、布を敷いた上に何やら怪しげな物を並べている人物がいた。近づいてみると、看板らしきものに『流浪の魔道具店レイナの店へようこそ』と書かれている。


「あの、すいません、あなたがアークウィザードの方ですか?」


「いらっしゃい!いかにも、あたしはアークウィザードだけど、何か用?」


「俺の名前は、スズキソウタ。まだ、かけ出し冒険者なんだが、実は、俺たちのパーティに加わってくれる人を探していて、よかったら、ウチのパーティにどうかなと」


「なんだ、お客じゃないのね。あたしは、レイナよ」


レイナと名乗るこのアークウィザードは、年は14歳らしい。背丈はユイよりも小さい。魔導士らしく魔女の帽子とローブを身につけている。長く伸びた黒髪と、大きな茶色の瞳が印象的だ。


「それにしても、あなた自分が何を言ってるか分かってるの?あたしは上級職のアークウィザードよ。あなたみたいな初級冒険者とパーティを組むわけないじゃん。ウケるんですけど」


なんだ、こいつ⁉︎まだガキのくせに、超生意気じゃんか!クソッ・・だが、ここで短気を起こしてもしょうがない。なにせ、この街では貴重な上級職だ。


「ははは、そうかい。ところで、ここで広げている道具みたいなものは売り物なのかい?」


「そうよ!これは、どれも、あたしが発明した魔道具の数々よ!どれも珍しい物ばかりだから、好きなだけ見ていって」


「たしかに、珍しいものが多いですね。ソウタの巨大剣の次に珍しいです」


「巨大剣?何よ、ソレ?あたしの発明品より珍しいっていうの?」


「ど、どうかな。広場の入り口のところにあるから、見にくるかい?」


「見せてもらおうじゃないのよ!」


これが、大陸一の大魔導士レイナとの出会いだった。

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