第4話 ダンジョンと巨大剣
翌日、俺たちは街を出て初級ダンジョンの入り口へと向かっていた。持ち金がないので、まず、ギルドでクエストを受けて、その報酬をいただきつつ、レベルUPもする。RPGの基本だ。
シシマルの荷馬車に揺られながら、3人でおにぎりを頬張った。景色を見ながら、のんびり朝食って感じだが、呑気なことは言ってられない。このおにぎり代で持ち金も底をついたからだ。
「昨晩は、ありがとうございました」
「いやいや、いいんだよ。晩メシの後、俺は街の広場で野宿だったけど、ユイはどこで寝たんだ?」
「わたしは宿屋に泊まりました。ちなみに、ミーアさんも一緒でしたよ」
「ミーア、おまえは俺の御付きだろ⁉︎」
「ソウタさん、ミーアも女子なので野宿とかそういうのはちょっと・・。すいません」
防犯とかもあるし、女の子はしょうがないか。それにしても身体中が痛い。硬いベンチの上で一晩過ごしたんだ、ムリもない。今夜は野宿したくない。
街から少し離れた場所にある遺跡の地下が、目的のダンジョンだ。ここで魔物を5匹駆除する。それがギルドの依頼だ。
「せやっ!」
バスッ!
手持ちの唯一の武器、ミニマムダガーで魔物を切り裂く。
「これで3匹目!」
倒した魔物はスキュラというクモの魔物だ。体は小さく、動きが素早い。
ズサッ!
「しまった!」
ちょっとした油断で、攻撃を受けてしまった。クモの魔物だ、もちろん毒を持っている。
「くそっ!身体が痺れて動かない!」
「大丈夫ですか?ちょっと待ってください」
ユイが、そう言って傷口に手を当てた。
「キュア!」
白魔法が俺の身体から毒を取り除いてくれる。
「ありがとう!」
「敵を倒すのも手伝いましょうか?」
「いや、その必要はないぜ。自分でやんなきゃレベルUPできないからな。ユイは、そこで見ていてくれ!」
この世界は強さがモノをいう弱肉強食の世界だ。人に頼ってばかりだと強くなれない。今はとにかく魔物を倒しまくって、どんどんレベルを上げていこう。
「さぁ、どんどん来い!」
「ブギュルギュギュ・・」
「ん?」
奥から今までのスキュラとは桁違いの大きなやつが姿を現した。目は赤く、口からは大量の粘液が滴り落ちている。
「ぎっ⁉︎で、でかい・・」
そのクモのお母さんは、子供を殺されて、それはそれはお怒りになっていましたとさ。おしまい。
「先生ー!先生ー!お願いしまーす!」
「・・しょうがないですね」
鞘から剣を抜いたユイが前に出る。
「ブギュルギュシャー!」
ユイは巨大スキュラの攻撃をヒラリとかわし、そして、一閃!
「はっ!」
その剣は魔物の身体を一刀両断した。
「おぉ!」
さすがホワイトナイトだ。白魔法も使えて剣技も凄い。俺も早く強くなって、ユイみたく無双したいぜ!
ひととおり魔物を駆除したところで、俺たちはダンジョンを出た。
「おぉ!レベルが3になっている!」
これは思ったより早いペースでレベル上げができそうだな。やっぱりユイの存在が大きい。
「レベルアップで増えたポイントをステータスに振り分けましょう。コツとしてはバランスよく振り分けるのが・・」
「【力の強さ】に全振り!」
「えぇ⁉︎そんなぁ!」
ミーアはわかっていない。そんな『バランスよく』なんて言ってたら、巨大剣を持つのに何年かかってしまうんだ⁉︎
「うぉおぉおぉ!力がみなぎってくる!かはーっ!」
ステータスポイントを【力の強さ】に全振りした効果は、かなりあるようだ。
「よし、やるか」
シシマルの荷馬車の上の巨大剣の
「いくぞ!」
「頑張ってくださーい!」
「・・・・・(ドキドキ)」
あれ?ユイもドキドキしているご様子。女子の前で恥はさらせないぜ!みんなが期待しているんだ、やってやる!今度こそ、やってやるぜ!
「せーのっ!フンッ!」
グキッ!
膝から崩れ落ちた。またしても腰をやられたのだ。そうだ、この剣に名前を付けよう、『腰殺し』と。
俺たちはハイムに戻り、ギルドへ向かった。クエストの報酬を受け取るためだ。
「スキュラのボスも討伐していただいたので、ボーナスも含めて、今回の報酬は3万ゼニスになります」
「おぉ!3万か!ありがたい」
とりあえず、数日のメシ代と宿代くらいにはなるだろう。
「ボスを倒したのはユイだ。報酬の半分は持っていってくれ」
「いえ、それは、いただきません。わたしは、たまたま居合わせただけですので」
「そう言わずにだなぁ・・。じゃあ、今日の晩メシと宿代くらいは、おごらせてくれよ」
「はぁ。そう言っていただけるのであれば・・」
「よし!決まりだ!」
その日の夜、俺たちは酒場にやってきた。
「な、なんか、思ったより質素になっちゃったな。・・ははは・・」
「大丈夫です。これだけあれば十分です」
「ところで、ユイは何歳なんだ?」
「わたしは今年で16歳になりました」
テーブルの上には、おおにわとりの唐揚げとラウシカのマーマレード煮が3人前、あとは飲み物だけ。俺は、もう二十歳だからビビアというアルコールをいただこう。ユイは未成年なのでオレンジジュースだ。
最初のクエスト達成記念に、本当は、もっと豪華にいきたかったのだが、3万ゼニスの約半分がシシマルの餌代となって消えたのは予想外だった。これからは、あいつの燃費の悪さも考慮に入れないとな。
「乾杯!」
ミーアは身体が小さいので食べる量も少ない。3人前とはいえ、実質、俺とユイが1.5人前づつ食べる。
「うまい!」
ラウシカの肉は、やや臭みはあるものの、柔らかくて脂がのっている。この世界では一般的な食肉らしい。マーマレードと合わせて煮込むことで臭みがとれ、さっぱりとした後味になるようだ。
「はぐ、はぐ、はぐ、はぐ」
ユイは、すごい勢いで食いついている。育ち盛りだからな。
「前にも聞いたけどさ、おまえほどのレベルの高い剣士が、なんでこんなかけ出し冒険者の街に来たんだ?」
「実は・・最近、各地で不穏な出来事が頻発しておりまして、その調査のため、各地を見て回っているのです」
「不穏な出来事って?」
「村や街で人が消えたりとか、正体不明の魔物が見つかったりとか・・」
「なるほど。それじゃ、ユイはホワイトナイトだし、王国の騎士とかなのか?」
「まぁ、そんなところです」
「ふーん。でも、そのわりには金持ってなさそうだな」
「はぁ。それが、旅の途中でシーフに財布を取られてしまいまして、このような状況になっています」
「げっ!ホワイトナイトから財布を盗むなんて、どんだけ怖いもの知らずなんだよ⁉︎っていうか、盗まれるユイもユイだがな」
「油断してしまいました。ちょうど今のように食事中に盗まれたようで」
たしかに、あの食いっぷりだと隙だらけだもんなぁ。しっかりしてそうで、まだ子供なのか?
「あと、お話ししておかなければならないのですが、わたしは任務中ゆえ、このままソウタのパーティに残ることはできません。つきましては、代わりのパーティメンバーを探して欲しいのです」
「マジかっ⁉︎」
「マジです。すいません」
ヤバい。ユイに抜けられるとピンチだ。攻撃力があって回復魔法も使える、そんなやつ、この辺にはいないし。かと言って、俺がユイに付いて行ったところで、これだけのレベル差だ、ただ足を引っ張っちゃうだけだもんなぁ。どうしよう・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます