第7話 アークドラゴンと巨大剣

ユイの渾身の一撃は、アークドラゴンの首にヒットした!


ギンッ!


「なにっ⁉︎」


ユイの放った一閃は、アークドラゴンの硬い鱗に跳ね返された。


「王女とあろう者が愚かだなぁ。アークドラゴンは、ただでさえ守備力が高いのだ。その上、このレベル差だ、そんな攻撃が効くわけがないだろう?」


攻撃を跳ね返されたユイはバランスを崩して着地したが、その隙を狙って、今度はアークドラゴンの攻撃が始まった。


ブオッ、ガスッ!


「うっ!」


前脚による爪攻撃だ!まともに喰らったユイは跳ね飛ばされ、地面を転がり続けた。そして、そこに追い討ちのディバインブレス!青白い炎がユイを直撃する!


「ユイーーーッ‼︎」


「くぅうぅぅ・・!」


ユイは、すかさず防御姿勢をとって、ディバインブレスを耐えている。同時に白魔法もかけ、自己回復して耐えているようだ。


「ユイッ!」


なんとかしなければ!なんとか・・。クソッ、レベルも低く、スキルもない俺にできることが見当たらない。考えるんだ!なにか、なにか策はないのか・・。なんとかしないと、ユイが・・・。



「メルトスフィア‼︎」


ボォッ、ゴォオォオォオォオォ‼︎


突然、巨大な火球がアークドラゴンを直撃した!


「ギュアァオォオォン‼︎」


「駆け出し冒険者の街を襲うなんて、いい趣味してるわ、あなた」


「レイナ!」


「アークウィザードか⁉︎これは、面白い!」


「ツダとか言ったわね。そのペット連れて、今すぐ退散しなさい。さもないと、この大陸一の大魔導士レイナ様が・・・えーと、えーと・・こ、殺すわよ」


殺す⁉︎ボキャブラリ少なっ!


ユイが手負いの今、この街の最高レベルはレイナだろう。あれだけの火炎魔法を操れるならチャンスはあるか⁉︎


「ソウタさん!ミーアは回復スキルでユイさんの手当てをします!」


「あぁ!頼む!」


ユイは片膝をついたまま立ち上がれないでいる。


「まだ、わからんのか?愚かだなぁ。見てみろ」


レイナの特大の火炎魔法を喰らったアークドラゴンだが、まったくダメージを受けていない。


「さすが、『神の化身』と言われるドラゴンね。最上級の火炎魔法をもってしても、傷一つ、つけられないなんて・・。これは、あたしも本気出さなきゃダメみたいね」


「最上級魔法より強力な魔法があるのか⁉︎」


「禁呪を使うわ」


「禁呪⁉︎」


「ソウタとか言ったわね。禁呪は、あたしの魔力の全てを使い果たさなければならないのよ。だから、あたしが倒れた後、あなたが面倒をみるのよ」


「わかった!任しとけ!絶対、いやらしいイタズラとかしないから!」


「・・・なんか不安だわね」



レイナはマントをひるがえし、アークドラゴンに向かって両手を広げた。


「・・・炎の眷属けんぞくたちよ、我が盟約に従い、いにしえより甦りて、全てを焼き尽くせ!」


「ファイアノヴァ‼︎」


アークドラゴンの頭上に巨大な火の玉が形成されていく。それはとてもとても大きく、灼熱の太陽のようだ!


「はぁあぁあぁぁ!」


レイナの手の動きに合わせて、それが落ちて来る!


「おいおいおい!デカい!デカいってーっ!こんなデカいの大丈夫かーっ⁉︎」


コフォオォオォーーー‼︎


ドッゴォオォオォオォオォオォオォオォン‼︎


巨大な炎柱が立ち上り、爆風が吹き荒る!


「うわぁあぁあぁ!」


目が開けられない!・・まったく手加減ってやつを知らないのか⁉︎



「くっ・・」


そして、予告どおりレイナは倒れた。


「大丈夫か⁉︎」


俺の問いかけにも反応はない。ちょっとイタズラをしようと思ったが、後にしておこう。


もうもうと立ちのぼる煙の中からアークドラゴンの巨体が現れる。


「なんてことだ⁉︎あれだけの火炎魔法を喰らって動けるのか⁉︎」


「フハハハハハ、結構、イイ線いってたぞ!だが、残念ながら無駄だったなぁ」


レイナの捨て身の攻撃もアークドラゴンにはダメージさえ与えることはできないのか⁉︎


「ついでだから、街も焼き尽くしてやろう!」


「ギュアァオォオォン!」


アークドラゴンは街に向かってディバインブレスを吐き出した。


ゴォオォオォオォオォオォオォッ‼︎



「はぁあぁあぁぁ!」


剣を捨て腕をクロスさせて、青白い火炎の前に立ちはだかったのは、ユイだった!


「ユイーーーッ!」


ユイに直撃した火炎は受け流され、おかげで街への直撃を避けられている。


「ユイさんは捨て身の防御で街を守っています!」


「ダメだ!ユイの鎧がどんどん溶けている!このままじゃ持たない!」


クソッ、こんな時に何もできないのか⁉︎なんのためにこの世界に来たんだ⁉︎あのドラゴンを倒すためじゃないのか⁉︎ソウタ、前へ出ろ!勇気を出せ!そして、ユイを助けろ‼︎


「うぉおぉおぉーーーっ!」


俺は、両手でミニマムダガーを握りしめ、アークドラゴンへ特攻した。ユイやレイナの強力な攻撃でも効かなかったのだ。俺のダガーがダメージを与えられとは思わない。でも、もう、じっとしていられなかった!


女神さま、すいません、どうやらここが潮時のようです。死後は、またよろしくお願いします。


「くらぇえぇえぇーーーっ!」


ドンッ!


「どわっ!」


駆け出した俺に体当たりしたのは、シシマルだった!


シシマルは俺の代わりにアークドラゴンへと突っ込んでゆく。


「シシマルーーー‼︎」


「フゴゴゴゴゴォー!」



ブオンッ!


ボゴンッ!



アークドラゴンは、長い尻尾を振り、シシマルの突撃を跳ね飛ばした。跳ね飛ばされたシシマルは宙を舞い、俺の頭上を飛び越えてゆく。


「フゴォーーー‼︎」


もの凄い勢いで飛んでいったシシマルは、そのまま荷馬車の上の巨大剣に激突‼︎


ボゴンッ!ガタンッ!


荷馬車のテコの原理も加わり、その反動で今度は巨大剣が勢いよく跳ね上がった‼︎


この時、なぜかスローモーションのように見えた。俺は、頭上を飛んでゆく巨大剣に、ジャンプ一番、手を伸ばした。咄嗟の行動だったが、俺はそのつかを握っていた!


巨大剣は空中を二度三度、回転しながら飛んでゆく。同時に、俺の身体も遠心力で二度三度、回転する。


「うぉおぉおぉおぉーーー‼︎」


そして、回転しながらアークドラゴンの首めがけて落ちていった。



斬‼︎



巨大剣はアークドラゴンの首をブッた斬る‼︎


ズドォオォン‼︎


胴体から切り離された首は、そのまま地面に落ち、その巨体は揺れながら倒れた。

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