第16話 魔王と巨大剣

今日は朝から、拠点となる物件探しだ。


今、パーティメンバーは、俺、ユイ、レイナ、ミーアの4人だが、ミーアは小さいのでユイかレイナと相部屋にしてもらうとして、最低でも3部屋は必要だろう。


さらに、みんなで集まれるリビングも欲しいところだ。そうなると、賃貸物件だと、なかなか家賃も高く、手が出しずらいところだ。俺たちにはお金がないのである。


「ふと思ったんだが、これ、物件を探す前に職探しが先なんじゃないだろうか?」


「たしかに、そうね。お金がないと敷金や前家賃も払えないわね」


「はぁ・・」


「でも、安心していいわよ!『レンジレンジ』の量産型を発注しておいたから。それが売れれば、お金に困ることもなくなるわよ」


「おぉ!さすが、レイナだ!・・でも、よく、発注するだけのお金があったな」


「あたしとソウタの全財産をブチ込んだもの。なんとか最小ロットで発注できたわ」


「ん?おまえ、今、なんて言った?」


「え?あたしとソウタの全財産をブチ込んだって言ったのよ」


いっ⁉︎・・・俺は財布の中身を確認した。


「こぉーーーのッ、バカチンがーーーッ!」


「ヒッ!」


「いつの間に俺の財布から金ったんだよ⁉︎これからどうすんだよ‼︎物件見つけたって借りることもできねぇじゃねぇか⁉︎あぁ⁉︎今夜の晩メシだってどうすんだよ⁉︎」


「ヒィイィー!そ、そんなに怒らないでよ!『レンジレンジ』が売れたら、何倍にもして返すから!怒らないでよ!」


「このバカチンめが・・。で、いったい何台発注したんだ?」


「3台よ」


「3台?・・たった3台じゃ、金にならんだろうがーーーッ‼︎このっ!ロリ娘がーーー‼︎売ってやる‼︎おまえを変態ロリコン紳士に売って、金にしてやる!」


「ヒィイィイィ!ご、ごめんなさい!勝手に持って行ったのは謝るわ!だから、それだけはやめて、お願い!」



「はははは、威勢がいいな」


レイナの襟をつかんで持ち上げているところに、バルダスとその仲間がやってきた。


「おまえら、ちょうどいいところに来た」


「ん?なんだ?」


「お金貸してください」


「はははは、昨日のチーズじゃがバター、すげぇ旨かったからな。それくらい、貸してやるよ」


「ほ、ほんとう⁉︎あ、ありがとうございます」



「スズキソウタさんはいますかーーー⁉︎」


今度は、遠くから俺の名を呼ぶ声が近づいて来る。


「あ、ギルドのおねえさん!」


「スズキソウタさん、ここにいましたか⁉︎た、大変です!今、通達があって、王国が魔王に襲われているそうです!」


「なにっ⁉︎」


「スズキソウタさんに来て欲しいと、王女さまから直々にご依頼がありました!」


ユイが俺に・・・⁉︎


「ソウタさん!ユイさんがピンチかもしれません!急ぎましょう!」


「急ぐっていっても、ここからだと、たどり着くまで数日かかってしまう。どうしたら・・」


「あたしが転送するわよ!」


「レイナ、おまえ、転送魔法も使えるのか⁉︎」


「あたしを誰だと思っているのよ⁉︎大陸一の大魔導士、アークウィザードのレイナ様よ!一度行ったことがある場所になら、いつでも転送することができるわ」


「よし、じゃ、急ごう!」


「オレたちも連れて行ってくれ!」


バルダスたちも名乗りをあげた。魔王軍と戦争となれば、人数は多ければ多いほどいい。


「ありがとう!よし、みんなで行くぞ!」


「ソウタ、待ってくれ!傭兵団には、あと30人の兵士がいる。そいつらも連れて行ってくれ!」


「レイナ、いけるか?」


「ギ、ギリギリだけど、いけなくもないわ」


すぐにバルダスが傭兵たちも呼び集め、俺たちはレイナの転送魔法でフローディス王国へと飛んだ。




着いた場所は、王国の城門前だった。


「も、もうダメ・・・」


レイナは、シシマルの荷馬車と30人以上の傭兵たちを転送させて、魔力を使い果たしてしまったようだ。


「レイナはオレにまかせろ!」


バルダスがレイナをおぶってくれた。


「よし、行くぞ!」


俺たちは、城門をくぐり、フローディス城へと一直線に向かった。ユイは無事だろうか⁉︎なんとか、生きててくれ‼︎



『国王の間』の扉の前までやって来た。


「ユイーーー‼︎」


バタン!


俺は勢いよく扉を開けた!


「ソウタ・・」


「ユイ、無事か⁉︎」


「はい。早かったですね」


「へ?」


目の前には、あっけらかんとした表情のユイがいた。


「ようこそ!おぬしがスズキソウタ殿だな」


そう言って、玉座に座っているのは、国王『ロデリック・ベオルブ・フローディス』だ。


「あ、あれ?ま、魔王に襲われているはずじゃ・・?」


「魔王は、こちらです」


ユイの指さすほうに目をやると、一人の美しい女性が立っていた。


「はじめまして。魔王のシスティーナ・ザナディと申します。シスとお呼びください」


シスと名のるその美女は、腰のあたりまである長い黒髪と美しい顔立ちで、品の良さを感じさせる。頭には朱色の角が二本あり、魔王の威厳をたたえているようだ。


顔の上品さに対して、目のやり場に困るほど露出の多い服は、Gカップはありそうな巨乳と大きすぎる巨尻のおかげで、『大事な部分』をのぞき、そのほとんどが露出している状態だ。それは、例えるなら『エロ魔王コスプレのおねえさん』といったところだろう。


「シスは魔王を辞めたくて、ここへ来たらしいのです」


「や、辞めるって、どういうことだ⁉︎」


「もともと性格に合っていないというか、やりたくなかったというか、魔王でいるのがストレスだったのよ。さらに、魔王軍の幹部たちからも、『アレはどうするのか?コレはどうするのか?』と決断を迫られる場面も多くてね、あ、私、決断力ないのよね、だから、もう耐えられなくて、辞表を出してきたの」


えぇーーーッ⁉︎なんて自由奔放な魔王なんだ⁉︎新卒1年目で会社辞めた若者みたいだな!そもそも魔王の辞表なんてあるのか⁉︎


「それで、王国に投降してきたらしいのですが、再就職したいというので、うちのパーティを紹介したところ、ぜひ、面接を受けたいと・・」


魔王が面接て、聞いたことないぞ。


「それで俺を呼んだのか?」


「はい。だって、うちのパーティのリーダーは、ソウタですから」


焦って飛んできて損したわ!


「あなたがリーダーのソウタさんね。私、元魔王だから戦闘力だけは自信あるわよ。あとね、料理も得意なの」


家庭的な魔王とか見たくねーッ!


「暗黒魔導士を追うなら、かなりの戦力になるかと思いまして」


「た、たしかに、そうだけれども、一応、魔王を倒すのも俺の目標の一つなんだよな。魔王倒さないと行けない場所も目指していることだし・・・」


「あ、それなら、大丈夫よ。例の洞窟への扉よね?必要であれば、開けておくわよ?」


「えっ⁉︎本当⁉︎」


「えぇ、もちろん」


ラスボススキップで、裏ボスへのルート解放しちゃったよ!・・と言いたいところだけど、解放してもらったところで、今の俺のレベルじゃ『真鍮しんちゅうのドラゴン』は倒せないだろうな。


「ありがとう!・・でも、今の俺には先にやることがあるんだ。暗黒魔導士の正体を突き止めて、ヤツらを止めなければ・・・」


「暗黒魔導士⁉︎あなた、暗黒魔導士に会ったことがあるの⁉︎」


「ソウタは、暗黒魔導士に操られた化け物を倒しました」


「そ、それは本当⁉︎あの化け物は、我々魔族でさえ太刀打ちできなかったのよ!」


魔王の軍勢にさえ、脅威を与える暗黒魔導士とは、いったい何者なんだ⁉︎

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