第15話 ソードマスターと巨大剣
翌日。
レイナは、『電子レンジ』をモチーフにした魔道具を開発すると意気込んで、宿屋を飛び出していった。きっと、鍛冶屋にでも行って、工房を使わせてもらおうという魂胆だろう。
俺はというと、拠点となるような物件を探して街の中を歩いていた。暗黒魔導士を追うため、この街に拠点を構えたいと考えている。
ふと気が付いたんだが、俺のこの世界における目標は、魔王を倒し、その後に待ち構えている
ユイの命を狙っているから?この世界の平和を脅かすから?・・・自分でもハッキリとはわからない。とりあえず、言えることは、魔王にしろ
暗黒魔導士を追ううちに、きっとレベルも上がってそれも可能となるだろう、と考えている。
ドンッ!
考えごとをしながら歩いていると、誰かにぶつかった。
「あ、す、すいません!」
俺は、とっさに謝った。
そこに立っていたのは、屈強な男だった。どこかで見たことあるような・・そうだ、昨日、ギルドで俺を睨んでいたやつか⁉︎
「おまえが『神殺し』と言われる剣士か?」
「あ、いや、別に、それは誤解なんですけどね。・・はははは」
「アホそうな顔に、ひょろひょろの体で、いったいおまえに何ができるというんだ?」
ムッ!失礼な!ちょっと強そうだからって調子にのるなよ!・・でも、こんな脳筋バカは相手にしないのが得策だ。
「・・じゃ、失礼します」
「待て!モヤシ野郎!無視するんじゃねぇ!」
カチンッ!モヤシ野郎だって⁉︎いや、間違ってないけれども・・おまえに言われる筋合いはない!
「アンタ、俺が誰だかわかってないようだな?アークドラゴンを倒した『剛の者』とは俺のことなんだぜ」
「フッ、ハッタリもそこまで言えりゃ、立派なもんだ」
「あ、いや、本当なんだって!街の人に聞いてみてよ?」
ズチャッ!
ヤツは俺の足下に剣を投げてきた。
「俺の名前は、バルダス。傭兵団の団長だ。丸腰の相手とは勝負しねぇ。その剣をとれ!」
「ソウタさん!あの人、強いですよ!ソードマスターでレベル48です!」
「ミーア!それをもっと早く言ってくれ!」
知ってたら一目散に逃げたのに!
バルダスは鞘から剣を抜いた。
「このガイアソードのサビにしてくれる!いくぞ!」
バルダスが剣を構えて突込んでくる!
「ソウタさん!あの剣はレア度【SR】の強力な武器です!気をつけてください!ちなみに、足下の剣はレア度【N】のかけ出し冒険者の剣です」
かけ出し冒険者の剣だって⁉︎くそッ、でも、長身である分、手持ちのダガーよりは使えるか⁉︎
俺は足下の剣を取った。
「はぁあぁあぁッ!」
キン!キン!キン!キン!
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺は、そんなつもりはない!」
「おじけづいたか⁉︎しかし、もう遅いわ!」
キン!キン!キン!キン!
「だいたい、おまえの剣、【SR】じゃないか⁉︎汚ねぇーぞ!」
「ははは、剣を貸してもらえるだけ、ありがたいと思え!」
キン!キン!キン!キン!
「死ね!モヤシ野郎!」
「ソウタさーーーん‼︎」
くそっ!このままじゃ
キン!キン!キン!キン!
「どうだ⁉︎オレの剣圧で身動きもとれまい!死ね!」
キン!キン!キン!キン!
「・・・・・」
あれ?こいつの剣圧・・弱い。
「はははは!ぐうの音も出ないか⁉︎ハ・・ハッ、ハッ・・。死ね!」
力いっぱい剣を撃ち込んでくるバルダスを、俺は片手で軽くいなしていた。
ソードマスターでレベル48の達人が、こうも弱いとは・・。そうか、俺は、すべてのステータスポイントを【力の強さ】に全振りしてきた。だから、バルダスの撃ち込みが、こんなにも軽く感じるのか!
キン!キン!キン!キン!
「うーむ、これは意外な副産物だな」
「ビ、ビビったって・・ハァ、ハァ・・もう遅い・・ハァ、ハァ・・し、死ね・・!」
そう言って、倒れたのはバルダスのほうだった。
「あれ?もう終わりか?」
バルダスは体力を使い切ったのである。
「カシラーーー!」
5、6人の男たちが駆け寄ってきた。きっと、バルダスの部下だろう。
「貴様、よくもカシラをっ!」
「・・やめろ!俺が負けたんだ。この人に手を出すんじゃねぇ」
負けたというか、俺、何にもしてないけど・・・。
「噂どおり、すごい剣さばきだったぜ。それにしても、アンタほど腕の立つ人が、なぜ、そんな小さなダガーしか身につけてないんだ?」
「ん?これか?これは別に俺の主力武器ってわけじゃないんだよ」
バルダスたちが、俺の『主力武器』を見たいというので、荷馬車のところまで連れてきた。
「驚いた!なんだこの剣は⁉︎いや、そもそも、剣なのか?」
まぁ、第一印象は誰でもそうなる。
「バルダス、あんた強そうだし、その剣持ち上げられるか試してみてくれよ」
これだけ屈強な身体をしている男だ。腕だって俺のウエストくらいはある。もしかしたら持ち上がるかもしれない。
「・・よし、やってみよう」
俺たちは
「いくぞ!」
バルダスは巨大剣の
「うぉおぉおぉおぉおぉッ!」
おぉ!いくか⁉︎いくのか⁉︎
グキッ‼︎
「いっ・・・⁉︎」
持ち上がる前に、バルダスはヘナヘナと膝をついた。
「腰をやったか・・こいつは別名『腰殺し』と言われる剣なんだ」
「・・ア、アンタ、こんな剣を使うなんて、と、とんでもねぇな!」
そこに、遠くから手を振って駆け寄ってくるやつがいる。
「ソウターーー!」
レイナだ。
「で、できたよ!『レンジレンジ』の試作ができたのよ!」
有無を言わさず、俺はレイナに引っ張られて、酒場に向かった。なぜか、バルダスとその仲間もついてきた。
テーブルの上には四角い箱が置かれている。
「さぁ、さっそく、使ってみて!」
「さっそくって言われてもなぁ。・・あ、そうだ、バルダス、あんた、好きな料理は?」
「えーと、チーズ料理が好きだが・・」
「よし、チーズだな!」
俺は、酒場のコックにあるものを注文した。
「これでいいんですか?」
それは、ジャガイモにバターをのせ、さらに、その上にチーズをのせたものだった。
「ここへ入れてちょうだい」
レイナの作った箱型の魔道具『レンジレンジ』に、それを入れる。
チーーーン!
「できたわよー!」
『レンジレンジ』から取り出してみると、フワッとバターの美味しそうな香りが漂ってきた。チーズは溶け、ほどよく焦げ目までついている。オーブン機能まであるのか⁉︎
「おぉ!」
みんな思わず声が漏れる。
仕組みとしては、こうらしい。すべての魔力を雷属性に変換してマイクロ波を起こす。そのエネルギーを使って箱の中のものを加熱するというのだ。よくわからないが、レイナは天才だ。
「さぁ、みんな、食べてみようぜ」
バターのほど良い塩加減とチーズの旨味が口の中いっぱいに広がる。ジャガイモのホクホク感とのハーモニーがたまらない!
気が付いたら何度もおかわりをしていた。バルダスたちも夢中で食べている。
「この機械、オレたちにも譲ってくれよ!これさえあれば、コックなんていらないぜ!」
「よくやったぞ、レイナ!これは商品化できるな!」
「えっへん!億万長者、間違いなしね!」
これが、いずれ、俺たちに莫大な資産をもたらす一大事業となることとは、この時、まだ誰も気づいていなかったのである。
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