第14話 筋力増強バフと巨大剣

ベッドの上でユイと二人きり。しかも下着姿ときている。心臓がドキドキする!だが、ここでブルってるわけにはいかない。覚悟を決めろ、ソウタ!


俺はユイの肩に両手をかけた。ユイは目を閉じて唇を差し出す。


それじゃ、失礼して・・・って、ん?


「くぅ、くぅ・・・」


えっ?寝息?


もたれてきたユイを、そっと受け止めた。寝息をたてて眠っている。


「・・ったく、しょうがねぇな」


そのままベッドに寝かせて、俺は部屋を出た。




翌日、酒場で朝食を食べている時の話しだ。


「昨夜、部屋を間違えたようで、ソウタの部屋で寝てしまいました」


「そうそう、しょうがないから、俺はユイの部屋で寝たんだぜ」


「すいませんでした。昨夜の記憶がほとんどないもので」


そりゃそうだ。《メルティキッス》で【魅了状態】にあったんだからな。しかし、昨夜のユイの大胆な行動・・・おっと、バレたら殺されそうだから黙っておこう。


「そう言えばね、《メルティキッスの呪文書》なんだけど、アレやっぱり、ユイのようなホワイトナイトには効果がないことが分かったわ。まだまだ、改良の余地があるわね」


「えっ⁉︎レイナ、今、なんて言った?・・効果がない?」


俺はユイの顔を見た。


「べっ」


ユイは舌を出して視線を逸らした。


この小悪魔めぇ!昨夜のあれは、どういうつもりだったんだ⁉︎






俺たちはセントアンジュの街を後にした。帰り際、教皇さまと街の人々から、『お礼に』と金貨を差し出されたが、丁重にお断りさせていただいた。なぜなら、ここでの宿賃も食費も街の人々が負担してくれたからだ。それだけで、十分だ。


今回、ここで、暗黒魔導士について分かったことがある。ニセ教皇は暗黒魔導士に力を与えられたと言っていたらしい。つまり、奴には謎の呪術により人を魔物に変える力があるのかもしれない。


教皇領のような神聖な場所でさえ、奴の魔の手は伸びている。いったい、その目的は何なのか・・・。


「じゃ、気をつけてな」


「はい。ソウタたちも気をつけて」


ユイは、事の顛末てんまつを国王に報告するため、一旦、王国に戻ることになった。


俺とミーア、それからレイナは、シシマルの荷馬車でハイムの街へ戻ることにした。暗黒魔導士を闇雲に探しても、雲を掴むような話しだ、見つかる可能性は低い。


俺は、どこかに拠点を設け、腰を据えてじっくり情報を集める必要があると考えたのだ。


「なぁ、レイナ、おまえさぁ、アークウィザードなんだろ?火炎魔法の他に、補助魔法とか使えないのかよ?」


「補助魔法?あたしを誰だと思っているの⁉︎もちろん、使えるわよ!」


「じゃ、たとえば、筋力増強のバフみたいなものとかも使えるのか?」


「えーっと、どうだったかしら?・・たしか使えるはずだわ」


「おい!それを早く言えよ!」


「補助魔法なんて、使う機会も少ないから忘れていたのよ」


「ソウタさん!レイナさんの魔法で巨大剣が持ち上がるかもしれませんね!」


「よし!早速、試してみよう!」


荷馬車を停めた。


「じゃ、いくわよ!」


「はい!お願いします!先生!」


「フレイムフュージョン!」


「・・・・・‼︎」


おぉ!力がみなぎってくる!


「どう?これで、筋力が125%に増強されているわよ」


俺は巨大剣のつかを両手で握りしめる。このシチュエーションは、これで何回目だろう?


「いくぞ!おりゃっ!」


全身全霊の力を込めた・・・が、拳一つ分、持ち上がるのが精一杯だった。


「この巨大剣、その禍々まがまがしさにより、補助魔法の効果を一切受けつけないようね。ますます興味深いわ!」


・・・なるほど。ゲームでも、最強武器がバフの効果を受けないことはよくあることだ。逆に言うと、デバフの効果も受けないから、弱点もない。そして、頼れるのは己の力のみってことか。




数日の旅を経て、ようやく、ハイムの街に帰って来た。


以前、『神殺し』の罪で追放された街ではあるが、教皇の通達により誤解は解けているだろう。


「スズキソウタさん、本当にすいませんでした!」


ギルドに入るなり、受付のおねえさんに頭を下げられた。


「いやいや、別にいいんですよ。逆に、皆さんから金貨をいただいちゃったりして、こちらこそ、ありがとうございました」


気がついたら、俺たちの周りには人だかりができている。


「やっと戻ってきてくれたのか⁉︎あんたが来るのを待ってたんだぜ!」


「いまだに、あの剛剣が目に焼き付いて離れないんだよ!今度、俺に剣を教えてくれないか?」


ワイワイ、ガヤガヤ!


「ソウタさん!まるで有名人ですね!」


「ソウタの神殺しが、実は、まぐれだったとは誰も知らないのね」


俺がギルドのみんなにチヤホヤされているのを遠くから見ている者がいた。明らかに、この街には似つかわしくない高レベルな冒険者であることは、一目でわかった。面倒なことにならなければよいのだが・・。



その日の夜、俺たちは久しぶりにハイムの酒場で晩メシを食っていた。


「やっぱり、ここは落ち着くなぁ」


「・・モグモグ、ちょっとこの肉、冷めて固くなってない?」


「どれどれ・・モグモグ。うん、たしかに固いな。こんな時、電子レンジでもあれば、温め直して柔らかくできるんだけどな」


「何よ?その『レンジレンジ』って?」


「はははは、『電子レンジ』だよ。俺の住んでいた国では、どこにでもある機械でね、冷たいものでもすぐに温かくできるのさ」


「す、素晴らしい機械ね!そのアイデアいただくわ!」


「お!魔道具の開発か⁉︎もし、開発に成功したら、この世界のベストセラーになるかもな⁉︎」


電子レンジで異世界時短クッキング!流行りそうだ!


「アイデアは、俺が出したんだ、利益の山分けは、6:4でいいぜ」


「もちろん、6があたしよね!っていうか、8:2よ!」


「ふ、ふざけんな!だったら、俺が8で、おまえが2だからな!」


「な、なによっ!男のくせに、セコイわね!そんなんだったら、一生、彼女なんてできないわよ!」


「だったら、おまえが彼女になってくれればいいじゃないか?」


「なっ⁉︎」


ラブコメのテンプレみたいな言葉だが、レイナは顔を真っ赤にして固まってしまった。


「うっそぴょーん!誰が、おまえみたいなロリっ娘!」


「くっ・・・こ、このバカオヤジがーーーッ‼︎」


俺は、公衆の面前で『火あぶりの刑』にされたのだった。

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