第17話 戦争と巨大剣

シスの話しによると、魔王軍は暗黒魔導士と幾度となく衝突しているが、謎の化け物の前に成す術もなかったという。


「暗黒魔導士に倍返しするチャンスだわね!ソウタさま、私を、ぜひ、あなたのパーティに加えてください!」


「うーん、そう言われてもねぇ・・、拠点の物件探しも、部屋をもう一つ多く考えないとならないし、そうすると家賃がさらに・・」



「国王さま、大変です!」


突然、『国王の間』に衛兵が駆け込んできた。


「何事だ?」


「ド、ドルガニアが攻め込んできました!」


「なんだと⁉︎」


ドルガニア帝国。それは、ここフローディス王国の隣国で、百年に渡る不可侵条約を交わした友好国だった。だが、ここのところ、国策を方針転換し、不可侵条約を一方的に破棄。覇権主義をかかげるようになったのだ。


そして、周りの国々に攻め込み、武力にモノを言わせ、次々とその支配下に治めているという。




俺たちは急足で城壁の上にやってきた。目の前には、驚いたことに、10万、いや、100万近い兵士が集結し、城を取り囲んでいる。


「な、なんて数だ⁉︎」



「いけーーーッ!」


敵の将軍が号令をかけると、いっせいに城門めがけて攻めてきた!


「このままじゃ、城門が破壊されるぞ!」


その時だった。城門が開くと、バルダスを先頭に王国軍が出撃する!


「バルダス!」


「死にたいやつから、かかってこい!」


突っ込んでくる敵を、バルダスがバタバタと倒していく!それに続く傭兵団も精鋭ばかりだ。バルダスを守りながら敵軍を一気に押し返していく。


「おぉ!なんと勇敢な兵士たちだ!」


ロデリック国王の口から感嘆の声がもれる。バルダスはソードマスターだ!並の兵士じゃ歯が立たないだろう。



「クソッ、斬っても、斬っても、キリがないぜ!」


次第に数で圧倒する帝国軍が押し返してきた。


「ダメだ!このままじゃ、突破されるぞ!」


俺とユイは急いで城門へと向かった。



「あらあら、私の力を見せる、いい機会ね」


そう言って、城門前に出てきたのは、再就職活動中の魔王シスだ!


「ちょっと脅かしてあげようかしら?」


シスは両手を広げ、呪文を唱えはじめた。


「デッドトルネード‼︎」


突然、あたりの空が暗くなり、地面が激しく揺れ動く!そして、敵の軍勢の中心部に巨大な竜巻が巻き起こった!


「うわぁあぁあぁあぁ‼︎」


敵の兵士たちは、次々と巻き上げられ、そして吹き飛ばされてゆく。


さらに、竜巻はその数を増やし、多くの敵兵を吹き飛ばしていった。まさに地獄絵図である。


「す、すげぇ・・」


バルダスは、口をポカンと開けて、見守るだけだった。



「み、見ろ!あれっ!」


「あぁ、あれは間違いない!」


「あの格好、一度見たら忘れはしない!」


「何度、今夜のオカズにしたことか⁉︎」


「魔王!魔王シスだ‼︎」



「あーはははははっ!」


高らかに笑い声をあげるシスに、敵兵は興奮と恐怖をおぼえていた。


「なぜ、こんなところに魔王が⁉︎」


「我々のかなう相手ではない!に、逃げろ!」


敵兵は一目散に撤退をはじめた。我先にと逃げ惑う敵兵を、容赦なく巨大竜巻が巻き上げる。


「あーはははははっ!どうよ?ねぇ、どうよ?」


「おい、そのへんでいいんじゃないのか?」


俺はシスの肩をたたいた。






再び、国王の間。


「このたびは、この城を守ってくれたことに礼を言わせてもらおう」


ロデリック国王は俺たちに向かって感謝の意を表した。


「特に、バルダスと傭兵団の者たち、貴殿らの勇猛果敢な戦いぶりには胸を打たれた。ぜひ、我が王国軍に加わって、その力を示してほしいと思うのだが、どうであろうか?」


「バルダスさん、すごいですね!騎士ですよ、騎士!」


ミーアが俺の耳元でささやく。


「とてもありがたい話しなんですが・・。我々の傭兵団には、すでに主君がおりますので、申し訳ありませんが、その話しはお断りさせていただきます」


「そうか、そうであったか。残念だが仕方あるまい。して、その主君とは誰なのだ?」


「そいつは、いつも猪を連れていて、見栄っ張りなデカい剣を持っていて、うまい料理も食わせてくれるやつなんです」


ま、まさか⁉︎


「ここにいるスズキソウタ、その人です!そして、今日より、この傭兵団を『猪の団』と名付けます!」


「おぉ!『猪の団』か⁉︎それは強そうだ!わははははっ!」


かっこ悪ぅーーー!『猪の団』かっこ悪ぅーーー!そこは、『鷹』にしてくれよ!


「カシラ、これからよろしくな!」


「・・は、ははは・・マジか・・」


「私も面接合格ってことでいいわね?ソ・ウ・タ、ふぅ♡」


「お、おい!シス、耳元で『ふぅ』はやめろ!感じてしまうだろうが⁉︎」


視線を感じて横を向いたら、そこには刺すような眼差しのユイがいた。


「ちょ、ちょっと!魔王だかなんだか知らないけど、このパーティの最強攻撃魔法枠は、あたしなんだからね!」


そう言って、俺の腕にしがみついてきたのはレイナだった。


「あなた、さっき城攻めされている時、ずっと寝ていたわよね?」


「ムッ⁉︎・・あ、あれは、転送魔法で魔力を使い果たして、そ、それから・・」


「私なら、それくらい全然平気だけど?」


「む、むっ・・」


「おいおい、二人とも、そのへんにしないか」


どうして、魔法使いというものは、こうもプライドが高いのだろう・・。それにしても、色々不安はあるが、魔王、いや、元魔王のシスが加わったことで戦力は大幅にアップしたな。


『猪の団』もいることだし、これなら暗黒魔導士にも対抗できるかもしれない。さらには、巨大剣を振らなくても、真鍮しんちゅうのドラゴンさえ倒せるのではなかろうか⁉︎




国王は、帝国と和平条約を締結するため、娘であるユイをドルガニア帝国へ勅使として派遣することを決めた。なるほど、このままだと、どんどんと戦争が拡大し、多くの犠牲者が出る。それだけは、なんとしても避けたいということだ。


「さて、ソウタ殿、そなたには私から頼みたいことがあるのだが?」


「なんでしょうか?国王さま」


「そなたには、今回、我が娘、ユイの警護にあたってほしい」


かわいい愛娘を敵国に行かせるのである。当然の判断だな。

              

「警護ですか・・わかりました。わたしが同行いたしましょう」


「おぉ!そうか!そう言ってくれるとありがたい」


「ユイは俺たちの大事な仲間ですからね、当然です」


一国の命運がかかっている。今回の責任は重大だ。

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