第18話 皇帝と皇女と巨大剣

今回、勅使であるユイに同行するメンバーは、俺とミーア、レイナ、そして引退ホヤホヤの魔王シスだ。この人数ならシシマルの荷馬車にギリギリ乗れる。もちろん、巨大剣も載っている。


バルダスたち『猪の団』には、城の警護にあたってもらってるいるから、守りも万全だ。


「なぁ、シス、おまえのその格好、目立つし、帝国のやつらにも『魔王が来た!』て警戒されるから、バレないように変装とかできないもんかなぁ?」


「変装なんかしなくても、ほら、このとおり!変身できるのよ」


シスは、角も隠し、町娘のような格好へと変身した。


「おぉ、それならバレないな!」


「あら、こっちの方が好みだったかしら?うふっ♡」


「あ、はい、どっちも好きです」


ユイとレイナの冷たい視線が痛い。




フローディス王国城を出てから丸1日、ようやく、ドルガニア帝国領が見えてきた。


「向こうから、人影らしいものが来るぞ!」


それは、帝国軍の騎馬部隊だった。俺たちは、あっという間に囲まれてしまった。


「また、脅かす?それとも、面倒臭いから、帝国ごと滅ぼしちゃう?」


シスが耳元でささやく。


「ダメだ、ダメだ、ダメだ!今回は和平条約を結びに来たんだぞ!」



「貴様ら、フローディスの者だな!」


「はい、そうです。わたしは、フローディスの勅使として来ました王女ユイリと申します。皇帝マルティム様に謁見えっけん願います」


「お、王女だと⁉︎」


騎馬部隊長は、さすがに驚いた様子だった。そして、俺たち一行を城まで案内してくれた。ちなみに、王女の威厳を保つため、今回は、ビキニアーマーの上に高貴な布で織られた貴族服を羽織っている。


別に、ビキニアーマーを置いてきてもよかったはずなのに・・もしかして、結構、気に入ってたりして。



俺たちは皇帝マルティムに謁見えっけんした。他国に攻め込むほどの皇帝だ。きっと、イケイケのDQN皇帝・・かと思いきや、実は、そうでもなかった。小柄で優しそうな顔をした中年のおじさんが玉座に座っている。


「この前は、すまなかったねぇ」


「あ、あのぉ、今回は和平条約を結びに来たのですが・・」


ユイも呆気にとられている。


「和平条約を結びたいのは山々なんだが、それができない状況にあってね・・」


皇帝は静かに事情を話し出した。


「この国の神官でモルドバという男がおるのだが、ある日突然、神の啓示を受け、隣国を攻め落とすか、ワシの娘を生贄いけにえに差し出すか、どちらかを選ばなければ、この国は滅ぶと言い出したのだよ」


「神官が、そんなことを・・ですか⁉︎」


「うむ。当然、その選択は両方とも拒んだのだが、その後、帝国領で疫病が発生し、何万人という民が死んだ。再び、モルドバはワシに同じ選択を迫ってきた。そして、今回は、我が子かわいさゆえ、ワシはもう一つの選択肢を選ばざるをえなかったのだよ」


「それで戦争を・・」


「うむ。しかし、もうこれ以上、犠牲を出すわけにはいかない。フローディスを落とせなかった今、娘を生贄いけにえに差し出すほかないだろう」


皇帝の表情は悲しみに暮れていた。


「フェリシア、ここにおいで」


皇帝が、そう言うと、奥の方から一人の少女が駆け寄ってきた。


年は十代前半だろうか。あごのラインで切りそろえられた美しい金髪に、印象的な青い瞳をしている。純白のドレスに身を包んだその美少女こそ、将来この帝国を背負って立つ皇女フェリシアだった。


「お父さま、なんでしょう?」


「おまえには苦労をかけるが、許しておくれ」


皇帝は愛娘を抱きしめて、涙を流していた。


それにしても、そのモルドバとかいう神官、『神の啓示』て、何を根拠に言っているんだ?それに、誰に生贄いけにえを捧げるつもりなんだ?・・怪しい!調べてみる必要があるな。


「皇帝、考えがあります」






俺は生贄いけにえとなるフェリシア王女をモルドバのところへ連れていく役目をかってでた。モルドバに指示された場所は、帝国領の北にある砂漠の中の遺跡だ。


「ハァ、ハァ、いつもはシシマルの荷馬車で行くのに、今回は徒歩なのね」


「レイナは運動不足だから、ちょうどいいだろ?・・って、たしかに徒歩はキツいな」


「ちょっと、こんな日差しに当たったら、日焼けしちゃうじゃないの⁉︎」


「小麦色の元魔王ってのも可愛いかもしれないぜ。はは・・」


「人ごとだと思って!女子にとって、肌は命なのよ!」


女子力の高い魔王とか見たくねーーーッ!



しばらくして、遺跡が見えてきた。


「ここか⁉︎」


祭壇らしき場所に男が立っている。神官モルドバだ。


「使いの者ですね?」


「あぁ、そうだ」


「フェリシア王女をこちらへ」


フードを被った王女はモルドバの方へ歩いて行く。


「それじゃ、あなた達には、もう用はないので、ここで死んでいってください」


「なにっ⁉︎」


急に辺りが暗くなり、その暗闇から何かの影が迫ってくる。


「ニキ・・ニキ・・・」


不気味な鳴き声を出して近づいてくるのは、人とも魔物ともつかない冥界の生物だった。それは、上半身が人で下半身がムカデのような多足生物になっている。その姿はあまりにも醜く、不気味だった。


「くそっ!囲まれた!シス、魔物だったら、おまえの言うことを聞くんじゃないのか⁉︎」


「ダメよ!魔王は引退したし、そもそも、こいつら魔物でもないわ!暗黒魔導士が造った『幽幻界』の生き物よ!」


「暗黒魔導士だって⁉︎やはり、ヤツらの仕業だったのか⁉︎」


「よく暗黒魔導士の存在を知っていますね?貴様ら何者ですか?」


「俺たちは・・・『猪の団』だ‼︎」


「何ですか?それ」


とりあえず、アークドラゴンを倒した者とバレない方が良さそうなので、本名は伏せておこう。



ズバッ!



その時、モルドバの側に立つ王女が、隠し持った剣でモルドバを斬った!


「ぐっ⁉︎・・・貴様ッ‼︎何者だ⁉︎」


フードをとったその人物は、ユイだった!フェリシア王女に変装していたのだ!


「そこまでです!モルドバ!わたしは、フローディス王国の王女ユイリです!」


「クッ、謀ったな!」



「いくぞ!」


俺はミニマムダガーを抜いて化け物に斬りかかる!


「これでも喰らえーーー!きゃっはーーー!」


レイナは、アクアブラストガンを構えて、引き金を引いた。火炎放射器のように炎が吹き出し、もの凄い火力で化け物を焼き払う!水の他にも、火、雷、風などの属性攻撃も繰り出せるらしい。レイナは天才だ。


「ヘルハウンド!」


シスが呼び出した双頭の巨大な猛犬は、敵を次々と喰らっていった!強力無比な召喚獣だ!


「す、すげぇ・・」


呆気にとられている間に、幽幻の化け物たちは全滅していた。俺、いなくてもいいんじゃないのか?

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