第31話 バルダス剣士道場と巨大剣

翌日、拠点のリビングにて。


「父に何を言われたか知りませんが、わ、わたしは、まだ嫁にはいきませんからね!」


「わかってるって。親父さんには、ちゃんと断っておいたから」


「こ、断ったのですか⁉︎な、なぜ、断ったのです⁉︎」


「いや、まだ、ユイは16歳だから、その気はないんじゃないですかって言っておいたよ」


「じゃ、断ったわけではないのですね⁉︎」


「ま、まぁ・・」


「それなら、いいのですが・・」


ん?『それならいい?』


「いずれにしても、今、わたしのやるべきことは、暗黒魔導士を倒して、この国の平和を取り戻すことです。結婚は、それから・・・ソウタが考えてくれれば・・・」


俺が考える?・・むむっ!こ、これは、まさか⁉︎・・・・・って、んなわけないか、ははは。童貞は、すぐその気になってしまうから気をつけないと。




王都イメージアップ作戦も大成功して、国王からは結構な額の褒賞をもらった。


この世界に転生して来て、『いきなり武器が持ち上がらない』という最悪のスタートから考えたら、今の状況は出来過ぎていると思う。


全戦全勝、全てワンパンでラスボスクラスの敵を沈めてきたのも、今思うと奇跡の連続だった。


現代日本じゃ、こんなに上手くいくことはあり得ない。そう思うと、このまま、この世界で一生を終えるのも悪くはないな、などと呑気な気分になってくる。


そんなことを考えていたある日の出来事。バルダスが拠点にやって来た。


「カシラ、ちょっといいか?」


「どうしたんだよ?バルダス」


「実は、頼みたいことがあって・・」


「頼みたいこと?」


「あぁ。実は、オレ、剣の道場を開きたいんだ。そして、子供たちに剣を教えたり、剣士を目指す人たちを育成したい。兵を鍛える場所にもなるし、猪の団の戦力アップにもなる。そこで、その・・・」


「資金を援助して欲しい、ってことだろ?」


「あ、あぁ・・」


バルダスはソードマスターで剣の腕も一流だ。彼に鍛えてもらったら、強い剣士がたくさん育つかもしれない。


それに、今の時代、近接攻撃職が人手不足で社会問題になっているらしいし、その問題解決にも一役買ってくれるだろう。


「もちろん、オッケーだ。やるからには、立派な道場を建てようぜ!」


「ほ、本当か⁉︎カシラ!ありがとう!」




こうして、ハイムの一角に『バルダス剣士道場』を開くこととなった。ドルガニア帝国軍との戦いなどで名声を得ていた猪の団が運営する道場とあって、当初から入門希望者が殺到した。


道場の開業資金は俺が全額出すかわりに、バルダスに一つだけ条件を出した。それは俺を門下生に加えてもらうことだった。


なにせ、この世界に来て以来、巨大剣を振ることのみしか考えてこなかったので、ちゃんとした剣技がまったく身についていないからだ。


「はっ!」


「「「はっ!」」」


「はっ!」


「「「はっ!」」」


実際、剣を習ってみると、自分の体力の無さを実感する。型の稽古が終わる頃には息が上がっているのだ。


レベルが上がるたびにもらえるステータスポイントをすべて【力の強さ】に振ってきたせいだ。つまり、【力の強さ】以外は、転生前の引きこもりニートのままなのだ。


「そこ!もっとしっかり振れ!」


「・・は、はい」


道場では立場が逆転しているのである。




そんなある日、一人の男がやって来た。


「ここの道場の師範は誰だ?」


「なんだ⁉︎貴様⁉︎」


「どけ!」


ボガッ!


「ぐわっ!」


行手を阻んだ門下生の一人を木剣で殴り倒した。



「ここの師範はオレだが、何の用だ?」


バルダスは冷静に対処する。


「おれの名はオルグ。テンプル騎士団だ。師範のアンタに手合わせ願いたい」


オルグと名乗るその男は、長髪を後ろで束ねた長身の男で、僧侶が身につけるような服を着ている。テンプル騎士団とは、修道会の護衛を目的とした騎士団らしいが、その武力を背景に闇の仕事も請け負うなどの悪い噂もささやかれている集団だ。


いつの時代でも『坊主とヤクザは繋がっている』というやつか。


「道場破りか?おまえじゃ、このバルダスの敵にはならん。帰れ!」


「ほほぉ、面白いねぇ。レベルはアンタの方が上だが、おれはテンプルナイトだ、レベル差はあってないようなものだぜ。」


「おまえの相手などしている暇はない」


「へっ、怖じ気づきやがったか。ここの師範は、腰抜けだぞ!とっとと、別の道場に移ったほうがいいぜ!」


オルグは、周りの門下生を煽った。


「言ってもわからんようだな」


仕方がないといった風に、バルダスは木剣を構える。


「フフッ、そうこなくっちゃな」


周りの者たちは、二人の対決を固唾かたずを呑んで見守っている。



「なぁ、ミーア、あの二人、どのくらいのレベルなんだ?」


「えーと、バルダスさんはレベル49で、オルグとかいう人はレベル47ですね」


わずかにバルダスの方がレベルは高い。しかし、勝つとしても接戦になるか。



「最近、この辺でデカいツラされて気に入らなかったんだよな。今度はそのツラで表に出られないようにしてやる!はぁあぁあぁぁぁッ!」


オルグは素早く間合いを詰め、強力な上段斬りを繰り出した!


カッ!


バルダスは、その一撃を冷静に木剣で受け止め、そこから蹴りを放った。


「ふんッ!」


ドガッ!


「ぐっ!」


オルグは後ろに上体をそらす。


「せやっ!」


そこに、バルダスの強烈な追撃。


「ぐわっ!」


オルグの肩をとらえた。


カラン、カラン。


木剣を落としたオルグは片膝をつく。


「くっ・・つ、強い・・」


「「「オーーーッ!」」」


周りから歓声が上がった。


「ク、クソッ・・」


オルグは腰の鞘から剣を抜いた。


「お、おい、何をする気だ⁉︎」


周りの門下生が、オルグを止めに入ろうとする。


「うるせーッ!」


オルグは剣を振り回して威嚇した。


「大丈夫だ。下がっていろ」


バルダスは周りの門下生を落ち着かせ、木剣を構え直す。


「ぶっ殺してやる!うぉおぉおぉおぉっ!」


ブォン!ブォン!


オルグの剣を華麗にかわすバルダス。


「はぁあぁあぁあぁッ!」


ゴッ、ガッ、ゴッ、ガッ、ゴッ、ガッ、ゴッ、ガッ!


そして、バルダスの連撃が炸裂した!



「・・あぁ・・あ・・」


バタン!


オルグは頭や肩に連撃をあびて、泡を吹いて倒れた。


「おぉ!つ、強い!さすが、バルダスだ!それにしても、そんなにレベル差は無かったはずなのに、なぜ、こんなにも圧勝できたんだ?」


「バルダスさんは、ソードマスターのスキル【後の先】を発動して、カウンターを狙っていたようです」


なるほど、傭兵であるバルダスの方が試合巧者だったってことか。

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