第30話 アイドルグループ『いちねんえーくみ』と巨大剣

拠点2階のリビングを改装して、現代で言うところの『スタジオ』を作った。


「よーし、みんな集まったな。今日から、おまえたちはアイドルグループ『いちねんえーくみ』として活動してもらう。そして、これからは、俺のことを『プロデューサー』と呼びなさい」


「な、なんなんでしょう、この感じは・・」


「無理やり連れて来られたけど、何をやらされるのかしら・・」


今回、俺が選抜したメンバーは、ユイ、レイナ、サラ、ナディアの4人だ。シスは年上だし、エロすぎるので外れてもらった。やはり、アイドルには清楚さが大事なのである。


「まず、この衣装に着替えてくれ」


「なんですか?この服は?見たことないですね」


「異国の民族衣装かしら?」


『いちねんえーくみ』のコンセプトは、スクールアイドルである。よって、衣装はブレザーにチェックのスカートだ。ちなみに、ニーハイは俺の好みである。


「あたい、脚に筋肉ついているんだから、こんな短いスカート恥ずかしいよ・・」


「メイド服もいいけど、こっちもかわいいね!」


サラは肌の色が小麦色だから黒ギャルみたいだし、ナディアはおさげと制服の相性が抜群だ。


「よーし、まず、歌とダンスのレッスンからだ!」


こうして、2週間みっちり、アイドルとしての心得とパフォーマンスを彼女たちに叩き込んだのである。




最初のライブは、ハイムの広場でやらせてもらうこととなった。


「うぅ、緊張して吐きそうです」


「あたしはワクワクが止まらないわよ!」


「みんな、頑張ろうな!」


「あ、プロデューサー!」



「みんな、おはよう」


「「「「おはようございます!」」」」


「今日は、いよいよデビューだ。今までやってきたことを、このライブにぶつけるんだ!」


「「「「はい!」」」」


広場に集まったお客さんは、まばらだった。だが、彼女たちのパフォーマンスが始まると、徐々に足を止める人が増えていった。


ユイとレイナのWセンターと脇を固めるサラとナディア。歌って踊る彼女たちを眺めながら、しみじみ思う。「だけなら天下獲れるレベルだぞ」と。


このステージを皮切りに、近隣の街や村を回った。その評判はどんどん広まり、観客も増えていったのだった。



そんなある日、アニエスに会った。かつて温泉宿で出会った『お騒がせダンジョン配信者』である。


「よぉ!アニエス!久しぶりだな!」


「あっ!キミは、伝説の剣士のソウタ氏!おひさー!」


「今日は、何しているんだ?ダンジョン配信か?」


「うん。もちろんそのつもり・・だったんだけど・・実は、うちのパーティメンバーが、みんなお腹壊しちゃってね、中級ダンジョンは一人じゃ無理だし、どうしようかなと・・・」


「じゃ、ウチの売り出し中のアイドルグループでも連れて行くか?」


「『アイドルグループ』って何?」


「説明すると長くなるけど・・まぁ、戦力にはなると思うよ」


「付き合ってくれるなら誰でもいいよ!お願いします!」


こうして、『いちねんえーくみ』とアニエスのダンジョン配信のコラボが決定した。



配信は、案の定、大きな話題となった。


“あの娘たちかわええええええええ”


“かわいいのにつよっ!”


“服はどこで売ってるの?”


“萌えるぅぅぅぅぅぅぅ”


“いちねんえーくみしか勝たん”


高レベルのホワイトナイトにアークウィザード、武闘家、プリーストのパーティだ。歌って踊れて戦えるアイドルなんて、世界に一つだろう。ちなみに、紳士の方々の間では、戦闘中のスカートからの『チラッ』が大好評だったようだ。


「ソウタ氏、すごいねー!エンタメの天才だねー!」


「あはは・・そんな大したものじゃないよ。ただのドルオタなだけで、ハハ・・」


「ドルオタ?」


「あ、いや、なんでもないよ。それより、今度、王都でライブやるんだ。その時も配信してくれよ」


「え⁉︎本当⁉︎もちろんやらせてもらうよ!もう、わたしも『いちねんえーくみ』のファンになっちゃったから、これからも密着しちゃうぞ♡」


「ははは、ありがとう!」




そして、いよいよ、王都でのライブの日が来た。


アニエスの配信の効果は凄まじく、大陸全土から多くの人々が押し寄せてきた。街の中央広場はお祭り騒ぎで、なかば、パニック状態となっていたので、急遽、バルダスと猪の団のみんなには警備にあたってもらうことになった。


「カシラ、こんなに人集めて、いったい何おっ始めようってんだ⁉︎」


「へへっ、でっかい花火、打ち上げてやるぜ!」



ユイたちは、舞台袖で緊張しながら待機していた。


「こ、こんなに人が集まって・・・。歌、間違えたら、どうしましょう⁉︎」


「間違えたって、誰も気づかないわよ」


「あたいの髪、変じゃないか?」


「うん、サラはいつもかわいいよ」



「よーし、みんな準備はできたか?」


今日は、俺も、いつもの冒険者の服じゃなく、タキシードをレンタルした。


「ソウタ!・・あ、いや、プロデューサー!わたし、緊張のあまり、歌詞、忘れてしまいそうなんですが、どうしたらいいでしょう⁉︎」


「歌詞忘れても大丈夫だよ。他のメンバーが補ってくれるから。な?」


「うん、そうよ。同じセンターだし、あたしに任せておきなさい」


「あたいは下手だけど、その時は二人分大きな声を出すよ」


「ユイちゃんはかわいいから、立っているだけで十分だよ」


「みんな・・・」



「よーし、気合い入れていくぞ!」


「「「「オーーーーッ!」」」」


「ソウタさんも立派なプロデューサーですね」


「ミーアも出たかったかい?」


「いえ、ミーアは小さすぎるので、お客さんには見えづらいですから。あはは・・」




『いちねんえーくみ』がステージに現れると、大歓声が起こった。


「ワァーーーーーッ!」


「みんなー、今日は楽しんでいってね!いっくよー!」


レイナの掛け声で一曲目が始まった。王国の音楽隊が演奏を担当。



「あわわわわわ・・・」


ユイが、あまりの緊張で歌詞を忘れている!


その時だった。耳元に小さな妖精の姿が!ミーアが耳元で一緒に歌ってくれている。ユイは、冷静さを取り戻し、いつもの歌声を聴かせてくれた。


俺は、感動のあまり・・・この日のために買っておいた『光るクリスタル棒』を両手に持ち、オタ芸を披露していたのだった。隣には、同じく『光るクリスタル棒』を持ったバルダスが・・・。


ライブは大盛り上がりで、大盛況のうちに幕を下ろした。



アニエスの配信も手伝って、この噂は、あっという間に大陸中を駆け巡り、一目、『いちねんえーくみ』を見ようと、王都を訪れる人々が急増!


さらに、メンバーが「お気に入り」と言ったことで、『おうとくん』のぬいぐるみまでもが大人気となった。


そして、王都を訪れた人々が、お土産に名物『スイートイーモン』を買ってくれたことで、その評判は、各地に広まっていったのだ。俺のプロデュースは、怖いくらいに的中した。



「ソウタ殿、このたびはご苦労であった。おかげで、王都は賑わいを取り戻すどころか、いまや、大陸随一の都となった。ここに礼を言わせてもらおう」


「いやいや、そんな・・・。ユイたちの頑張りのおかげです。俺はなにも・・」


「いや、お主のその発想の豊かさは目を見張るものがある。このたびの功績に対し褒賞を送らせてくれ。それから、娘のユイのことなんだが・・」


「は、はい?」


「そろそろ、ソウタ殿の嫁にどうかと・・」


青天の霹靂へきれきとは、こういうことを言うのだろうか。

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