第29話 王都復興計画と巨大剣
俺たちは、ブリタニア城での戦いを終え、ハイムの拠点に戻ってきた。暗黒魔導士ツダの行方がわからない以上、こちらとしては、これ以上、動きようがないのが現実だ。
ところで、皆さんは憶えているだろうか。以前、転生者のアラガキのパーティにいた武闘家のサラとプリーストのナディアのことを。
この二人なんだが、今は立派なメイドへと成長した。
「「おかえりなさいませー、ご主人さま♡」」
俺は、今、拠点の1階にあるメイドカフェ『どり〜む・きゅあ♡』で、コーヒーをいただきながら、二人の愛らしい姿を眺めている。それは、まさに至福の時間なのだ。
サラの方は、武闘家というのもあって、服がはち切れそうなナイスバディ(特に胸)だし、ナディアの方はというと、聖職者なのにメイドの格好をさせられているという背徳感がたまらない。
「やっぱりウチのメイドたちは、レベルが高いなぁ」
「ちょっと!ウチのスタッフを、そんないやらしい目で見ないでくれるかしら?」
そう言って、俺の横にやって来たのは、ここの店長シスだ。シスは、ブリタニア城での戦いの後、翌日からすぐ店の厨房に立っていた。なんて働き者の魔王だろう。
「べ、別に、いやらしい目で見ているわけじゃ・・」
その時、突然、店のドアが開いた。
「すいません!スズキソウタさんは、いますか⁉︎」
血相を変えて駆け込んできたのは、ギルドのおねえさんだった。だいたい、このパターンの時はロクなことが起こったためしがない。
「ど、どうしました?」
「た、大変です!フローディス国王が、とてもお怒りになっているそうです!」
「なんだって⁉︎」
ブリタニア城の戦いで、娘のユイに怪我を負わせてしまったことか⁉︎
俺はシスに頼んで、その場からすぐにフローディス城へ転送してもらった。
フローディス城、王の間。
「いやいや、すまんね」
案の定、フローディス国王ロデリックは怒ってはいなかった。ギルドのおねえさんは、いったいどんな理由があって、毎回、俺を驚かそうとするのだろう・・。
「い、いえ。・・で、今回は、どのようなご用件でしょう?」
「実は、今、この城が危機的な状況にあってな、この国の存亡さえ危ぶまれる事態になっておるのだよ」
「そ、それはどういうことですか⁉︎もしかして、暗黒魔導士の仕業とか⁉︎」
「いや、シス殿のせいなのだ」
「シスの⁉︎」
「うむ。以前、ここがドルガニア軍に攻め込まれた時、彼女に追い払ってもらったことがあったのを憶えているかね?」
「は、はい・・・」
たしかに、シスの巨大竜巻の呪文で敵兵を脅かして追い払ったことがあったな。
「あの時は、この城を守ってくれて、とても感謝したのだが、その後、悪い噂が広まってな・・」
ロデリック国王によると、その後、民衆の間で、「フローディス城に魔王がいた」という話しが広まったらしい。
そして、それが「魔王がフローディス国王を操っている」という噂話しになり、「そもそもフローディス王こそ、魔王の化身だ」に発展。さらには、「フローディス城は魔王城」というデマにまでなってしまったのだという。
たしかに、あの時、シスは、高笑いしながら敵兵を吹き飛ばしていたな。そして、あいつ、最近は身分を隠すために町娘みたいな格好しているが、本当の姿は、もの凄く目立つ格好なんだよな。
「それで、ここ、王都フローディアから去っていく人々が増え、過疎化が深刻な問題になっておるのだよ」
「それは、笑えない冗談ですね・・」
「そうなのだよ。しまいには、勇者と名乗る若者が城に攻め入ってくる始末だ」
う、うわぁ・・・。お気の毒に・・・。
「そこで、ソウタ殿に、デマの解消と王都のイメージアップを手伝ってほしいのだ」
「なるほど。・・・わかりました。今となっては、ウチのパーティメンバーがやらかしたことが原因ですし、ここは俺がなんとかしましょう」
「そうか!それは、ありがたい!よろしくたのむぞ!」
『なんとかしましょう』と言ってはみたものの、いったいどうすればいいのだろう?
普通にビラを撒いたり宣伝して歩いても信じてもらえないかもしれないし、そもそも、この広い大陸を周って歩くのは、あまりにも時間がかかりすぎる。
あぁ、こんな時にインターネットやSNSがあったら便利なのになぁ。・・・インターネットやSNS?・・・そうか!現代のアイデアを応用すればいいのか!
というわけで、俺の『王都イメージアップ作戦』が始まった。
まず、第一弾は、『ゆるキャラ』だ。『せんとくん』をはじめとするご当地ゆるキャラは現代日本でも、もはや定番と言える宣伝手法である。
早速、レイナにグッズを作ってもらった。
「こんなにブサイクでいいのかしら?」
「逆に、そこが狙い目なんだよ!」
その名は『おうとくん』。城の形をしたキャラクターで、口からはゲロが吐き出されているという斬新なデザインだ。「王都」と「嘔吐」をかけているのは言うまでもない。
だが、このゆるキャラは、こちらの世界では、あまりにも斬新すぎたようだ。人々からは気持ち悪がられて、かえってイメージダウンをもたらす結果となってしまった。
次に考えたのは、ご当地メニューだ。何か名物となるようなモノがあれば、それを目当てに人々が集まってくる。そこからイメージアップを図っていくという作戦だ。
今回、メニューを考えてもらったのは、ウチの料理長シスだ。
「えぇ⁉︎いやよ!私は店のことで手一杯なのよ!」
「もとはと言えば、おまえのせいなんだぞ!だから、おまえが責任を持ってくれ!」
「んもう!わかったわよ!でも、やるからには、手は抜けないから、とことんやらせてもらうわよ!」
仕事と真面目に向き合う魔王とか見たくねーッ!・・と言いたいところだが、今回は助かるな。
シスは、王都周辺の畑で採れる『マサツイーモン』という食材に目をつけた。これを潰して練って、レンジレンジのオーブンで焼いたものが、『スイートイーモン』だ。
「うまい!さすが、シスだ!」
「でしょう?本気出したらこんなもんよ♡」
シスの『スイートイーモン』は街の住民たちには大好評だったが、地方にまで広がるには時間がかかりそうだ。
うーん、何か、こう、爆発的というか、即効性のある方法はないものか。
ご当地といえば、あとは・・・アイドル?・・ご当地アイドルか⁉︎当たり前の話しだが、異世界にアイドルはいない。目新しさは抜群だ。あとは、この世界の人々にウケるかどうかだが・・。
ここから、俺のアイドルプロデュース計画が始まった。
まず、はじめに、王都でオーディションを開催した。人は集まってイベント自体は盛り上がったのだが、これという逸材の発掘には至らず、早くも先行き不透明といった感じだ。
『どり〜む・きゅあ♡』でコーヒータイムをとりながら、これから、どうしようかと考えをめぐらせている時。
「はぁ・・。アイドルとして目を引くようなダイヤの原石みたいな子は、そうそう見つかるもんじゃないなぁ」
「『アイドル』というのが、どういうものか知りませんが、とりあえず、適当に決めてみたらどうですか?」
「適当だと⁉︎そんな簡単にできるか!アイドルというのは完璧で究極の・・」
向かいの席であっけらかんとした表情で座っているユイには、俺のこだわりなど理解できるわけがない。アイドルというのは、みんなの目を引く美少女で、圧倒的にかわいくなければならないのだ!かわいくなければ・・・ん?かわいい?
「おい!ユイ!おまえ、やれ」
「はぁ⁉︎」
『灯台下暗し』とは、このことを言うのだろう。俺の周りにはダイヤの原石がゴロゴロ転がっていたのだ。
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