第32話 テンプル騎士団と巨大剣

翌日、バルダス剣士道場の見学にユイとレイナが来た。


「はっ!」


「「「はっ!」」」


「はっ!」


「「「はっ」」」」


「一応、真面目にやってますね」


「いまさら剣なんか習って、どうするつもりかしら?」



「そこっ!もっとしっかり振れ!」


「はぁ、はぁ・・はい!」


「もう息が上がってますよ。体力無さすぎですね」


「ここのオーナーのくせに情けないわね」


くそっ、あいつら、このしんどさを知らないくせに、バカにしやがって・・。



「バルダスはいるか⁉︎」


突然、門のところに、10人ほどの男たちが現れた。


「誰だ⁉︎おまえは⁉︎」


「おれは、テンプル騎士団、団長ティダーロだ」


その男は、髭をたくわえ長髪を後ろで束ねた剣士だった。痩せ型で鋭い目つきが威圧感を与えてくる。


「バルダスはオレだが、テンプル騎士団が昨日に引き続き、何しに来た?」


男たちの間から松葉杖をついて全身に包帯をグルグル巻いた男が出て来た。


「こ、こいつだ!アニキ!こいつにやられたんだ!」


その包帯男は、昨日、道場破りに来たオルグだった。


「なんだ、昨日のヤツじゃないか?」


「おれの弟が世話になったな。今日は、その礼をさせてもらう」


「結果は同じだぞ?」


「フフッ、おれは弟とはレベルが違うぞ」


「アニキ、こいつ、ぶっ殺してくれ!」




練習場の中央にバルダスとティダーロが歩み寄る。



「な、なんか急展開ですね!」


「これはいい暇つぶしだわ!」


ユイとレイナはワクワクしながらの見物だ。


「ミーア、あのティダーロって強そうか?」


「そうですね、レベル58のテンプルナイトなので、かなり強いですね」


「ご、58⁉︎・・めちゃくちゃ強いな!」


でも、バルダスのことだ、なんとかしてくれるだろう。



バルダスとティダーロは木剣を構えて向き合った。


「さぁ、いつでも来い」


ティダーロの方から攻撃を誘ってきた。


「・・・(カウンタースキルを警戒しているのか?ならば・・)」


ダッ!


バルダスが先に動いた!


「先手必勝!はぁあぁあぁあぁッ!」


ブォッ!


バルダスの一撃!だが、ティダーロはヒラリとかわして、すかさず打ち込んできた。



「かかったな!」


ティダーロの反撃に合わせて、バルダスはカウンタースキル【後の先】を発動させていた。


「フッ!」


ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ!


「な、なにっ⁉︎」


ティダーロの打ち込みが強すぎて、バルダスはカウンターを繰り出す暇がない。


「く、くそっ!」


「ハハハハハッ!これがレベル差というやつだ!」


ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ!


「な、なんて強い打ち込みなんだ⁉︎」


バルダスは木剣で受け止めるのが精一杯で、徐々に押し込まれていく。


「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」


「なんだ?命乞いか?」


バルダスは逃げるように俺のところへ飛んで来て、こう言った。


「こ、これ以上やったら本気出して、また怪我させてしまいそうだから、お、おまえの相手はウチの門下生が相手する!・・・やってやれ!」


「お、おい!『やってやれ!』ってなんだよ⁉︎」


「・・・・・(カ、カシラ、たのむよ!こいつレベル高すぎて、オレじゃ勝ち目ない!)」


「・・・・・(お、おまえ、ふざけんなよ!俺のレベルは30台だぞ!)」


「・・・・・(カシラなら、なんとかやれるって!・・たのむよ!)


「・・・・(ふざけんな!)」


俺は、ユイの方を向いて。


「・・・・・(ねぇ、やってくれない?)」


「・・・・・(な、なに言ってるんですか⁉︎やりませんよ!)」


「・・・(だよね)」



「なに、ゴチャゴチャ言ってる⁉︎こうなりゃ誰でもいい。ぶっ殺してやる!」


「・・・あー、ったくしょうがねぇな。俺が師範の代わりに相手になってやるよ」


「笑わせてくれるわ!こんなモヤシ野郎に何ができるって⁉︎」


「モヤシとか言うな!間違っていないけど。・・いいから、かかってこいよ」


「弟の100倍、いや、1000倍めった打ちにしてくれるわ!はぁあぁあぁッ!」


猛然とティダーロの連撃ラッシュが始まった!



ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ‼︎ ︎


「ハハハハッ!どうだ!我が連撃スキル【千手打ち】の威力は⁉︎」



「なんて速さだ⁉︎打ち込みが、まるで見えない!」


バルダスは驚きの表情をしている。


「・・だが、それ以上に恐ろしいのが、カシラの凄まじい剣さばきだ!」



俺は片手で木剣を持って、軽々とティダーロの連撃をさばいていた。


ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ‼︎ ︎


「な、なんだと⁉︎」


俺は、ステータスを【力の強さ】に全振りしてきたおかげで、他の剣士の打ち込みが異常に軽く感じられるようになっていたのだ。これは、巨大剣の副産物と呼べるものだろう。


「あちゃ〜、あのティダーロとかいう人、気の毒ですねぇ」


「相手が悪すぎたとしか言いようがないわね。ご愁傷さま」



「ほれ」


ゴッ!


俺の木剣がティダーロの脳天を叩く。


「ぎっ!」


・・・バタン!


ティダーロは、白目をむいて倒れた。



「「「ウォーーーーーーッ!」」」


「なんて強い門下生なんだ⁉︎」


「いったい何者なんだ⁉︎」


場内から歓声が沸く。


「ソウタは、意外と顔が知られていないんですね」


「これ以上ないくらい印象薄い顔してるからね」



気の毒なのは、テンプル騎士団の面々である。団長が、こうもあっさり倒されるとプライドも何もあったもんじゃない。


「・・ア、アニキがやられた・・だと⁉︎そんなバカな・・・」


「門下生でこのレベルだとすると、師範は、いったいどれだけ強いんだ⁉︎」


「ダメだ・・勝ち目はない・・」




この対決の後、バルダスはテンプル騎士団の面々から丁重に謝罪を受けた。


「このたびの失礼、このティダーロ、心からお詫び申し上げます」


「ま、まぁ、いいってことよ」


「今度、ぜひ、我がテンプル騎士団にも、その剣技をご教授いただければ、ありがたいのですが・・・」


「あぁ、もちろんオッケーだ」


「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」


バルダスよ、おまえ、負けそうだったよな⁉︎調子に乗るんじゃない!




バルダス剣士道場は、この一件が評判となり、さらに入門希望者が激増することとなったのだった。

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