第21話 異世界メイドカフェと巨大剣

レストランの改装費に、かなりの資金を投資した。にもかかわらず、初日の売り上げは0円・・。

ここは、異世界だ。

異世界経験の浅い俺が、普通にやっても通用する世界じゃない。


それなら、現代日本の優れたサービスを取り入れてはどうだろうか?きっと、異世界の人々も驚くだろう。・・と思いついたが、問題が一つある。


それは、引きこもりだった俺はアルバイト経験もなく、ましてや、レストラン経営なんてものは見たことも聞いたこともないということだ。


唯一接点があるのは、ゲームソフトを買うために出掛けていた秋葉原で、いつも帰りに寄っていたメイドカフェぐらいである。・・ん?メイドカフェ?・・・それだ‼︎




店を三日閉めて態勢を立て直した。スタッフ用の制服を新調し、店の看板も作った。店名『どり〜む・きゅあ♡』。


「こ、こんなメイドのような格好、レストランに必要なの?大魔導士のプライドが傷つくわね」


「しかも、なぜ、わたしのだけ、こんなにも胸元が開いているのでしょうか?」


「ユイは胸が大きいから、デザイン上、仕方なかったんだよ」


・・・というのは嘘で、俺の好みである。ロリを全面に押し出したレイナと、おっぱいを前面に押し出したユイ。やっぱり、メイドコスは最高だ!白と黒を基調としたフリフリのメイド服に、脚は白タイツ。そして、レースの髪飾りが鉄板だ!


これは予想以上だ!ユイとレイナのメイド服姿は予想以上の破壊力だ!こんな美少女メイドがいる店だったら、毎日でも通うぜ!秋葉原で覇権を握れるレベルだ!


「ユイとレイナはかわいい格好でいいわね。それに比べて、なぜ、私だけこんなウサギみたいな格好なの?」


そう、シスにはバニーガールになってもらったのだ。Hカップはあるであろう巨乳に、圧巻の巨尻!こんなエロテロリストにはバニーガールである!


「シ、シスは、元魔王だから、あまり強そうに見えたらお客が怖がるだろ?だから、あえて弱々しいウサギの格好をしてもらったってわけさ」


「なるほど!頭いいわね、ソウタ!」


我ながらナイス!『ただ、エロいバニーガールが見たかっただけ』てことは、俺の心にしまっておこう。


こうして、趣味全開のメイドカフェができ上がったんだが、黙っていてもお客は来ない。そう、メイドカフェといえば、路上でのビラ配りこそ真骨頂なのだ!




「はい、一人300枚がノルマね。では、はじめーっ!」


ユイ、レイナ、シスを連れて、街の大通りでビラ配りを始めた。


「よろしくお願いします!今日、お昼12時オープンです!」


「ぜったい来てね!待ってるわよ!」


「私の美味しい料理食べに来てね♡」


王国の王女に、大陸一の大魔導士、それに元魔王が・・・メイド服とバニーガールコスでビラを配っている。壮観、壮観。そして、俺の狙いは的中することとなる。


街ゆく男達が、鼻の下を伸ばしてビラを受け取る。中には、何往復もして受け取るやつまでいる。おかげでアッという間にビラを配り終えたのだった。



店に戻り、ランチタイムの準備だ。


「お客さん、来ますかね?」


「怪しすぎて誰も来ないなんてオチじゃないでしょうね?」


「気合い入れて仕込みしすぎちゃったわよ?」


たちは、不安そうな表情を浮かべていた。そして、その不安は、すぐに解消されることとなる!



「「「おかえりなさいませー、ご主人さま♡」」」


まず、ユイ、レイナ、ミーアがお出迎えだ。



「えーと、ビビアにコカトリスのトマト煮込み、それから、チーズじゃがバターですね」


オープンと同時に店内は満席となり、店の外には長蛇の列が続いている。フロアがユイとレイナだけでは間に合わないので、俺も加わった。ミーアは子供たちに捕まって身動きがとれない。


奥の厨房はシスが一人でこなしていたが、間に合わないのでバルダスたちにも手伝ってもらった。


ちなみに、チーズじゃがバターは、200ゼニスという低価格も相まって、大好評を博した。しかも、調理はシスの手を借りなくても、魔道具『レンジレンジ』のおかげでバルダスたちでも簡単にこなせるのである。


「こんな美味しい料理は、はじめてだ!特に、このファイヤリザードのステーキは最高だな!」


「店員さんが可愛すぎる!さっき、オムレツにケチャップでハート描いてもらったよ!」


「厨房のおねえさん、昼はランチのオカズを出してくれて、夜は夜でオカズにもなってくれるなんて、一石二鳥とはこのことだ!」


「さっき、あの小さいほうの店員さんにサイン書いてもらったぜ!嬉しすぎる!」


大好評すぎて、もうほとんどパニック状態だった。ユイとレイナには早くもファンが付き、アイドル化していた。そして、シスの仕込んだ料理も仕入れた酒も、すぐに売り切れてしまったのだ。


それでも長蛇の列は続いたので、支配人である俺が直々に頭を下げて、翌日以降に来てくださるよう、お願いして帰ってもらった。



「つ、疲れた・・・」


「も、もうダメです・・・」


「あたしは楽しかった!」


「人使いが荒すぎるわよ!もっとお給料を上げてもらわなきゃね・・」


みんなグッタリしていたが、レイナだけは元気だった。もしかして、こいつには天職だったりして。


リニューアル初日は大大大成功だった。この調子で軌道にのせたいところである。


「今日は、各々ゆっくり休んで、明日も頑張ろう!」


「「「「オーーーーーッ!」」」」


こうして、俺たちの新たな挑戦が始まったのである。






一ヶ月後。店は相変わらずの大盛況である。その噂は遠くの街や村にまで及び、遠路はるばるお越しくださるお客様までいる。バルダスたち『猪の団』も、すっかりウチのスタッフの一員となった。


「今日も、みんな、お疲れさまでしたー」


「「「「お疲れさまでしたー」」」」


「もうヘトヘトです・・」


「今日、あたしの『チェキ』100枚も売れたのよー!褒めて褒めてー!」


『チェキ』とは、レイナが開発した魔道具で、現代でいうところのインスタントカメラみたいなものである。


「あと三日頑張れば休みね。それだけが心の支えよ」


「剣の腕より調理の腕が上がってきたぜ。いつの間にか【料理人】のスキルが身についている・・」


「カシラは商売の天才ですぜ!」


なんという充実感だろう。人に認められるとは、こんなにも嬉しいものなのか。長年ひきこもりだった俺には、味わったことのない達成感だった。よし、明日も頑張ろう!わざわざ楽しみに来てくれるお客さんの期待に応えていこう!・・・いこう?


って、おい、こんなことするためだけに、この世界に転生してきたわけじゃないぞ!とっとと、暗黒魔導士を倒し、真鍮のドラゴンも倒して現代に帰るんだ!


「おい、みんな、何か忘れてないか?」


「次のイベントの準備ですか?歌の振り付けは明日の予定ですよ?」


「新しい『チェキ』のポーズは、もう考えてあるわ!」


「仕込みは、もう終わってるわよ?」


こいつら、完全にメイドになりきってやがる!


「いや、そうじゃなくて、暗黒魔導士だよ!ヤツらの情報を集めるんじゃなかったのか⁉︎」


「おぉ!忘れてました!」


「仕事が楽しすぎて、頭になかったわ・・」


「ソウタさん、わたしも忘れてました。すいません」


うっ、こいつら・・・。


「私はお客さんから噂話し程度だけど、情報をもらったわよ」


「マジか⁉︎さすが、シスだ!」


元魔王が一番しっかりしている。


「この街のはるか西にある『ラムザ村』というところに勇者の一行がいるらしくてね、彼らが暗黒魔導士の隠れ家を見つけたらしいわよ」


シスの情報によると、勇者一行は暗黒魔導士の隠れ家を見つけたものの、本来の目的ではないのでスルーしたらしい。なんて、気の利かない勇者なんだ⁉︎

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