第20話 婚約と巨大剣

モルドバとの戦いを終え、ドルガニア城へと戻ってきた俺たちは、事の顛末てんまつを皇帝マルティムに報告した。


「なるほど。神官モルドバは、そんな化け物であったのか・・・。この前の疫病も、モルドバが術を使ったか、もしくは水道水に毒を盛ったか・・・そんなことかもしれぬな」


「はい。きっと、暗黒魔導士にそそのかされて、あのような化け物に成り下がってしまったのでしょう」


王女ユイの言葉には説得力がある。


「して、そのような恐ろしい化け物を一刀両断したとは、スズキソウタ、そなたなのだな?」


「あ、はい。まぁ、一刀というか、一度外したので二刀でしょうかね。・・ははは・・」


「なんという剛の者よ!そなたほどの剣士、傭兵にしておくのはもったいない!ぜひ、この帝国の騎士になってはくれまいか?」


「あ、いや、僕にはやることがあるので、専属の騎士というのは、ちょっと・・・すいません」


「なんと⁉︎・・そうか、フローディスにも声をかけられているのだな?ならば・・・フェリシア、こちらへ来なさい」


「なんでしょう、お父さま?」


奥の方から皇女フェリシアがやって来た。


「ソウタ殿、まだ12になったばかりだが、ワシの娘のフェリシアをめとり、ワシの跡を継いで帝位につくがよい!」


「「「「「えーーーーーーっ⁉︎」」」」」


「それなら、文句はあるまい」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!そういうのは、フェリシア皇女の意向ってものもあるんじゃないですか⁉︎」


「フェリシアよ、おまえ、ソウタ殿の妃になるのが嫌か?」


フェリシアは、もじもじしながら、顔を赤らめて首を横に振った。


「というわけだ」


ま、まんざらでもない⁉︎・・えっ?いいの?こんな美少女、嫁にもらって?えっ?いいの?まだ12歳って言ってたけど、条例とか大丈夫なの⁉︎・・い、いや、親がいいって言ってるんだ、そこは問題ないはず!


「じゃ、じゃ、お言葉にあまえ・・」


「ダメでーーーーーーすっ!」


ユイが割って入る!


「ソウタは、こ、こ、このわたしと婚約しているのですっ!」


なんだって⁉︎いつの間に俺とユイが婚約してるんだ⁉︎


「そうであったか。さすが、フローディス!ぬかりないわ。はっはっはっ!」


皇帝の横でフェリシアがしょんぼりしている。今にも泣いてしまいそうだ。


「それでは、せめて、礼だけでもさせてくれ」


俺たちは皇帝より金一封を受け取った。




ドルガニア帝国と無事に和平条約を結ぶことに成功し、一路、フローディス王都へ帰る途中、荷馬車の上で。


「な、なあ、その、あの、婚約ってことは、俺たち付き合ってるってことだよな?」


「はぁ⁉︎なに言ってるんですか⁉︎あれは、皇帝をあきらめさせるために嘘を言っただけですよ」


「へ?嘘?」


「当たり前じゃないですか!ソウタには暗黒魔導士を倒してもらわないとならないし、そもそも、わたしはまだ16ですよ?婚約なんてするわけないじゃないですか?」


ワナワナワナ・・・。


「お、お、おまえーッ!俺の純情をもてあそびやがって!・・だったら、俺はな、あの皇女さまと婚約すればよかったよ!なに邪魔してんだよ!ふざけるな!」


「な、な、な、なんですか⁉︎せっかく、助けてやったというのに⁉︎そ、それじゃ、もらってやればいいじゃないですか、あの皇女さまを!そのかわり、世界中に言いふらしてやりますからね、『ロリコンソウタ』って、言いふらしてやりますからねっ‼︎」


「お、おまえ・・・」


「ソウタさん!落ち着いてください!」


ミーアが止めに入ったが、俺の怒りはおさまらない。


レイナとシスは冷めた目で俺たちを見ている。


「騒がしいわね。ゆっくり寝られたもんじゃないわ」


「ソウタは、やっぱりロリコンなのかしらね?大人の魅力も教えてあげたいのだけど♡」


「教えんでいいわよ、元魔王」






ドルガニア帝国とフローディス王国の和平条約という大きな仕事を成し遂げた俺たちは、束の間の休息を取るべく、ハイムの街へ戻って来た。


ドルガニア帝国から金一封、フローディス王国からも報奨金をもらい、いつの間にか、俺は小金持ちになっていた。これだけあれば、そこそこ大きな物件を借りることができるだろう。まず、拠点を決めて、地に足をつけて冒険にのぞみたいところだ。


「おぉ!なかなかいい物件じゃないか!」


ギルドの仲介で、ハイムの街の中心部より少し外れた場所にある3階建ての洋館の前にやってきた。


「こちらの物件は、オーナー様の意向により、自由に改装してもよいとのことなので、お客様のご希望にもピッタリでございますよ」


「それじゃ、ここに決めます!」


「ちょっと広すぎじゃないですか?わたしたちが住むだけであれば、こんなに広くなくてもよいと思うのですが・・」


ユイの意見も一理ある。


「へへへ、ちょっといい考えがあるんだ」



俺たちが拠点を構えるのは、かけ出し冒険者の街だ。ここは、家賃の相場も安いんだが、街の周りには強いモンスターがいなく、報酬の高いクエストが受けられない。つまり、黙っていては、どんどん金だけが減っていくわけだ。


そこで、この建物の一部を改装して、店にする。店での売り上げは、そのまま家賃や食費にあて、金の心配をすることなく、冒険に集中できるというわけだ。



早速、借りた物件の1階で、みんなを集めて会議を始める。


「さて、店をやると言っても、何をやるかが問題だな」


「『流浪の魔道具店レイナの店本店』というのはどう?」


「うーん、おまえの店って、流行ってる感じがしないんだよな。1日の最高売り上げって、どのくらいだったんだ?」


「え?そ、それは、5000ごちょごちょ・・・」


「はぁ⁉︎聞こえんのだが?」


「ご、500ゼニスよ!」


「却下ーーーッ!500ゼニスじゃ、飯代にもならない!次ー!」



「剣の道場ってのは、どうだ?師範はオレがやるぜ!」


「おぉ!バルダスはソードマスターだし、入門したい人も多いかもしれないな!」


「でも、最近の冒険者は『痛いのは嫌だ』とかで、近接攻撃職を目指す人が少なくなっているようです。みなさん、魔導士やアーチャーなどの遠距離攻撃職やプリーストなどのサポート職を目指す方が増えているようです。おかげで、王国騎士団も人手不足で困っています」


「現代日本の人手不足問題みたいだな。次ー!」



「レストランなんて、どうかしら?私、料理得意だし♡」


「おぉ!それはいいな!飲食は景気にも左右されづらいし、安定して収入が見込めるぞ。それに、レイナの『レンジレンジ』もあるから、効率良く調理ができるかもしれない。よし!今回は、シスの案でいこう!」


こうして、屋敷の1階を改装して、レストランを始めることになった。




一週間後。オープン初日。


「さぁ、みんな、いよいよオープンだ!気合い入れていこう!」


「「「「オーーーーーーッ!」」」」


まず、ウェイトレスはユイとレイナだ。若いし、だけはいい。お客も喜ぶだろう。


厨房はシスに一任した。彼女の作る料理は、本当に美味しく、特にコカトリスのトマト煮込みは絶品である。店のマスコット役はミーアだ。お子さまにも喜んでもらえるだろう。


そして、このレストランの全体を見渡し、マネジメントをするのが、この俺だ。


「今日は、忙しくなるぞぉー!」




そして、夕方。


カァ、カァ。


「お客さん、一人も来ませんでしたね」


「中心から外れているから、わかりづらいのかしら?」


「せっかくの仕込みが台無しだわ。フードロスになっちゃうから、みんなに頑張って食べてもらわないと。」


・・予想外だ。なんで、お客が来ないのだろう⁉︎レストラン経営をナメていた。商売とは、こうもシビアなものなのか⁉︎


「よっしゃーっ!やり直しだー!」

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