第22話 勇者と巨大剣

俺たちは、ようやく本来のやるべき事を思い出し、ラムザ村へ向けて旅立つことにした。


まず、ハイムのメイドカフェ『どり〜む・きゅあ♡』は、せっかく経営が波に乗り出したところなので、店を休ませず、このまま営業を続けてもらう。


そのため、バイトを募集したところ、踊り子を目指している女の子や獣人の女の子など、なかなか有望な人材を確保できた。


ただ、厨房に関しては、シスに代わる料理人は見つからなかったので、このまま、ここの店長として残ってもらうことにした。本人も冒険よりは料理の方が好きらしく、喜んで引き受けてくれた。


レイナも残りたいとか言い出したのだが、【連撃】の補助魔法が使えると分かった以上、付いてきてもらわなければならない。


というわけで、俺とミーア、ユイ、レイナは、シシマルの荷馬車で、一路、ラムザ村を目指した。もちろん、巨大剣も一緒である。




荷馬車を走らせること三日。ようやく、ラムザ村に到着した。


早速、勇者に会うため、村人への聞き込みを開始したのだが・・・。


「勇者さまなら、今朝がた、この村を出ましたよ。なにやら、ウェアラウス火山へ行くとかおっしゃってましたが」


とのことなので、急いで後を追う。


「勇者さまって、どんな人なんでしょうね?」


「あたしは噂だけ聞いたことあるけど、伝説の装備を持っているらしいわよ」


「えぇ⁉︎そうなの⁉︎」


伝説の装備とか、超憧れるんですけどー!


「ソウタさんは伝説どころじゃない武器を持ってますけどね」


ミーアの言うことは間違っていない。しかし、もっと、こう、自在に操れる武器が欲しいんだよなぁ。



ラムザ村を出て、しばらくすると、道を歩いている3人組を発見した。


「おぉ!あれじゃないのか⁉︎」


背中に立派な装飾があしらわれた盾を背負った男が歩いている。両脇には武闘家ぽい女とプリーストを連れている。


「あ、あの、すいません、勇者の方ですか?」


「ん?キミは?」


「あ、俺は、ソウタ。スズキソウタです」


「えっ⁉︎その名前、もしかして、キミも転生者⁉︎」


「え?あんたも?」


「うん、そうだよ。僕は、アラガキヨウだ。よろしく!」


「よろしく!」


驚いたことに、ここで出会ったのは、アラガキという名前の同じ転生者だった。年は同い年くらいだが、スラっとして背も俺より高く、髪はサラサラの茶髪で、現代ではリア充組であることは間違いないだろう。


よく見ると、アラガキの肩の上にもフェアリーがのっている。あちらは男の子のようだ。転生者には、もれなくフェアリーが付くのか。


「アラガキくん、あんたに聞きたいことがあるんだ」


「なんだい?もしかして、この背中のものかい?」


「あ、いや、そっちじゃなくて、暗黒魔導士について・・・」


「やっぱり気になるよね!これ、伝説の武器『アイギスの盾』なんだぜ!」


「あ、はは、そうなの?凄いね。・・で、暗黒魔導士について・・」


「僕も、まさか自分が当たるとは思っていなかったからさ、ビックリしたよ!だって、最高レア度の【SSR】だよ!信じられる⁉︎」


「・・・・・」


・・なんだろう?なんか、ムカつく。


「当たった時は、マジでビビったね。実際、こいつの防御力は凄まじくてさ、ほとんどの敵の攻撃を防いでくれたよ。おかげで、もうラスボス近くまで来てるんだ。【SSR】武器は、あると無いとでは大違いだね。まぁ、難点は、排出率が0.001%未満で、入手困難なところくらいかな」


「そ、そうなんだ、ははは。で、暗黒魔導士についてだけど・・」


「勝負しない?」


「え?」


「『PvP』!」


『PvP』・・・プレイヤー・バーサス・プレイヤー。つまり、転生者同士で勝負するってことか⁉︎


「ソウタさん!『PvP』は、勝つと相手の所持金の半分を奪えますが、負けると所持金が半分になってしまいます!しかも、アラガキさんはレベル62のグラディエーターです!勝ち目はありません!」


俺のレベルの倍以上ってことか!普通にやったら瞬殺されてしまう!


・・でも、なんだろう、こいつ、ムカつくんだよな。さっきから、人の話し聞かないで、【SSR】の武器がどうとか自慢話しばかりしやがって!しかも、『PvP』だって、どうせ『俺TUEEEEE‼︎』したいだけなんだろ?この自慢ヤロウが‼︎


「いいだろ、やってやるよ。・・いや、やってやんよ!」


「なぜ、言い換えたのでしょう?」


「一度、言ってみたかったのかもね」


ユイとレイナがコソコソ言っている。


「フフッ、そうこなくっちゃ!で、君の武器はどれ?」


「これ」


俺は荷馬車の上の巨大剣を指差した。


「ぐっ!な、なにコレ⁉︎剣?・・なのか?」


「そう。一人で持ち上げられないけどね、ちゃんとした剣だよ」


「あ、この人と勝負するから、ユイとレイナは荷馬車から降りてね」


ユイとレイナは渋々荷馬車から降りる。


「・・はは・・持ち上げられない剣ね・・おもしろい。そんなんで勝負できるのかな?」


「やってみなければ、わからんだろう?」


「・・・。いいだろ。ナメられたもんだな、手は抜かないぞ!」



俺とアラガキは間合いをとって向かい合った。


「ヨウ、そんなヤツぶっ飛ばしてやんな!」


「手加減しないと死んじゃうかもですよ〜。あはははは」


武闘家の女とプリーストが、言いたい放題言ってやがる。


「あの人、気の毒に・・・」


「相手が悪すぎたわね」


ユイとレイナは、アラガキをあわれみの眼差しで見ている。



アラガキは、左手に『アイギスの盾』を構え、右手に、これまた【SR】ランクの剣を構えた。俺は、そばに荷馬車があるだけで、丸腰だ。


「いくぞッ!」


そう言うと、フライング気味に距離を詰めてきた。普通、丸腰のやつに、こんな本気のダッシュかましてくるか⁉︎


「シシマルー」


俺が名前を呼ぶと、シシマルは飛び上がり、荷馬車の『引き手』の部分に落ちた。


ドスンッ!


テコの原理で巨大剣が跳ね上がり、ちょうど俺の頭上へと落ちてくる。


そして、そのまま巨大剣のつかをキャッチして振りおろした。


「それ」


「いッ‼︎」



ゴッ‼︎



『アイギスの盾』に巨大剣が激突し、その反動でアラガキは吹き飛ばされた。


実は、シシマルの荷馬車なのだが、車体下部を鋼鉄で作り直して剛性を高めている。シシマルには、毎日いいモノを食べさせているので、体も一回り大きくなり、重量の増えた荷馬車も難なく引くことができるようになっていた。さらに、その体重を利用して、テコの原理を使ったのだ。


すべてメイドカフェの繁盛により余剰資金ができたおかげなのである。ちなみに、今の攻撃は、アークドラゴン戦から着想を得て、俺が考案したものだ。


吹き飛ばされたアラガキは、勢いよく地面を転がっていった。


「「ヨウーーーッ!」」


武闘家の女とプリーストが、びっくりして叫ぶ。


「うぅ・・・」


「あ、ごめん、大丈夫か?」


俺は少し心配になって声をかけた。


「す、凄い剣だな。僕の負けだよ」


俺は手を差し伸べて、起き上がるのを手伝ってやった。



「あーーーーーッ‼︎た、盾が、盾がっ‼︎」


『アイギスの盾』は、真っ二つに割れていた。さすが、【SSR】の盾だ、割れても使う者を守ったか。


「おいっ!どうしてくれるんだよ⁉︎僕の、僕の最強装備をこんな風にしやがって!うぅ・・」


「ご、ごめん、ごめん、修理代は俺が出すから・・」


「こいつは【SSR】の盾なんだぞ!この世界の人間が作れない『神の創造物』なんだ!修理なんてできるわけないだろ‼︎」


「え?そうなの?」


こいつは、まいった。ヤバいクレーマーにひっかかった気分だ。

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