第35話 ドルガニア城陥落と巨大剣

俺は、今、シシマルと荷馬車の上の巨大剣を眺めている。改めて、こうして見るとデカい。いや、デカ過ぎる。


過去、この剣を持ち上げられるヤツはいないかと、『力自慢コンテスト』をやったことがある。オークと人間のハイブリット種の半獣人や身長3メートル超えの巨人族も参加していた。


が、しかし、誰一人、持ち上げることができる者はいなかった。まるで、巨大剣自体が、それを拒否しているかのようだった。


「コイツを拳一つ分でも持ち上げられることができるのは、俺だけってことか・・」


「フゴッ」



「ソウタ!こんなところにいたの⁉︎探したのよ!」


レイナとシスがやって来た。なかなか珍しいコンビである。


「改まって、なんの用だ?」


「ジャジャーーーン!」


レイナは小袋を見せた。


「やっと完成したのよ!その剣を持ち上げられる秘薬がっ!」


「そんなもん、あるわけないだろ?かつて、筋力増強バフだってやったことがあったが、まるで効果なかったじゃんか!」


「今回は本物よ!あたしとシスの共同開発なんだから」


「レイナの魔法に魔王の呪いを掛け合わせて作ったのよ。名付けて『魔薬』♡」


「・・・・・」


とりあえず、俺は、その『魔薬』とやらの入った小袋を受け取った。中身を一つ取り出してみると、正露丸のような丸い小さな玉だった。


「・・・。じゃ、せっかくだから、一回試してみるか?」


「ちょ、ちょっと待って!それを飲んだら大変なことになるわよ!」


「なんだよ⁉︎大変なことって?」


「それには私の呪いがたっぷり仕込んであるのよ。飲んだ者の身に何が起こるか分からないわ。死ぬこともあり得るわね・・」


「ゲッ!なんちゅう薬を作ってるんだよ⁉︎飲んだら危ない薬とかって、意味ないだろうがっ!」


「これは、あたしとシスの知的好奇心を満たすためだけに作った薬なの」


「だから『魔薬』なのよ♡」


「あのなぁ・・・」


ダメだ、こりゃ。こいつらは、いったい何しに来たんだ⁉︎




「ソウターーーッ!」


「今度は、何だ⁉︎」


ユイが血相を変えて飛んで来た。


「た、大変です!ド、ドルガニア帝国が、暗黒魔導士軍に攻められて、陥落寸前らしいのです!」


「なんだって⁉︎」


暗黒魔導士ツダは、ブリタニア城での戦い以来、ずっと行方知れずだった。それが、ここにきて、軍を率いて攻め上がって来ただと⁉︎


クソッ!完全に油断していたぜ!行方を眩ましている間に軍を立て直していたということか⁉︎


「ドルガニアは同盟国なので、王国は軍を派遣することにしました。わたしたちも援軍に加わりましょう!」


「よし、バルダスと猪の団にも召集をかけよう!」


ツダよ、同じ転生者として、ここで決着をつけてやる!




俺は、ユイ、レイナ、シス、それからバルダスと約千名の猪の団を引き連れて、ドルガニア城までテレポートした。そして、目の前に広がる光景に、俺たちは愕然としたのである。


「これは、どういうことだ⁉︎」


ドルガニア城の城門前には、無数の兵士が横たわっている。そして、城壁は所々破壊され、中からは煙が立ち上っていた。


「ド、ドルガニア城が陥落したということでしょうか・・」


唖然とする俺たちの背後から馬に乗った騎士が近づいて来た。


「遅かったか・・・」


フローディス国王ロデリックである。そして、ロデリックの後ろには数千名の兵が控えていた。


「お父様・・」


「ドルガニアの窮地と聞いて、軍を率いて駆けつけたのだが、敵の攻勢がこれほど早いとは・・・」


帝国の兵士が、こうも容易たやすく壊滅させられるだろうか⁉︎ツダのやつ、いったいどんな手を使った⁉︎



その時、城壁の門が開いた。


「グォオォオォオォ!」


門から次々と飛び出して来たのは魔物たちだった。ゴブリン、グール、オーク、トロール、様々な魔物が100、いや、1000匹以上向かってくる!


「全軍、備えろ!」


ロデリック王の号令に兵士たちが盾を構える。


「お、おい!シス、あいつらなんとかならないのか⁉︎魔物といえば、元おまえの部下たちだろう⁉︎」


「もちろんよ!ここは、私に任せて!」



シスが一歩前に出た。


「おまえたち!私を忘れたか⁉︎おまえたちの主にして統率者、魔王システィーナ・ザナディであるぞ!」


魔物たちは、こちらを見て一斉に足を止めた。


「あ、あれは、たしかにシスさまだ!」


「おぉ!シスさま!」


さすが、元魔王!その威厳は、いまだ健在か!


「うぉっほん、おまえたち、魔王とわかって、この私に牙を剥くのか⁉︎無礼であるぞ!ひれ伏せい!」


「ど、どうする?」


「魔王って言っても、おれたちを捨てて出ていったお方だしな」


「今さら、主とか言われてもなぁ・・」


魔物たちはザワザワしだした。


「お、おい!おまえたち、私は主であるぞ!今までの恩を忘れたのか⁉︎」


「恩とか言ってるぞ?」


「魔王と言っても『元』魔王だろ?ずうずうしい」


「いまや、人間の味方して、おれたちを退治しようとしているじゃないか?」


なんか、雲行きが怪しくなってきた。


「ちょ、ちょっと待て!わ、私はおまえたちを倒そうなんて思ってないわよ!だから、お願い!信じてください!」


「信じてって言われてもなぁ」


「もうヤっちまってもいいんじゃね?」


「そうだ、そうだ!裏切り者はヤっちまおう!」



「グオォオォオォオォ!」


魔物たちは、再び突進して来た。



「な、なんで、そうなるのよー⁉︎」


ダメだ、こりゃ。



「全軍!かかれーーーッ!」


ロデリック王の号令で、騎馬部隊を先頭にフローディス軍が立ち向かう。


「クソッ、ツダのやつ、シスのいない隙に魔物まで手懐けていたのか⁉︎」


「ゆ、許せないわね!私の可愛い下部たちをそそのかして!」


魔物たちとの交戦が始まった。


「カシラ!猪の団が城門まで道を切り開く!そこを荷馬車で一気に突っ切ってくれ!」


「わかった!みんな無理するんじゃないぞ!」


シシマルの荷馬車に俺とユイとレイナが乗った。


「シスも乗れ!」


「私は、ここであいつらの相手をするわ!」


シスの表情は険しかった。



「こんのっ、薄情者めがーーーッ!」


シスの巻き起こした巨大竜巻が魔物たちを巻き上げる!元魔王は、それはそれは、お怒りになっていたとさ。


「グギャアァアァアァ!」



「いまだ!いくぞ!」


シシマルの猛ダッシュで、一気に城門へと迫る。

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