第34話 王国会計士シルヴィアと巨大剣
ギルドではお金を預かってくれる制度があって、わずかだが利子も付けてくれる。現代で言うところの銀行のようなものだ。俺は、今、そのギルドの預金通帳を眺めている。
「1億2250万ゼニス・・・」
商人連合からレンジレンジのライセンス販売の手付金1億ゼニスが入金されていた。残りは王国にもらった褒賞などだ。ちなみに、現代での俺の預金残高は8千円である。
暖炉の前で、この預金通帳を眺めながら飲む紅茶が一番美味しい。まぁ、手付金の半分は、発明したレイナの取り分なのだが。
「ソウタ、なにか大きな荷物が届いていますよ」
「おぉ!届いたか⁉︎」
それは、『全身らくらくマッサージ魔道具チェア』というものだった。頭から足の裏まで全身を包み込むようにマッサージしてくれるというものだ。
最近、ずっと家でゴロゴロしているせいだろうか、首や腰が痛む時がある。
「・・おぉ・・この・・なんとも・・気持ちのいい・・」
絶妙の力加減で、全身のツボというツボを押してくれる。まさに、ハンドマッサージを受けているような気持ち良さだ。特に、足裏とふくらはぎの指圧が最高だ。
「ソウタさん、暗黒魔導士は見つからなくても、
「ミーア、こんな寒い時にドラゴンのいる洞窟へなんか行かなくてもいいだろ?しかも、いまだ、巨大剣は持ち上がらないんだし、行ったところで勝ち目なんかないよ?それに、間違ってドラゴン倒しちゃったら、俺、帰んなきゃならないし、そうなったら、誰が暗黒魔導士を倒すんだ?」
「たしかに、そうですが・・。このままでは、女神さまに怒られてしまいそうです」
「心配しなくても、そのうち『時』が来るさ」
来ないでいい!そんな『時』来ないでいい!このままの時間が永遠に続きますように・・・俺は、内心そう思った。
チリン、チリン。
「ん?誰だ?」
「スズキソウタさんはいますか?」
ガチャ。
「はい、僕ですが」
「いたぞ!確保ーーーッ!」
ドアを開けると、数人の役人らしき人たちが一斉になだれ込んで来た。
「な、な、なんなんですか⁉︎」
目の前には、タイトな制服に身を包んだ黒髪メガネの女性が立っている。キリッとした表情で、性格がキツそうな印象だ。
「スズキソウタさんですね?私はフローディス王国税務官シルヴィアと申します」
「ぜ、税務官⁉︎」
「あなたの財産はすべて差し押さえます」
部屋に押し入ってきた役人たちは、手当たり次第に『差押』の札を貼っている。
「ちょ、ちょっと、なんなんだよ⁉︎突然!」
「それから、脱税の容疑で、スズキソウタ、あなたを逮捕します!」
ガチャ!
「へっ⁉︎」
俺はシルヴィアに手錠をかけられた!
「ソウタさんは何も悪いことはしていませんよ!」
ミーアが擁護してくれたがシルヴィアは無視している。
「・・・・・」
「ソウタ・・」
なんと、ユイとレイナも手錠をかけられて連行されてきた。
「ちょ、ちょっと!どういうことだ⁉︎俺たちは何もしていない!」
「『何もしていない』のが罪なのです」
「へっ?」
「これだけお金を稼いでおいて、納税しないとは言語道断!万死に値します!」
そう、俺は、現代でもずっと引きこもりのニートだった。税金なんて納めたこともない。そういうシステムがあることは知っていたが、俺には関係ないことだと思っていた。
フローディス城、王の間。
俺とユイ、レイナは連行され、ロデリック国王の前に突き出された。横には税務官シルヴィアが立っている。
「なんか悪かったね」
国王は苦笑いしている。
「・・・いえ、こちらこそ、すいませんでした。税金なんてシステム、よく知らなかったので・・」
「父上、ソウタ個人の責任ではありません。気が付かずに放置していたわたしの責任です!」
「いやいや、最初から君たちを咎めようとは思ってなかったのだよ」
「え?」
「実はな、先頃、就寝中に女神さまからのお告げがあってな。『スズキソウタを冒険に駆り立てよ』と、夢の中でそうおっしゃったのだよ」
め、女神さまだと⁉︎ミーアの言うとおり、女神さまは怒っていたのか⁉︎俺はミーアの方をチラッと見た。知らない顔をして横を向いている。もしかして、チクリやがったな・・・。
「それで、仕方なく逮捕して、
「い、いや、こちらこそ、税金払っていない俺が悪いんです。そろそろ身体も鈍っていたことだし、ちょうどいい機会になりました」
「うむ。そなたには、なんとしても暗黒魔導士の野望を阻止してもらわねばならぬ。ヤツらを止められるのは、お主だけだからな」
「わかりました。やるだけのことはやってみます」
「それで、ソウタ殿、お主、副業の方も忙しく、冒険に専念できない状況にあると思うのだが、ウチのシルヴィアを会計士として付けてはどうかな?シルヴィアは経営にも長けておるので、すべて任せても安心だ。それに、税金の払い忘れもなくなるであろう」
「ほ、本当ですか⁉︎それは、ありがたいです!」
ということで、本業以外のことは、このシルヴィアに見てもらうこととなったのだ。
拠点2階リビング。
「ふぅ・・。とりあえず、逮捕されなくて一安心だよ」
「我が父上ながら、ヒヤヒヤさせられましたね」
「どうなることかと思ったわよ」
「安心したら、お腹が空いたな。今日は、タラババサミとラウシカのステーキ、それにワインでいこうか?」
「「いいですねー!」」
「シャラーーーーーップ‼︎」
俺たちの楽しい会話をさえぎったのは、シルヴィアだった。
「今日から食費についても私のほうで管理させていただきます。お一人、今夜の食費は300ゼニスまでです」
「「「えーーーーーーッ⁉︎」」」
こうして、俺の財布の紐はシルヴィアに握られることとなり、自由に使える金はなくなったのだった。
それから数日後、シルヴィアは財団を設立し、メイドカフェ2店舗の売上、アイドルグループの興行収入、レンジレンジのライセンス料などを一元管理するようになった。
俺たちはお小遣い制となり無駄遣いができなくなっていた。そして、この後、シルヴィアのおかげで一国の国家予算並みのお金が貯まるとは、この時、誰も思っていなかったのである。
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