第25話 温泉と巨大剣

ラムザ村の病院で入院すること三日。怪我の状態も良くなり、ようやく退院できることとなった。だが、背中には大きなヤケドの痕が残り、合併症の影響で松葉杖がないと歩けない状態となってしまった。


「ウェアラウス火山の麓に温泉宿があります。そちらで、しばらくゆっくりしてみてはどうでしょうか?」


そう、お医者さんに言われて、アラガキとの『PvP』対決に勝ってお金に余裕もあることから、しばらく、湯治に行くことにした。


巨大剣は手元にあっても使えないし、盗まれても大変だから、ハイムのシスのところまでシシマルに運んでもらおう。


「シシマル、シスのところまで、頼んだぞ」


「フゴッ、フゴッ」


シシマルは荷馬車に巨大剣だけを載せてハイムへと向かった。


「完璧に飼い慣らしてますね」


「魔獣使いとかになったほうがいいんじゃないのかしら?」



俺とミーア、ユイ、レイナでラムザ村から無料送迎馬車に乗り、温泉宿へと向かった。


この世界に来てから、こんなにゆっくりできるイベントは初めてだ。というか、温泉なんて小さい頃に行って以来だから、とてもワクワクする!


「ウェアラウス火山の麓に、そんな温泉があるなんて知りませんでしたね」


「すぐ上にエンシェントドラゴンがいたっていうのに、ずいぶんとのんびりした話しよね」


「それだけ、秘境の銘泉ってことなんじゃないのか?」




しばらくして、ウェアラウス火山の麓にある『焔獄谷えんごくだに』についた。この谷では、あちこちから蒸気が立ち上っていて、あたりには硫黄の匂いが漂ってる。


そのすぐ近くに、温泉宿『タキモト』はあった。名前からして、転生者にゆかりのある宿なのは間違いないだろう。日本家屋風の建物は風情があって、とても懐かしく、そして、落ち着く雰囲気だ。


「いらっしゃいませ」


宿の入り口では、着物に身を包んだ女将さんが出迎えてくれた。


「うっほー!温泉だ!温泉だ!わーい!」


「すごいはしゃぎようですね」


「まるで子供ね」


木造の宿の中は、純和風のたたずまいで趣きがある。


「当宿の大浴場は1階にあります。右手が男湯、左手が女湯、真ん中が混浴♡、となっております」


「こ、こ、こ、混浴♡」


「この男、混浴にだけ興味を示しましたね」


「あたしたちは女湯にしか入らないから別にいいけどね」


「ソウタさんは欲望に忠実すぎます」



俺たちは、2階の客室に案内された。部屋は、もちろん和室だ。


「へぇ、部屋も落ち着きがあっていいな!」


「このわらでできたような床は珍しいですね」


こっちの世界で、まさか『畳』の上で寝られるとは思ってもみなかった。


「さて、さっそく、温泉に入ってこようかな?」


「はい。どうぞ、ごゆっくり」


「あたしたちは、晩ご飯の後に行くわ」


「ソウタさん、わたしもユイさんとレイナさんと一緒に行くので、お一人でごゆっくり」


「え?何言ってるの?俺、怪我人だよ?松葉杖ないと歩けないんですけど?お風呂場で俺を一人にしようっての?ねぇ?床で滑って転んじゃったら、どうするの?ねぇ?」


「「「・・・・・」」」


「あーいいよ、もう!そんな薄情な奴らだとは思ってもみなかったわ!わかりました!床で滑って頭打って死んでもいいってことですね⁉︎えぇ、ユイさんよ!」


「・・・べ、別にそんなわけじゃ・・・」


「レイナさんも、そういうことなんだな⁉︎」


「わ、わかったわよ!いっしょに行くわよ!」


「・・・わかれば、それでよろしい!」






カッコーン。



あぁ、生き返る。露天風呂に浸かりながら、こんなにのんびりできる日が来ようとは。極楽、極楽・・。そして、湯気の先には、美しい身体の美少女が二人・・。目の保養、目の保養・・。


「さっきから、こちらをずっと見ていますね」


「刺さりそうな視線だわね」



「さ、上がって体を洗おうかな?」


「「・・・・・」」


「体を洗おうかな?」


「「・・・・・」」


「おい!一人じゃ、上がれないんだけど!」


「はいはい、わかりました」


俺は、ユイとレイナに支えられながら、湯船を出た。もちろん、素っ裸である。ユイとレイナは肩を支えながら、顔は逆を向いている。二人とも顔を赤くしているのが、な、なんか興奮するな!


「それじゃ、頼むよ」


「え?洗うのは一人で、できますよね?」


「この不自由な身体じゃ、一人は無理だよ。無理して傷が裂けたら、どうするんだよ?」


「くっ・・・!」


「はい、ユイは背中。」


「・・・わ、わかりました」


ユイは石鹸のついたタオルで優しく背中を擦ってくれる。その度に、大きな胸が俺の背中にぶつかるのである。なんと気持ちいいのであろう。あぁ、ここは、天国か。


「はい、レイナは足の付け根ね」


「なななによ⁉︎『足の付け根』って⁉︎」


「足の付け根は、足の付け根だよ?」


「そ、そんなとこ、自分で洗えるじゃないの⁉︎」


「いや、それが自分じゃ上手く洗えないんだよ。やっぱりあの火炎魔法のせいかな?目もあまり見えずらくてね。威力が大きすぎたのが原因かもしれない」


「・・・わ、わかったわよ!」


レイナの手が足の付け根を優しく擦る。おぉおぉ!こ、これは、ヤバいかも⁉︎


「も、もうちょっと、奥の方を・・・」



「アクアブラスト!」



ドッシャーーーッ‼︎



レイナの魔道具【アクアブラストガン】から大量の水が吹き出し、俺の股間を直撃した。


「どっひゃあぁあぁあぁあぁッ!」


その水圧で俺は露天風呂の外まで吹っ飛ばされた!


「石鹸を流そうと思っただけなのに、また、やっちゃった・・・テヘッ」



「・・・おまえ、わざとだろ?」






晩ご飯は、女将さんが部屋まで持ってきてくれた。豪華な和食で、とても美味しそうである!和食を見たことのない二人は大喜びだ。


「これは、珍しい料理ですねー!ポッポの肉を鍋で煮込むとは⁉︎そして、このタレがなんとも・・甘しょっぱくて病みつきになります!ごはんとの相性も抜群ですね!モグモグ・・」


たしかに、異世界でこんなに美味しいすき焼きに出会えるとは思ってもみなかった。


「こっちのウロコアルの薄切りも最高だわ!この黒いソースをつけて食べると、なんとも言えない磯の香りが口いっぱいに広がる!」


異世界の刺身も悪くない。それにしても、醤油まであるとは・・ここのオーナーは何者だろう?


「ソウタさん、ここのオーナーは、きっと日本から来た人ですね?」


「そうだな。ミーアは日本を知ってるのかい?」


「はい!以前、ソウタさん以外にも日本から来た転生者に付いたことがありますので」


「なるほど。で、その人は、今はどうしてるんだ?」


「冒険の途中で死んでしまいまして、天界に帰られました」


「そうか。やっぱり、この世界では一度死ぬとゲームオーバーなんだな。ラノベやアニメみたくはいかないか」



温泉に美味い料理。『これぞ日本の宿』というおもてなしを受け、俺たちは最高の気分で床についた。






翌日。


朝から外が騒がしい。


「ん、ん・・なんだ?」


眠い目を擦りながら、窓から外を見ると、そこには多くの人たちの姿があった。


「おぉ!あれを見ろ!ソウタさまだ!神殺しのソウタさまだ!」


「あれが、エンシェントドラゴンさえ一太刀で倒したという剛の者か⁉︎」


「キャーッ!ソウタさま!こっち向いてぇ!」



なんだ、なんだ⁉︎これは⁉︎

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