第10話 ビキニアーマーと巨大剣

俺たちの荷馬車は、気付かないうちにジャッカルの群れに囲まれていた。7、8匹はいるだろうか。


「クソッ、数が多すぎる!」


その時、俺の背後から、レイナの声が・・。


「ファイアーボール!」


レイナの放ったファイアーボールが、ジャカルたちを襲う!


「おぉ!」


一度に、複数の火の玉を放てるのは、さすが、大陸一の大魔導士だ!


キャイン!キャイン!


ジャッカルたちは火を恐れて逃げてゆく。そして、その火は、森の木々に次々と燃え移っていった。


「おいおいおい!火が燃え移ってるぞ!山火事だーー‼︎」


シシマルの荷馬車に乗り込んで、全速力で走らせる!しかし、火は、どんどん迫ってくる!


「おまえ、使う魔法を考えろよ!こんな森の中で火を使ったら山火事になるだろうが⁉︎」


「だ、だって、しょうがないじゃないの!あたしの専門は火炎魔法なのよ!あれでも一番威力の低い魔法なんだから!」


「そんな時はユイにまかせておけばいいだろが⁉︎」


「そ、そんなに、怒らないでよ!こんなこともあろうかと、ちゃんと準備してあるんだから!」


そう言って、レイナは水鉄砲の大きなやつを取り出した。


「テッテレー!『アクアブラストガン』!」


「『テッテレー』じゃないわ!・・って、例の魔道具か⁉︎」


「そうよ!水属性の魔法が使えない者でも、これさえあれば大丈夫!魔力を転換して水魔法が使えるのよ!」


「なんでもいいから、とっとと消火してくれーッ!」


レイナはアクアブラストガンを構えた。


「いっけーーーっ!アクアブラストーーー‼︎」


ドッシャーーー‼︎


アクアブラストガンから大量の水が勢いよく放出される!そして、その水は火の勢いをどんどん弱めていった。


「おぉ!凄い!これは素晴らしい魔道具だな!」


「あたりまえよ!あたしを誰だと思っているの⁉︎大陸一の大魔導士、いや、大陸一の大発明家、レイナさまよ‼︎」


放出された水の勢いは凄まじく、俺たちの荷馬車にかなりの推進力を与えた。


「ちょ、ちょ、ちょ!スピード出過ぎて止まらんぞーっ!ストップ!ストーーーップ!」


「フゴゴゴゴーーーッ‼︎」


「あ、あれ、止まらない!水が止まらないのよ!」


「安全装置とか付けなかったのか⁉︎」


「安全装置?・・それは、いいアイデアね!」


ダメだ、こりゃっ‼︎


もの凄い勢いで森を通り抜けた荷馬車は、どんどん街の城壁へと近づいていく!坂道の勾配もあって、さらに勢いを増していった。


「「「「うわぁあぁあぁあぁ‼︎」」」」


ドッガーーーン‼︎


城壁に激突した荷馬車は大破し、俺たちは放り出された!




「みなさん、大丈夫ですか⁉︎」


ミーアの声で目が覚めた。


「痛たたたた・・」


はっきり言って、死んだと思った。生きているのが奇跡みたいな事故だった。


そんな中、レイナは荷馬車から落ちた巨大剣をマジマジと見ながら、こう言った。


「こんなふざけた巨大剣、何考えて作ったのかしらね?」


おまえが言うな‼︎






たどり着いたのは『セントアンジュ』という街だった。ここは教皇領サザンクロスのお膝元で、住人のほとんどが熱心なアーク教の信者だ。


アークドラゴンを倒したことで『神殺し』のレッテルを貼られた俺だが、まだ顔は知られていないようで、街での行動に支障をきたすことはなかった。


大破した荷馬車を修理に出し、ユイの鎧も発注して、今夜はこの街の宿屋に泊まることにしよう。




翌日。


俺たちは、ユイの鎧を受け取るため、鍛冶屋へと向かっていた。


「ほ、本当に、ソウタにまかせて、大丈夫だったのでしょうか?」


「大丈夫だって!俺を誰だと思っているんだ?数々のRPGでキャラクターメイキングをしてきたベテランゲーマーだぜ。ユイは大船に乗ったつもりで、ドンと構えていてくれればいいんだよ」


「何を言っているのかよくわかりませんが、武具の成形は、わたしの専門じゃないので、ソウタの言うとおりにするしかないのですが・・・」


この街の鍛冶屋は腕が良いらしく、仕事も早いっていうんで、ユイの新しい鎧をオーダーメイドで発注した。その際、デザインは俺に一任されたというわけだ。


「レイナも魔法使いなんだから、杖とか持ったほうが、ファンタジー感出るんじゃないの?」


「なによ、その『ファンタジー感』って?杖みたいなローテクなものは必要ないのよ。これからは、コレよ!」


レイナは自慢げにアクアブラストガンをかかげて見せた。


あれだけの大事故を起こしておきながら、かなり気に入ったようで、通常装備として持ち歩くことにしたらしい。まったくもって、迷惑な話しだ。ファンタジー感も何も、あったもんじゃない。



「こんちわー!」


「おぉ、昨日のお客さんだね?例の品、できているよ」


「ありがとう、おやっさん!」


「お嬢さんだね、この鎧を身につけるのは?」


「は、はい。レイナもいるのに、わたしだって、よくわかりましたね?」


「そりゃ、わかるよ。ささ、こちらへ来て、試着してみておくれ」


俺の渾身のデザインだ!きっと気に入ってもらえるはずだっ!



しばらくして、試着室から出てきたユイの第一声が、これだ。


「な、な、なんですか⁉︎このエロい鎧は⁉︎」


そう、女戦士といえば、ビキニアーマーがテッパンなのである!これぞ、ファンタジー!これぞ、男のロマン!


「「おぉ!」」


俺と武器屋のおやっさんは、ビキニアーマーのユイに目が釘付けとなった。特に胸とお尻が大きいユイには、これが映える!


「カラダのほとんどが露出していて、これじゃ防御どころじゃないですよ!」


「バカだなぁ。これだから素人は・・。よく見てみろよ、本当に『肝心な部分』は防御されているだろう?それに、鎧を軽量化することにより、素早い動きが可能となる。敵への先制攻撃にもつながるんだ。攻撃は最大の防御!それが、このビキニアーマーの最大の特徴なのだ!」


「た、たしかに・・そうですが。で、でも、この格好は恥ずかしすぎます‼︎」


「ん?ほら、そんな時のために、マントも作ってもらったよ。これで恥ずかしくないだろう?」


「うぅ、そんなぁ・・」


ユイは顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた。でも、もう、作っちゃったものはしょうがない。これからは、これで頑張ってもらおう。

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