第18話 伝説のおっさん、SNSを始める

 翌日。

 俺は楓に言われ、SNSとかの基本的作業をすることにした。


「普通はね、SNSとかやって自己紹介の配信から活動を始めるの」

「そういうもんか」

「そーいうものよー」


 ありがたいことに色々な素材、マニュアルも楓は用意してくれていた。チャンネルやSNSで書くべき情報、書いちゃいけない情報……タグを作ること、SNSの使い方、配信者の収入と税金などもろもろ。


 さすが一流企業なだけはある。外部の人間にこうしたものをぱっと渡せるんだからな。まぁ、きっと俺みたいに配信初心者ですっていう人間は前にもいたのだろう。実に頼れる。そんなわけで、ホテルに戻った俺はマニュアルを読みながら配信者としてやるべきことを進めていった。


「まずは適切な情報発信、と。えーと……SNSの定期的な更新を心がけましょう。あなたのフォロワーに向けて、しっかりと発信を行いましょう」


 今、ダンジョン攻略で使われているSNSとしては配信サイト『Dウォッチ』と提携している『Dダイアリー』が一番人気らしい。


 ドローン経由での画像の張り付け、短時間なら動画投稿も可。もちろんDウォッチとの連携も超簡単……。良いことばっかりだ。もちろん、これにしておこう。

 他のSNSとかどうせ知らないし。ドローンがぴこぴこと光り、元気良く報告してくれる。


「ぴっ、連携完了しました!」

「ありがとう。お前は可愛いなぁ……」

「ぴぴっ! どういたしまして!」


 褒められたのが嬉しいのか、ドローンがくるくると俺の周りを飛び回る。それも可愛い。なんだか癒される……。


「はっ、いかん。作業を続けないと」


 マニュアルを読みながらの作業で、すでに1時間が経過している。下手すると今日中に全部終わらなくなってしまう。それはマズい。気合い入れて進めないと。


 で、Dダイアリーに最初の投稿をしないとな。これは比較的なんでもいいらしい。重要なのはプロフィールとかのほうで、ここは情報を網羅しておくのがいいのだとか。


「だとすると、最初の投稿は挨拶にしておくか?」

「ぴ! いいと思います!」

「うーん、でもどうしたものか。はじめまして、だとなんか硬いな。おはようございますも微妙な感じが……」


 わからん。SNSをやったことがないので、当然の疑問であった。どうしても出来なかったら連絡して、とは楓に言われているが……技術的なことならまだしも挨拶程度で相談するのは気が引ける。


 待てよ。方法はある。

 俺は真っ白で賢くて可愛いドローンを見つめた。


「……ちなみに今、Dダイアリーで流行っている挨拶とかわかるか?」

「ぴぴっ! わかります!」


 素晴らしい……。この白いドローンが天使に見えてきた。そう、これは決してカンニングではない。人類の集合知への偉大な敬意だ。俺は認める――自分が何も知らないSNS初心者であると。だから、無難で流行っているものに巻かれたい。それだけなのだ。


「その挨拶、教えてくれる?」


 そしてドローンは教えてくれた。今、Dダイアリーで流行っている挨拶を。知った以上、余計なことはするべきではない。俺はただ、集合知に身を任せればいいのだ。


 というわけで諸々の設定を済ませ、俺はDダイアリーへの初投稿を行った。


『ぽはよー』


 よし、とりあえずSNSはオッケーだ!!


”伝説のおっさん、Dダイアリー始めたって”

”ちゃんと連携してる。本物だ”

”偽物が死ぬほどいたけど、やっと本物来たか”

”でもなんだこの挨拶”

”おっさん……? それは今バズってるアイドルの挨拶だが?”

”おっさんはアイドルだった?”

”最適化済みです”

”学習能力◎”

”ローゼンメイデンがバックにいる?”

”どうだろ。ローゼンメイデンは意外とネタ投稿しない。真面目”

”伝説のおっさんが一番、流行りに乗ってるまである”



 その後、作業しつつ配信に必要な情報をまとめていく。色々と公開したほうが親近感をもってもらえるので推奨、らしい。


「それで氏名、年齢、生年月日はわかるが……身長、体重も必要なのか?」


 体重はでも注釈があるな。ローゼンメイデンは女性メンバーだけなので、非公開の人間も多いです……ふむふむ。実は筋肉量や骨の関係からか、俺はかなり重めだ。180センチ、90キロくらいかな。ぎっちりしている。でも世間的にはちょっと重いと思う。


うーむ、イメージとかに関わる……のか?

一応、非公開にしておこう。


 あとは好きなものか。好きな食べ物は焼き鳥、好きな飲み物はコーヒー。

 ゲームや漫画は……困ったな。戦い漬けだったから、あんまり知らない。迂闊に書いて突っ込まれても嫌だし、素直にあんまり知らないと言っておこう。

 

 焼き鳥やコーヒーにしても主な供給源は居酒屋かコンビニなので、御大層なことは言えないが……。俺は安くて味が良ければ何でもいいタイプなのだ。


「最後は今後の活動方針や目標とかか……」


 マニュアルによると例えば〇級を目指しますとか、〇〇〇のダンジョンを攻略しますとかがオーソドックスなのだとか。


 うーん、どうしたものかな……。俺個人で、そういう具体的な目標はなかったりする。俺のランクは今、スタートのF級(データバンクと連結すればもらえる)だ。しかし今からS級目指すのもなんだかだしなぁ……。


 覚醒者向けのテクニック集とかダンジョンの攻略動画とかをしっかりやっていきます、でいいか。弟子募集中ってやるとまた弟子が増えそうだし……弟子がどんどん増えて、大人数になっても困る。


 よし、とりあえずこれでいいか。

 ということで準備を整えた俺は、夜18時から自己紹介配信を行うことにした。Dダイアリーにその旨も投稿して、これで良しと。


 今日は俺の作業、自己紹介配信をするのでレイナやカリンとの鍛錬はなしである。俺も配信までのんびりと過ごそう。


 しかし一段落するとなんだか緊張してきた……いや、大丈夫だ。

 国連のチームでやり取りしていた時のことを思い出せ。言葉がろくに通じなくても、礼儀と敬意があればなんとかなる。気を落ち着かせるため、俺はDダイアリーを眺めることにした。


「ん……? ちょっと待て」


 Dダイアリーはいわゆる返信、引用返信機能がある。それでなんだが、見てみると大変なことになってるじゃないか!


如月カレン:

「先生の自己紹介配信です! どんなことを話してくれるのでしょうか? もちろん正座で全力待機!」


桃坂カリン:

「おっ! やっと先生の自己紹介じゃねーか! 見るしかねぇよなー!?」



 おいいいいいっ!! ハードルが! 高くなってる!

 やめてよぉ……。俺のチャンネルってまだ始まったばかりよ?


 このふたりで合計チャンネル登録者600万超えてるのに。案の定、物凄い勢いで告知投稿の閲覧数が跳ね上がってる……。ちょっと怖くなってきた。これで俺がつまらない判定されたら、このふたりもつまらない人間判定されてしまうのでは?


 なんか、やったほうがいいよな……。

 普通に自己紹介して、おっさんのプロフィールを垂れ流すだけじゃ……だめだよな、これ……。


フィード:

「俺も注目してます。この配信で強さの一端がきっとわかりますよね」


 フィードまで! 彼はローゼンメイデン所属じゃないのに、本当に良い奴だ。彼まで期待してくれているのなら、やっぱり少し変わったことをやるしかない。


 でも俺に出来る、変わったこととは……?

 戦闘かダンジョン攻略ぐらいしかない。でも逆にそれでいいのかもしれない。俺はおっさんだ。気の利いたことはできそうにない。


 腹を決めろ。おっさんは、やれることをやっていくしかないのだ。

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