第28話 伝説のおっさん、就任する

 それから2週間、俺はレイナやカリンを指導しつつ日々を過ごした。もちろん合間にダンジョンに潜って配信をやったりして。


 登録者も35万人突破で実にめでたい……らしい。配信を始めて1か月も経たないのに、これは本当に凄いことだという。

 あとはテーマを決めて雑談配信をしたりとか……。焼き鳥の食べ比べ企画とかはまたやりたいな。


 そしてバトルイベント当日。俺とレイナは江戸川中流の特設会場に来ていた。控室で俺たちは今日の戦場をチェックする。この戦場は今日のために特別に用意され、地形が公開されたのも初だという。


「始まるまであと2時間……か」

「もうすでに戦いは始まっていると言えるでしょうね」


 俺たちの控室の近くには、大人数収容できる作戦室がある。俺たちのチームは15人で、ほとんどが到着しているはずだ。


 しかし所属事務所も違う者同士、いきなりの連携は難しい。急ごしらえでチームとしてどこまで動けるのかも問われている……というわけだ。


「リーダー、サブリーダーくらいは決めて連携したほうがいいだろうな。でもすんなり決まるかな……?」

「その辺りはあまり心配はしていませんが」


 そうかなぁ……?

 お互いに所属が違えば、目的は同じでも主導権争いは起きるものだ。国連時代に死ぬほどそういうことがあったからな。


 配信上のバトルと言っても、そう簡単にベストな形になると思えない。

 仮にレイナとカリンがいたら……ああだこうだ言い合いになりそうだし。


 だがレイナは心底、そういった懸念はないようだった。


「とりあえず、作戦室に行きませんか?」

「そうだな……周りと話さないと、連携も何もできないし」


 控室を出て、作戦室に入る。そこではもう十数人のチームメンバーがわいわいと話していた。入った瞬間、俺とレイナが周囲から視線を集める。


 どうやら俺たちは後発組だったらしい。


「あっ! ついに――」

「伝説のおっさん! 本物です!」

「やったーー!!」


 なぜか歓声が上がった。……どういうことだ?

 初対面の人しかいないんだが……。


「えーと、これは……」

「やはり先生の名前はそれだけ広まっている、ということです。これは必然です」


 なぜかレイナがドヤ顔している。


「さぁさぁ、早く作戦会議をしましょう。時間が惜しいですからね……!」

「お、おう……そうだな」


 席に着くと、皆が期待の眼差しで俺を見ているのがわかる。皆、俺の第一声を待っているっぽい。さて、どう答えたものかと迷ったが……。


 こういう時はまず挨拶。


「今日は……よろしくお願いします」

「「よろしくお願いします!」」

「作戦会議をしたいなぁ……と思うのですが、えー……今回のリーダーは……」


 見回してみる。誰もが俺を見ている……あれ?

 どういうことだ?


「……決まってないんですか?」


 そこで何人かがずいっと前に身を乗り出す。


「もちろん伝説のおっさんが俺たちのリーダーですよ!」

「そこまではもう決めましたから!」

「今日は全部指示に従いますー!」


 え、ええ……?

 もう君たちでそういう流れになってたの……??


「ふふふ……!!」


 レイナはまだドヤ顔をしていた。全部、わかってましたよと言わんばかりの顔だ。

 わかっていないのは、俺のほうだったみたいだ。



 仕方がないので、俺が今回の暫定的なリーダーになった。

 作戦室のホワイトボードにささっと書いていく。


「この人数ならリーダー1、サブリーダー3人……サブリーダーの下に3人~4人で1小隊……」


 これまでの経験上、これがベストな配分のはずだ。おおよそ、どこの国でもこの配分だったから。


「……今回は回復も使えるから、いかに無茶をせずチームで動くかが重要だな。サブリーダーには経験豊富で探知が上手い人間が望ましい……」


 皆、ふんふんと頷いて聞いてくれる。皆、若い……。というより、このチームで最年長はどうも俺っぽい。俺より次の年代でもアラサーくらいだ。


 これは多分、俺が年長者だからリーダー……にしておこうぐらいだな。

 でなければ初対面で俺をリーダーに担ぎ上げるはずもないし。


「要注意の敵メンバーは後で考えるとして、総合力では同等のはずだ。後はいかにチームワークで敵と戦えるか……」


 ドローンからのホログラムで戦場の地形が映し出される。そこも加味して小隊分けをしないとな。遠距離攻撃、待ち伏せ……取れる戦術はやっていかないと。


「で、肝心のサブリーダーと小隊分けも…………」


 そこまで言って、またしても皆が俺をきらきらした瞳で見つめる。

 まさか、これは……!


「「お任せします……!!」」


 マジか……。かなり責任重大な話になって来たな。


 しかし片一方では、楽しみにしている俺自身もいる。

 こんなに大人数の覚醒者を率いるのは久し振りだ。最近は小隊規模で動くことがほとんどだったからな。


 期待されるからには、応えなければならないだろう……。年長者として!


 ―――


 チームメンバーのひとり(こういうの初参加だけど、伝説のおっさんの下ならうまく戦える……よね?)


 チームメンバーのひとり(ネットの記事だと覚醒者になって25年以上とか。どう考えても今回のリーダーでしょ!)


 チームメンバーのひとり(この前フィードと戦って、ボコボコにされたからわかる……。伝説のおっさんはマジヤバいって。味方で良かったぁ……)

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