第17話 伝説のおっさんとカリン
あたしが配信者になった理由は単純だった。それが一番、向いていたからだ。
２０年前、両親はあたしが３歳の時に死んだ。なので顔は覚えていない。どういう人間だったかも。今の時代、そういう人間は意外と多い。
それからあたしは７歳になって、たまたま散歩で足を踏み入れたＦ級ダンジョンで覚醒者になった。Ｆ級ダンジョンで覚醒者になるのは相当珍しいらしい。ちょっとした新聞記事になったくらいだ。
あたしは大切な時はいつも直感を信じて生きている。
そして色々あり、ローゼンメイデンに所属した。入ろうと思ったきっかけは、レイナも所属するって聞いたからだ。同年代、同じ女性でレイナとあたしはまさにライバルだった。ライバルだからこそ、近くにいたほうが面白いと思ったのだ。
「よろしくな！」
「……ええ、よろしく」
レイナについて。最初の頃はめっちゃ暗くて怖いやつだと思った。レイナは常に強くなることと魔獣と戦うことしか頭にないような感じだった。とびきり綺麗で、歌も上手いのにもったいないなーって思った。
あたしはレイナと違って、魔獣に対してそこまで憎くは思わない。魔獣は害獣で、知性があっても駆除するだけだからだ。あたしの両親や家族が死んだのは魔獣のせいだと聞いたけど、割り切るしかない。余計なことを考えているとむしろ危ないと思った。
ローゼンメイデンにレイナと一緒に所属して、まもなく。事務所でギター片手に楽譜をごちゃごちゃ書いているレイナに会った。
「作曲なんかしてるのか。意外だな」
「社長が才能あるからやってみろって」
「あの人って音楽わかるの？ ガチガチの武闘派覚醒者じゃん」
「さぁ……とりあえず、言われたからやってみる」
レイナは目上に言われたことは素直にやるタイプだ。悪戦苦闘しながらも、レイナは曲をひとつ作った。あたしはその曲を初めて聞いた時、びっくりしたのをよく覚えている。
「……すげぇじゃん。天才だぜ」
「そう？」
「なんか染み渡るな。雨の日に傘を差さないで歩くみたいに」
「ふーん……」
「なんだ？」
「ＳＮＳ見てても思ってたけど、あなたって意外と詩的よね」
あたしの投稿したの、見てんのかよ。そっちのほうが意外だった。あたしは思ったことはすぐ言葉にするようにしている。リスナーからは詩人とかロマンチストとか言われてるけど、そんな大層なものじゃない。単に言葉にしたいだけだった。
そして後日、あたしは社長に呼び出された。
「レイナの曲に歌詞を作って～」
作詞をやるのは苦労したけど、楽しかった。最終的にレイナとあたしの曲である『雨上がりはいつも虹』はヒットした。それからレイナとあたしはダンジョンの外でも組んで活動することが増えた。
そして今。
バトロワを終え、あたしと先生はローゼンメイデンのビルに帰ってきた。先生はなんか社長に呼ばれたのでそこで別れ――あたしはビルの中にある自宅に戻った。
「ただいまーっと」
あたしのじゃない靴が玄関にあり、部屋の明かりもついている。と言っても、さっき連絡があったのであたしは驚かなかった。
「……おかえりなさい」
「はぁ……またあたしのぬいぐるみを……」
部屋に上がり込んでいたのは、レイナだった。ソファーで横になりながら、あたしのぴよぴよぬいぐるみやぺんぺんぬいぐるみに埋もれている。
「ふかふか……」
「収録で疲れてんのかよ。思考力ゼロじゃねーか」
「そうです。今の私はとても疲れています」
最近、レイナとはこんな感じだった。なんか甘えてくるのだ。多分無自覚で、なんだかんだ言っても可愛いのであたしも甘えさせてしまう。ぬいぐるみにすりすりし続けながら、レイナが今日のことを聞いてくる。
「……先生とのバトロワはどうでしたか？」
「んあー、凄まじい勉強になったよ。そんで、過去イチ冷静にやれたかも」
「私も見ましたけど、先生はほぼ全部わかってる風でしたねー」
「そうそう、お見通しって感じだったなー……」
あたしも相当集中して探知をやったけれど、先生には全然及ばない。先生は理想ではあるけれど、そこまで到達できるビジョンがまだあたしの中にはなかった。あたしはぽつりと呟く。
「人の過去を詮索するのってあんまり良いことじゃないけど、先生って昔は何やってたのかなー」
「人の過去を詮索するのは、良くないです」
「だから良くないことって言ったじゃん。ちょっとした好奇心レベルの話だよ」
「うーん、まぁ……社長の現役時代、一緒に組んでいたなら覚醒者としては最古参なはずです」
レイナがソファーから立ち上がり、あたしの部屋の冷蔵庫に歩いていく。ガチャ。レイナは断ることもなく、冷蔵庫からあたしのレモン紅茶のペットボトルを奪い取った。
「飲みますよ」
「いいけど、今度補充しておいてよ」
レイナが了解の合図に片腕を上げ、レモン紅茶を飲み始める。
「社長って、日本で一番最初にＳ級に認められたうちのひとりだもんな。伝説の５人とかいう」
「そうです、だから社長と同程度のキャリアがあるなら――先生もまた、伝説ということになります」
「でもそのキャリアがねえんだよなー。めっちゃ不思議」
「色々と事情があるのでしょう。主に海外で戦われていたのかもしれませんし」
「謎な人だぜ……」
にしても、先生は本当に欲がない。あれだけの強さを持ちながら、世間には一切知られずにいたのだから。それともそうしたことさえ考えられないほど、過酷な日々を送っていたのだろうか。
先生のあの強さは、しっかり報われるべきだとあたしは思う。
何十年にも渡ってダンジョンと魔獣に挑まないとあの強さは手に入らないはずだから。１５年以上覚醒者をやっていれば、それくらいはわかる。
サボったり怠けては絶対に覚醒者は強くなれないのだ。そんなことを考えながらスマホを触っていると、ふと先生のチャンネルに行きつく。
「……てか、今も先生のチャンネルってほとんど何もないのな。アーカイブしかねぇ。自己紹介もＳＮＳへのリンクもないぜ」
「ごくごく……。その辺りのことで、社長から指導があるようです」
「はぁー、なるほど。さすがにそろそろ揃えておかないとな～」
すでに先生のチャンネルは登録者２０万人に到達している。開設したのが一昨日なので、驚異の登録者数だ。ダンジョン攻略関係のニュースメディアも盛んに先生のことを取り上げていて、しばらく静かになる気配はない。
あたしも色々と表で語りたいが、今はかなり自重している。やっぱり先生のことを語るなら、まず先生自身が始めるべきだ。
――というか、単純に興味がある。先生の人となり、過去。
どう生きたら、あれほどの強さと経験と心構えを手にすることができるのだろうか。もちろんあたしも強い覚醒者と戦ったことはたくさんある。同年代でも多分、多いほうだ。それでも先生の積んだ経験を想像することさえ難しい。
伝説のおっさん、という名前はその意味でも面白い。
今も伝説を作っているけど、もしかしたら知られていないだけで――ずっと昔から伝説の人間だったのかもしれないのだ。
――――――――――――――――――
【★あとがき★】
『伝説のおっさんとバトロワ編』、完結になります。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました！
もしここまで読んで面白いと思ってくださった方、ぜひフォローと★レビュー、♡コメントなどで応援いただけますでしょうか。宜しくお願いいたします！
★はこのままページを下へスクロールしたところ、広告の下から入れることができます。そこから評価していただくと、とても嬉しいです！
何卒宜しくお願いいたします！
―――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます