伝説のおっさん、ダンジョン配信者になる~世界最強がセカンドライフで配信してみたら即バズってS級の弟子が増えた件~

りょうと かえ

第1話 伝説のおっさん、配信者になる

「ダンジョン対策特務隊を辞めたい、だと?」

「もう飼い殺しはうんざりですよ」


 俺、神谷達也は目の前にいる制服姿の上司に言い放った。

 俺は今、自衛隊に所属している。それをもう辞めたいと言ったのだ。


 世界中が異界――ダンジョンへ繋がるようになって、もう30年が過ぎた。

 俺も、もう42歳だ。

 30年前、俺が12歳の時に異世界と繋がるダンジョンが現れ、日常は姿を変えてしまった。それから色々あり、俺は自衛隊に所属して魔獣を討伐する仕事に就いた。


 それが家族や友人を守る最善の道だったからだ。

 がむしゃらに、ひたすらに俺は戦った。


 20歳、日本最強と政府に認定される。

 25歳、国連主導のダンジョン攻略に日本代表として参加。S級魔獣を20体討伐。この記録は、いまだに破られていない。

 30歳、国連による世界最強の10人に選ばれる。


 そして自衛隊の、ひいては日本政府の切り札として俺はダンジョン対策特務隊の隊長になった。だが、だんだんと政府はダンジョン攻略に消極的になった。


 理由は単純。ダンジョンが現れて30年、民間企業のダンジョン攻略が軌道に乗ったからだ。今では配信活動とセットで、日々ダンジョンに巣食う魔獣が討伐される。


 わざわざ自衛隊が出る必要もなくなってしまった、というわけだ。

 ここ数年はろくな出動もなく、新人も採用しなくなってしまった。当然、俺も暇を持て余すようになった。


 この1年はさらに酷い。ひたすら基地内の自主練で終わってしまったのだ。最下級のダンジョンにさえ挑む許可が出なかった。俺たちは切り札だから、使ってはいけないということらしい。本当に馬鹿みたいだ。


 そして40歳を越えて、俺はひとつの考えを持つようになる。


「誰かを育てたい」


 力や知識は人に伝え、受け継がないといけない。教えられることは人に教え、共有していきたい。それが力を持った人間の責任というものだろうと考えた。民間のダンジョン攻略は育ってきたとはいえ、俺のような人間が出来ることはまだあるはずだ。


 しかし自衛隊員のままでは、俺の培った戦闘技術を人に教えることはできない。法律的にそう決まっているらしい。


 力を持ったまま腐らせるだけなんて無駄そのものだ。

 だから、俺はもう辞める。


 自衛隊ダンジョン対策の元締めである、尾形大将はため息をつく。


「仕方ない、わかった。大臣にはわしから話しておく」

「すんなり認めてくれるとは意外ですね」

「頑固な君のことだ。言い出したら聞かんのはわかっている。それに……こういう状況になると思っていなかったのは確かだ。君の言い分もわかる」

「すみません……お世話になりました」

「いや、感謝するのはこちらのほうだ。君のおかげで、どれだけの人命が救われたのかわからない。最後にこうなってしまったのは残念だが、君の今後の活躍を祈っておるよ」


 尾形大将が起立し、敬礼を送ってくれる。

 憎くて辞めるわけではない。給料にも不満はない。

 ただ、このまま何もしないで終わりたくないだけだ。

 俺も敬礼を返し、その場を立ち去った。それが自衛隊最後の日だった。




 そして自衛隊を辞めた翌日。

 俺の個人メールに早速連絡が来ていた。


『アメリカ大使館より。緊急でお会いできないかと思います――』


 さすがアメリカは耳が早いな。だが、日本を離れるつもりはない。経験を還元するならまず日本国内からだ。決して飛行機での移動が嫌いなわけじゃない。なので……。


「アメリカ大使館からの連絡は見なかったことにするか」


 それで次にどうするか。今、民間のダンジョン攻略企業は多数ある。

 しかし俺の個人データと経歴は、自衛隊に入った際に機密保持ということでほとんどの記録が抹消された。


 対外的にはただの無職でぶらぶらしてたおっさんである。悲しい。俺の本当の経歴は国際的な機密情報データバンクにアクセスできないと得られない。


「つまり経歴も実績もないわけで……」


 まさしく出直しもいいところだ。

 過去の実績がないことになっている俺は、民間企業に行っても門前払いだろう。


 だが、俺は晴々とした気持ちだった。

 組織に所属しないのは何年ぶりだろうか。


 まずやるべきはブランクを乗り越え、勘を取り戻すこと。

 あとは調べてみたが、ダンジョン攻略企業に就職するにはダンジョンに潜った記録動画があるといいらしい。経歴書代わりということか。



 というわけで、さっそく動画撮影用ドローンを秋葉原で購入してきた。

 手のひらに乗るサイズの丸くて白いドローンで、どことなくハムスターに似ている。これでいて飛行・潜水可能、動画は高画質でたっぷり100時間録画できる。さらにAIも搭載され、会話も可能らしい。

 しかもダンジョン内で危機に陥ると自動的に入口へと瞬間移動させてくれる。

 至れり尽くせりじゃないか。


 これほど高性能で何でもありなのは、ダンジョンで得られたマナ素材を応用しているからだ。マナ素材のおかげで驚くほど様々な技術分野が進歩した。このドローンもそのひとつだ。


 買ってすぐ、俺は秋葉原の小さな公園で説明書を見ながらIDや初期設定を入力していった。ふむふむ……ぽちぽち……。


 自衛隊ではやってこなかった作業なので、少し時間がかかる。最新機器はどうも苦手だ。数十分後、ようやくドローンが起動して俺の周りを飛んでくれた。


「ぴぴっ、初期設定を完了いたしました!」

「よし……。俺の名前は?」

「データバンクと照合中……。神谷様、ですね」

「その通りだ。これからよろしくな」

「ぴぴ! こちらこそ、よろしくお願いします!」


 連携できる程度の情報はデータバンクに残されていた。なので、データバンクとの連携は問題なくできた。ドローンの設定も終わったし、早速動画撮影に向かおう。

 とりあえずこの近くにF級ダンジョンがある。F級ダンジョンに危険はなく、誰でも出入りが自由だ。肩慣らしにはちょうどいい。


「動画撮影モードに切り替えてくれ」

「ぴぴっ。了解しました! 公開モードに設定しますか?」

「なんだそれは?」

「ドローンと提携している配信サイト『Dウォッチ』への公開をします。神谷様はデータバンクとも連携したので、ライブ配信がすぐに可能です。デフォルトでは公開モードが推奨されています」

「なるほど……」


 Dウォッチはダンジョン関係で世界最大の動画、配信サイトだな。

 今、ダンジョン攻略にかかわる民間企業でここを利用していないところはない。


 自衛隊では動画もライブ配信もしていなかったので、いまいちピンと来ないが。とりあえず公開モードで問題ないよな。


「もしダンジョン攻略を就職等に活かしたい場合は、ライブ配信はとても有効です。能力の記録として認められます」

「それはいいな。編集とかしなくていいのか」

「あとは連携者のマナ残量を表示するマナカウンターも公開設定がおすすめです。後で見直す時に役立ちます」


 マナとはダンジョンで力を持った人間特有のリソース、魔力とか精神力とかそういうものだ。今はマナ残量もドローンでわかるのか。便利な時代だなぁ。


「じゃあそれも頼む」


 俺は深く考えずに推奨機能を全部オンにした。とりえず全部やっておけばいい。後でやっておけばよかった、というのが一番悔しい。そして設定を終えた俺はダンジョンに向かうことにした。


 その時、俺はまだ知らなかった。

 ライブ配信の凄まじい拡散力と影響力というものを――。


”初見”

”見たことのないおっさんだな”

”右上にマナカウンターあるけど、おっさんのマナ値2000万ってバグ? 日本のS級でマナ値800万とかだよね?”

”Dウォッチのマナカウンターは正確なはず”

”細工じゃねーの?”

”ライブ配信で細工なんて不可能”

”細工してたらそっちのほうがヤバいわ”

”マナカウンターも公開してるとか素人かよ”

”やばっ。マナ値2000万マ?”

”草 マジなら日本最強”

”というか、コメントに気付いていない?”

”普通ならドローンからホログラム表示されるけど、オフにしてるっぽい”

”推奨はオフだけど、だいたい表示させてるのに”

”マジで素人やん”

”初見です。日本最強がいると聞いて”

”とりあえず検証班もとむ”

”ヤバいの来ちゃった”

”伝説のおっさん、始まる”


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新しい小説を連載開始いたしました。


『破滅ルートの極悪貴族は勇者候補を育て始める~悪役貴族が生まれ持った時空魔術を使いこなしたら~』


https://kakuyomu.jp/works/16817330667021937089


主人公最強、勘違い系コメディです。

こちらもぜひ、お読みくださると嬉しく思います!

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