第30話 伝説のおっさん、挑まれる
同時刻、荒川のチームもフィールドに到着していた。手慣れた手つきでドローンを飛ばし、配信を始める。配信者としても10年近いキャリアを持つ荒川はクールな配信が持ち味だ。
「では、諸君――始めよう」
片眼鏡の荒川は出来る限り平坦な声でチームメイトに声をかける。だが、その内心では期待と激戦の予感が身体中を駆け巡っていた。
(いかん……声がうわずりそうになった)
国内第2位の配信事務所『ダンジョンダイバー』の重鎮として、荒川が戦いに特別な期待を持つのは久し振りのことだった。昨今の配信業界ではルールガチガチの戦いが好まれる。荒川もその意義は認める。
覚醒者の本領はダンジョンに潜って希少素材を採集すること、魔獣を狩ること。腕を磨く場であるはずのバトルイベントで、怪我人が出るのは無駄の極みだ。それならルールで縛って競い合ったほうが100倍マシである。
しかし荒川はもはやガチでバトルを楽しむ側ではなかった。S級覚醒者とは、それほどに強い。本気の荒川ならフィードもまだ相手にならない。
強者の手加減の必要を認めつつも、それを実践するのはやはりストレスなのだ。全力で、楽しく、技をぶつけ合う――魔獣との命がけの戦いではなく、本気の戦い。
それを願いながら、何年が過ぎただろうか。結果として荒川は表舞台から遠ざかった。弟子を取り、麻雀配信をして、利き酒イベントで酔っぱらう。荒川の今の姿は正しい重鎮の姿だった。
だが、今この場だけは違う。
「今日の相手は、強敵だぞ」
この場に荒川を知らぬ者はいない。荒川がチームリーダーに推されたのは当然だった。
『本気ならレイナやカリンでも勝てない』
『能力の精度と持久力は日本トップクラス』
『現役の覚醒者なら、日本でも五指に入るのでは?』
それが荒川の評だ。
しかしその荒川でさえ、達也の強さは驚愕するしかないものだった。
『あれほどの力を、どこで?』
答えは単純だ。絶え間ない闘争と鍛錬の果てに。
それ以外の答えなどあるはずもなく。
そして亡き師の技を完璧に操る、正体不明の覚醒者。
それが達也だ。今の日本にマナの集中をあそこまで制御できる人間がいようとは、思ってもいなかった。
荒川は思案する。恐らく達也は世界の裏側で戦ってきたのだろう。ほとんど誰も知らない、知られない闇の中で。想像を絶する死地を潜り抜け、ひたすらに己を磨き上げたのだろう。
「この場では俺も挑戦者だ。あの伝説のおっさんと正面から戦って勝てる見込みは非常に薄い――」
荒川に挑戦する人間は数多い。フィードも師を超えようとしている。だが、まだ遠い。その荒川が挑戦する側に立たされている。それこそが喜びとさえ言えた。
「だが戦術を駆使し、皆の力をひとつにすれば……勝てるやもしれん。俺の弟子のフィードができたぐらいだからな」
荒川の言葉に抑揚はない。しかしそれゆえ水のようにチームメンバーに染み込む。フィードは知略を駆使し、達也を退場まで追い込んだ。
同じことが荒川に出来るだろうか。出来る、この戦いならば。チームの合計戦力はほぼ互角だ。あとは臨機応変の戦術が勝敗を決する。
「予定通りに小隊で動き、敵を陽動。伝説のおっさんが出てきたら……俺の部隊が相打ちに持ち込む。その後はサブリーダーの指示で掃討だ」
♢
そしてバトルイベントが始まった。
中央に高台があり、その左右には見通しの良い道がある。
実況と解説は両チームのスタートを慎重に見極めていた。
「さて、序盤の戦いはどうでしょうか……」
「あまり動きはありませんね。やはり両チームとも牽制の段階でしょう。突出せず、敵チームの戦術を見極めようとしています」
主催側の俯瞰視点では双方の動きが地図に映し出されている。それぞれが数個の小隊を作り、動いている点は同じであった。
「ふむふむ……その点、定石通りということですか。赤チームのリーダーは荒川さんですが、青チームのリーダーは……伝説のおっさん、ですかね?」
「そのような感じですね。リーダーはルール上必須ではありませんが、やはり数十人規模の戦闘ですから、リーダーがいるほうがいいです。問題は彼にリーダーとしての素養もあるかどうかですが」
ネット上で様々な噂のある伝説のおっさん。中には各国を渡り歩いた傭兵隊長などという眉唾な記事さえある。
「そうですね、個人の戦闘力では伝説のおっさんに疑問の余地はないでしょう! 問題はそれ以上のリーダーシップと言えます」
「さらにこのバトルでは特殊ルールとして8分ごとにインターバルがあります。インターバル中は攻撃の禁止、5メートル以上の移動が禁止されます。このインターバルごとにバトルエリアは縮小……より激化していくでしょう」
バトルエリアは円形だが、先のバトルロイヤルと同様に時間によってエリアが狭まっていく。とはいえこのエリア縮小にランダム性はなく、単に狭くなっていくだけだ。
「しかし回復や指示も含めて、このインターバルは上手く使っていきたいところですね。荒川さんはこのインターバルありのイベント経験も豊富ですが……。しかし伝説のおっさんは集団戦闘や特殊ルール下ではどうなのか? そこにも注目していきましょう!」
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