第45話 伝説のおっさんの無事

 そのまま俺は病院に運ばれ、治療を受けた。

 とはいえ、それほどの重傷でもなかったが。


「片腕が飛んだけどー」


 俺のベッドのそばには、楓がいた。

 無茶をした理由のうちのひとつは、彼女がいたからだ。


「……楓がいたからだよ」

「ま、いいけど。じゃあ、治していくからねー」


 楓が俺の左腕の肩に触れる。

 彼女の特化能力『超再生』が発動する。


 俺は彼女の特化能力に便乗し、左腕にマナを集める。

 慎重に、ゆっくりと……。


 俺と楓のマナが溶けあい、新しい左腕になっていく。

 つまりイジャールのマナを利用したのと同じだな。


 10分ほどそうすると、すっかり左腕が元に戻った。

 ぐっぱ、ぐっぱ……。


 マナも通してみるが、大丈夫だ。


「オッケー、ばっちり治った」

「久し振りだけど、うまくいったね。わかってると思うけどさー……これ、無茶だからね?」

「ああ、わかってる」


 楓の超再生は、他人には使用できない。これが原則だ。


 しかしマナの流れを同調させることで、能力の発動対象に他人を含めることが出来る。いわゆる裏技だな。


 しかしこれには、弱点も多い。

 ひとつめは、接触しないといけないこと。ふたつめは、再生に時間がかかること。


 楓だけなら、腕が飛んでも1秒で元に戻る。

 それが肘から先で10分だ。かなり遅い。


 それでもちゃんと治るんだから、凄いもんだが。


 最後に、楓のマナと同調しないといけない。

 つまり一部の人間だけが恩恵を受けられるというわけだ。


『それができるのは、世界に数人だけだから。誰にでも出来ると思わないようにねー』


 それもあって、俺は無茶をした。

 前にも楓に色々と治してもらったからこそ、左腕を捨てる選択ができたわけだが。


 これまで腕を失くしたのは、10回以上。

 腕は2本しかないのに、因果な人生だ。


「……しばらくは、ゆっくりするよ」

「そうしてー」


 話によると、レイナも荒川さんも無事だそうだ。

 他の参加者も、観客にも人的被害はなかった。


 イベントの主催会社は、社長が辞任するみたいだが……。

 まぁ、大騒ぎになったからな。


 発表によると、どうやらあのフィールドそのものが、イジャールの用意したモノということらしい。

 魔獣を掃除し、極限までマナを抑えて潜む。


 気の遠くなるような話だが、やつは魔獣のいないダンジョンが人間に使われると学習したのだろう。だからこそ、やつは網を張った。


 異様に高いマナの濃度は、イジャールの用意した舞台だったからだ。

 今後は、その辺りも基準が出来るだろう。


「イジャールの核は、ちゃんと見つかったか?」

「うん、もちろんー。照合して、確定したよ。その辺りも見直しがあるみたい」

「……そうだな。逃げ延びた特異個体がいたんだからな」


 恐るべきは、特異個体があれほどの知性を発揮したということ。


 俺という個体への復讐。マナを抑えての潜伏。そしてマナの集中……どれもが、俺の接したことのない特性だった。


 それらについても、今後調べていく必要があるだろう。


 そんなことをつらつらと考えていると、病室のドアが開く。


「先生ッ!! ご無事でしたか……!?」

「ああ、ご覧の通り。腕も戻ったよ」


 レイナも白衣姿だが、元気そうだな。

 マナの流れにも淀みがない。


「はぁ……マジでビビったぜ。思ったより、元気そうだ」


 カリンもお見舞いに来てくれた。手には高級果物が入った籠がある。

 だが、そんなに病院に長居するつもりはないんだけどな。


「多分、明日には退院できると思うけど」

「「はぁ……??」」


 レイナとカリンが絶句する。


「腕は治ってるし、ほら……治療系の能力者もいるわけで。マナの流れも問題ないし、明日には大丈夫かなって」


 楓は足をぷらぷらさせている。


「達也はこういう奴だから、ね」

「はぁ……先生の規格外さは、底が知れませんね」

「もしかして、マナの集中を鍛えるとそうなるのかな」


 なんか、呆れられているような。

 まぁ、いいか……。


 これからも俺の方針は変わらない。

 弟子を育てて、このダンジョンと魔獣の世界を変えていく。


 それがおっさんの、おっさんとしての役割だからな。


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ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

これにて第一章完結です! 



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伝説のおっさん、ダンジョン配信者になる~世界最強がセカンドライフで配信してみたら即バズってS級の弟子が増えた件~ りょうと かえ @ryougae

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