第44話 伝説のおっさんと決着
お前と俺は決して分かりあえない。
お前は結局、他者と協力できないからだ。
だから、想像ができない。
俺にはわかった。上空のふたりが、何を狙っているのかを。
狙うべきところを狙ってくれる。
それは信頼だ。
俺はゆっくりと、真紅のレーザーをかき分けながらイジャールへと進む。
俺は俺のやるべきことを、やればいい。
マナの残量は5%を切った。
対して、まだイジャールには余力がある。
一撃で終わらせないといけない。
だが、俺にはもう勝利が見えていた。
上空で膨大なマナが弾け、降り注ぐ。
ふたりがベストなタイミングで能力を発動させたのだ。
発動地点は上空250メートルから。
これではイジャールも攻撃の瞬間を探知できない。反応が遅れる。
「なにっ……!?」
それは――黒の球体だった。
一瞬の間に、黒の球体がイジャールに接触する。
そして、イジャールの右腕が宙を舞った。
マナの集まったイジャールの右腕を、黒の球体が切り飛ばしたのだ。
ブラックホールによる超高精度の狙撃。
それが見事に、イジャールの右腕を肘から切断した。
超圧縮されたブラックホール、そして斥力の組み合わせ。
高精度の狙撃は、荒川さんがいたからこそ可能だ。
斥力によって加速されたブラックホールが、イジャールの不意を突いた。
そして狙った部位も、ふたりの経験が活きている。
イジャールの頭部と腹部はガードされている。もし荒川さんとレイナが急所を狙っていたら、簡単に防がれただろう。
だから、ふたりはあえて腕を狙った。
数秒で腕は再生する。一見すると、無意味な攻撃だ。
ゆえにイジャールは油断していた。ブラックホールの狙撃を、防ぐことも避けることもできなかった。
「無駄なことを!」
真紅のレーザーが途切れる。俺は前に飛び出す。
イジャールは早くも、全身にマナを集め始めている。左腕がやや強いが、それは俺を警戒してのことだろう。
すでにガードを始めているイジャールに、もうブラックホールの狙撃は効かない。
俺の一撃で決着をつけるしかない。
「足りないぞ、お前のマナではな」
「わかってるさ。俺のマナじゃ、もう致命傷は与えられない」
それほどまでに、俺は消耗しきっていた。
もう残ったマナを叩きつけても、仕留められない。
跳躍の中で、俺はイジャールの右腕を掴んだ。
マナがたっぷり残った、空を飛ぶイジャールの右腕。
「――ッ!!」
これほど集まったマナは、すぐには散らない。
そして主のいなくなったマナは、転用できる――素材として。
お前たちは知らない。
魔獣の牙や爪、魔力の集まった部位がどう使われるかを。
俺は知っている。
このイジャールの右腕なら、一度きりだが武器になる。
腕に残された灼熱のマナが、俺の本能に呼応した。
細かいことはどうでもいい。
ただ、この膨大なマナを最速で叩きつける――!!
右手に持ったイジャールの右腕が燃える。白熱した剣のように。
俺のマナも乗せ、斜めに振り下ろす。
初めて、この戦いで俺は叫んだ。
「うおおおおおっ!!」
ずっと守りに徹してきた俺の動きは、イジャールの想像を超えていた。
激しい緩急にイジャールは対応できない。
そのまま、俺は白熱した剣でイジャールを肩から両断する。
「ぐっ、うううっ……! 俺の、魔力を……!!」
まだ終わっていない。
俺はさらに、灼熱の剣をイジャールの胴体に突き刺す。
正確に、胸元にある核に向かって。
「ごふっ!!」
「じゃあな……強かったぜ」
それが最後の手向けだった。
イジャールの全身が、内部から燃え盛る。
俺は残ったマナの全てを流し込む。
――刹那。
イジャールの核が弾け飛ぶ。
魔獣は核を失うと、死を迎える。
イジャールは灰となって、あっけないほど早く燃え尽きた。
そして黒の灰となって、イジャールの全身が散っていく。
「勝てた、か……」
俺はがくっと崩れ落ちた。
正真正銘、終わった。
勝てたけど……なんとかだ。
もうマナも体力も、まるで残ってない。
久し振りに全力を使い切った。
「先生ッ!!」
上空からレイナと荒川さんがやってくる。
ふたりを見上げながら、俺は意識を手放していた。
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