第20話 伝説のおっさん、誘われる

 初配信の反応は悪くなさそうではあった。いや、面白がられていると言ったほうが正しいか。でも批判はされていないようだ。初配信から少しして、楓からDMで連絡がきた。


『w』


 これだけである。さすがの俺もこれが笑ったの意味であることは知っている。なので、楓にはこう返した。


『笑わないでよぉ……』

『ごめんね。泣かないでー』


 くだらないやり取りだが、駄目出しはなさそうだった。本当に笑えた……でいいのか? とりあえずは一安心ということにしておこう。ちなみに他の知り合いの反応はこんな感じだった。


如月レイナ:

「凄い! こんな自己紹介配信、見たことありません……! 正座で待機していた甲斐がありました!」


桃坂カリン:

「飛ばしてんなぁー!! さすがあたしの先生だ!」


フィード:

「わかっていると思いますが、一般の方が真似すると死にますよ。これは伝説のおっさんだから大丈夫なだけです」


 うぅ……フィードはまた触れてくれていた。彼はいい奴だ。でもそんなつもりじゃなかったのに……。

 しかしフィードの意見は正しい。低クラスの覚醒者がヴォルケーノザウルスと戦ったら大変なことになる。考えれば考えるほど残念過ぎる。こうなったら……飲むしかない。俺はホテルに帰るとすぐビールを飲み、そのまま寝た。



 翌朝。

 かなりの長時間睡眠のおかげでぱっちりと目が覚めていた。ルーチンワークをこなしてローゼンメイデンのビルに向かう。

 今日はレイナの鍛錬をする約束だ。カリンはカフェコラボの仕事で一日いないらしい。鍛錬をスタート……と言っても、特別なことをやるわけではない。


 ひたすらマナの集中を続ける。それだけだ。

 こればっかりは地味だけど地道に続けるしかない。


 そして少し経った頃、レイナがおずおずと言い出した。ついに恐れていた話題にレイナが触れてきたのだ。


「先生、自己紹介配信を拝見しました」

「お、おう……どうだった?」

「凄かったですね……」


 レイナがしみじみと言う。それが良い意味なのか、悪い意味なのか俺にはわからない。俺はおっさんである。流行に乗ったが、これで良いのかがわからない。


「素材の取り方という実用性、いきなりS級ダンジョンに挑むという意外性、最後にはヴォルケーノザウルスと戦う一連の流れ――まさしく先生にしかできない、先生らしい自己紹介配信でした……!!」

「……そ、そうか」


 どうやらレイナは心底あの配信を素晴らしいと思っているようだった。正直、何か凄いことをやらなくちゃと焦ってただけなのだが……。


「次にローゼンメイデンから新人がデビューする時は、あの配信を参考にしてはどうかと提案するつもりです」

「ほ、ほどほどにな……」


 楓はこうなることも見越して、wと俺に送って来たのか?

 わからない。だが、楓ならあり得そうだ。今度ローゼンメイデンからデビューする新人がどのようなことになるのか。おっさんのやり方が再び通用するのか、神のみぞ知るところだ。


 そして鍛錬が一段落したところで、レイナがずいっと身を乗り出してくる。なんだか目の奥に炎が燃えているようだった。気合いが入っている。


「……で、カリンとバトロワに行かれたそうですね」

「う、うん……」

「それについては今更、どうということもないのですが。ええ、特に文句があるわけではなく」


 文句がありそうな口ぶりだけど……?

 ライバル視するカリンとお出かけしたのが許せないとかなのだろうか。バトロワは本当にたまたま、カリンの予定に合わせただけだ。


「実は……フィードからローゼンメイデン宛に先生への連絡が来まして」

「ほうほう……」

「簡単に言うと、バトルイベントへのお誘いです」


 フィードからとは……。さっそくリベンジか?

 それとも単に俺の力をもっと見たい……とかもあるか。まぁ、レイナと何かのバトルイベントに出るのもアリだろう。


「半月後、こういうイベントがありまして」


 レイナがポケットからドローンを飛ばし、情報をホログラムで表示してくれる。


「ふむ……チーム対抗デスマッチか」

「簡単に概要を説明しますと、2つのチームに分かれてひたすら戦い合うという感じですね。もちろん両チームの戦力は拮抗するように調整されますが」

「そしてバトロワみたいに一定のダメージを受けたら退場、か?」

「基本はそうです。しかし主催のほうで回復役の覚醒者を複数用意するようです。なので、チームである程度は『リスポーン』ができます」

「回復役の覚醒者を複数とは、また大盤振る舞いだな」


 他人の体力やマナを回復させる特化能力は非常に希少だ。俺も人生で数千人の覚醒者と出会ってきたが、回復系は数十人程度だった。回復系の特化能力者は覚醒者100人に1人程度……というレア具合だ。


 それを複数となると、集めるだけでも相当大変だったろう。


「フィールドはつい最近発見されたF級ダンジョンを使います。このイベントも盛況で、賞金も凄いですよ」

「ちなみにいくらだ?」

「勝つとチーム全体で1億円です」

「1回の戦いでか……?」


 中々とんでもない金額が出てきたな。


「これもやはり、大手スポンサーがついていますので。だいたいチームは十数人から20人程度、山分けなので勝っても500万ほどになりますが……」

「それでも凄い金額だなぁ……」


 先日のバトロワの賞金は全部カリンに渡してある。俺は配信の収益以外はいらないからな。あまり金を持ってもしょうがない。というより、焼き鳥とコーヒーとビールがあれば割りと満足なところはある。物欲というものもあまりないし。


「ちなみに負けるとどうなるんだ?」

「スポンサーからの粗品ですね。先生もバトロワでゲットしたひよこパーカーなど……」

「……そうか」


 まさか人気グッズなのか、あのひよこパーカーは……。おっさんの俺には似合わないどころか外で着るには危険な服なのだが。


「フィードのほうからは、これにぜひ出場願いたい……と。それで、できたらですね……」


 ごにょごにょとレイナが言い淀む。


「そう、私もぜひとも先生と組んで出られたらなーと……」

「大丈夫だぞ」

「いいのですか!?」

「カリンのバトロワも別に軽いノリだったし……」

「私はカリンほど考えずに先生を誘えないので。彼女の生き方はアドリブだけです」

「ううむ、まぁ…………否定できない部分はある」


 カリンとの付き合いはレイナのほうが遥かに長い。それに俺もなんとなくだが、その節は感じている。しかしそれが欠点かというとそうでもない。

 即断即決は戦闘における大切な要素だ。思い切りの良さは、往々にして迷いや動揺よりもマシなのである。特にマナのガードは、心の乱れがそのまま影響に出てしまうしな。


 しかし俺は言わなかった。

 いきなり土下座で弟子入りをしてきたレイナだって、かなりアドリブな生き方をしているのでは……??

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