第13話 伝説のおっさん、待機する
バトロワ開始から10分後。そこそこ北に移動してきた。俺たちのちょっと前でジャングルが途切れて高台になっている。地形の変わり目は要警戒だ。俺は前方のカリンに声をかけた。
「1回目の安全地帯の縮小までもう少しだな。他のチームは?」
「3チームが脱落、残り17チームかな。どこがどこを倒したかはわからないけど」
「そこから推測できる状況は?」
「戦いが起こったのは、多分安全地帯のある北側だ。良いポジション取りで戦闘が起こったんだと思う」
「上出来だ。それを踏まえて、今どうするべきか」
カリンがジャングルの切れ目で足を止め、高台を見つめる。ちょうどあの高台から次の安全地帯だ。このジャングルはもうすぐ安全地帯じゃなくなる。
つまり俺たちはあの高台に突っ込むか、遠回りをするか選択しないといけない。ちなみに安全地帯の外でも一定時間は活動できる。しかし、時間を過ぎると問答無用に失格だ。
「安全地帯の外での活動時間は、合計で3分。無駄遣いはできないよなー」
俺の探知では高台で1チームが待ち伏せをしている。さっき、俺に狙撃してきたチームだと思う。奴らは安全地帯に入ろうとするチームを狩るつもりだ。向こうには高所の利がある。遠回りする選択肢も妥当だろう。しかしカリンは前に踏み出た。
「あたしが出るよ。戦闘が始まっても、先生はここで隠れてて」
「わかった」
「……理由、聞かないんだな」
「やってみればいいさ。それでわかる」
カリンは頷いて身体を液状化させる。なるべく平たく、水たまりのような形だ。ほふく前進みたいなものか。これなら見つかる心配はかなり減る。
そのままカリンは慎重に高台へと侵入していった。マナもうまく隠している。高台に近付いても敵からの攻撃はない。
俺も戦闘モードに入ろう。
息を吸い込み、マナを整える。
そしてマナを静かに抑え込む。よほど接近されない限り、ここで待って隠れている俺を探知することはできない。
それから数分、俺は待った。高台を監視していると、マナの揺らぎが感じられる。どうやら戦闘が始まった。
これは後に聞いた解説と実況の言葉だ。
「――それで今の戦闘はどうでしたか?」
「カリン選手がうまく高台に侵入し、陽動を仕掛けました。高台の奥にいる、もうひとつのチームを刺激するように。上手ですね、きっと高台のチーム『メロンデ・パンナ』も北に動けないと見抜いたんでしょう」
「『メロンデ・パンナ』は狙撃特化のチームで、移動は二の次です。それで『メロンデ・パンナ』は高台を諦め、ジャングルを回り込もうとしたんですよね?」
「そうですそうです。安全地帯にはいますが、、そのままでは自分たちが安全地帯の一番外になってしまいますからね。次の移動の時が大変です。慌てて別の良いポジションへ移動しようとした――」
「ところが、そこに待っていたのが伝説のおっさん、と」
「『おっさんとピーチ♡』の戦術がハマりましたね。完全に陽動成功です」
狙撃特化のチームは接近戦に弱い。これは一般的な事実だ。カリンはうまく俺を待ち伏せ要員に使い、追い込んだ。
隠れていた俺の目の前にメロンデ・パンナチームが現れる。探知していた俺のほうに驚きはないが、メロンデ・パンナのリーダーである長髪の女性は驚愕しながら叫ぶ。
「なんだと!? 分けていたのか!」
驚くの無理はない。高台を放棄して回り込もうと思ったら俺がいたのだから。
「どうしますか、リーダー!」
「もう後ろには戻れん! 4対1だ、速攻で片をつける!」
思い切りがいいな。だが、焦りが出ている。
マナの動きはすでに乱れ、俺の突ける隙が無数にあった。
まずリーダーを一撃で吹っ飛ばす。
さらに統制が乱れる。焦りが混乱に変わる。
位置関係はすでに完璧だ。
距離を詰め、残りの3人に肉薄する。
一撃、さらに一撃。
最後のひとりも一撃。
きっちり俺の4発でメロンデ・パンナは壊滅した。
「おおっと、さすがに不意の遭遇では伝説のおっさんは無理でしたか」
「対策はしていたのでしょうが、このケースは不運でした。メロンデ・パンナの狙撃なら、S級にも十分ダメージは与えられるはずでしたが」
「しかしそれは万全の準備があってこそ。接近戦ではやはり不利! 次回に期待したいですね!」
戦いが終わり、俺は高台に移動した。すでにカリンのほうも敵チームを遠くへ追い払っており、のんびりと空を見ている。
「先生、さすがだなー。気配でわかったけど、ほとんど一撃だったんじゃね?」
「完全に遠距離型だったからな。懐に入れればなんとかなる。にしても……あの4人と遠距離戦になったら、カリンのほうが負けてたと思うぞ」
「まぁねー。でもメロンデ・パンナにあたしと戦う選択肢はなかったはずだよ」
「そうだな。そこは見事だった」
メロンデ・パンナは俺も高台に潜入したと思って焦った。あともう少し待って状況確認に専念すれば、陽動だと気付けただろう。しかし安全地帯の縮小のせいでその判断を誤った。
「もしさー、先生の強さがわかるなら、さっき狙撃で狙うのはあたしのはず。今回のメンバーは探知が甘いと思ったんだよねー」
それも正しい。彼女たちはぎりぎりまで俺の居場所に気付かず、逆に飛び込んできたのだから。
「よしよし、過程もばっちりだ」
「えへへ、褒められちゃった」
カリンがはにかむ。なんというか、甘えさせたくなる性格だな。
「おっと、それで高台の奥にいたチームは?」
「あいつらは『鉄壁建築』っていう防御重視のチームだね。接近戦主体でもあるから、すぐ後退していったよ」
さっきタブレットで見たな。『鉄壁建築』は土木工事会社出身の覚醒者による異色チームだ。土や木を操作し、即席の防御陣も作れる。しかしカリンとの相性は最悪――液状化を防ぐ手立てがない。後退は妥当な判断だろう。
相性の悪い敵は避けて移動していくのがバトロワの基本だしな。
「現時点で残りチームは13……結構減ったねー」
そこかしこでマナの衝突が起きているからな。やはり安全地帯が縮小していくごとに敵と遭遇する可能性は増大し、戦闘も起きる。
気を付けるべきはやはり不意打ちと挟み撃ちだ。敵の先制攻撃をもらうのと、複数のチームと同時に戦うような状況に陥ること。これだけは避けたい。
「ここからはさらに油断せず行くぞ」
「はーいよ。頑張ろうぜ!」
【チームプロフィール】
メロンデ・パンナ
構成:A級1人、B級2人、C級1人
特化能力:空気弾、動作強化、迷彩、超視力
詳細:遠距離戦に特化したチーム
カリン相手:空気弾は液状化も貫くため中距離なら有利
レイナ相手:ブラックホールで空気弾を消されるため不利
伝説のおっさん相手:火力不足
脱落後のコメント:『やっぱり近距離は無理でした~!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます