第39話

ノックスペインへの移動中、俺は正直めんどくさいなって気持ちと今後の動きがこれで良かったのかという不安で段々と憂鬱になっていった。

確かに一斉スタンピードなんて荒唐無稽が過ぎる状況で。

俺だって話を聞かされたところで本気になんてできやしない。

なんとかしないと!なんて気持ちもそんなに持ち合わせていないのもある。

現実離れしすぎているからな…

まあ、それは転生した俺が言うのもどうかとは思うんだが‥

しかしだ。

多分だが…いやおそらくだ。

…いやぁ…100%かなぁ…

起こるだろうしだな、うん。

そしたら死傷者の数はこれまたすごいことになりそうなんだよな。

国を治める立場の奴らが率先して動こうとしないのに、一般人の俺が対応するってさ…なんかモヤっとするというか。

だからといって放置しておくのも気が引けるし…

今のSランク冒険者で対応が難しそうなレベルのダンジョンだけはこちらで対応しておくけど、他のダンジョン近くの街や村の住民達には確実に死傷者が出るわけでさ…

正直俺達ですべて解決しても良いんじゃないかって思い始めているんだよな。

ベルトルドさん達にはあんな言い方しちゃったけどさ。


〔指名依頼は一切受けない、でしたっけ〕


う…

だってさ、なんか、王族とかってさ。

民を守り国を富ませ、国の繁栄に尽くすものだろ?

それっておとぎ話の世界の話じゃないよね?


〔理想国家ではありますね〕


綺麗ごとってこと?

はぁ…

そうかもしれんが、なんか思ってたのと違ってさ。

正直がっかりしたっていうか。

でもまあベルトルドさんは本気で動こうとしてくれてるし。

それを考えるともうちょっと手伝おうかって気にもなりはするんだけどね。

なんかどんどんモヤモヤしてくるんだよ。


それはそれとて、誰が何のためにってとこもな。気になってはいるんだよね。

原因がわからないままにしておくのって大丈夫なもんなのかね。

でもこれ以上巻き込まれたくはないってのが俺の正直な気持ちではあるんだが…


〔マスター…〕


うん、わかってる。ナヴィは俺に悪影響がないか気にしてるんだよな。

でも一斉スタンピードが起きた場合にさ、十中八九王侯貴族的な奴らからは応援要請があるだろうし、断っても応えても面倒な事に巻き込まれるのは明々白々なのよね。

いろいろ考えてると何が正解なのか、自分が何をしたいのか分からなくなっちゃってさ。

なんというかどう動いても面倒っていう…


〔もう少し様子を見て答えを出しても良いのではないですか。マスターがすべてを解決する必要はないですし。何を目的としたことなのかがわかれば対処の仕方はあると思いますよ〕


そうだな…

出たとこ勝負、じゃないけど、先ずはダンジョン調査か。

俺は前方に見えてきたダンジョンの入口付近の目立たない場所に転移先の魔導具を設置し、王都の執務室へと転移した。


「ゼン、お帰り」


「ただいま。オルトはアイベルンに?」


「ん。なんか色々説明してアイベルン向かった」


「そっか」


執務室を見回すと随分な人数が揃っている。

ギルドマスターのベルトルドさんにサブマスターのミハエルさん。

Sランク冒険者のアルクさんのパーティ5人とロイさんのパーティ6人にフェイトさんのパーティ5人、で、何故か王国騎士団からマーヴィン第一師団長と第一師団のメンバーであろう4人。

いや、多過ぎだろっ!

総勢22名の引率って何なの!?


「なんかすっごい人数なんですが?」


ジトッっという擬音が聞こえそうな視線をベルトルドさんに向けると焦ったように「調査は人数がひつようだろっ、な?」と乾いた笑い声と共に返される。


「いや、騎士団の人もいるし」


「すまない、状況把握の為にも我らも同行させてくれないだろうか」


マーヴィン第一師団長が申し訳なさそうに頭を下げた。他の騎士団の方がえっ!?という表情を一瞬だけ見せるが上司であるマーヴィン第一師団長に倣い慌てて同じように頭を下げる。

貴族が平民に頭を下げるなんて普通はないだろうからね、そりゃ騎士団の人も慌てるか。

俺は大きく溜め息を吐くと「遠足かよ」と独りごち転移魔導具であるカードを人数分取り出すと、ノックスペインのダンジョンの転移先を登録して渡していく。

使い方を説明して早速転移するよう伝えるとアルクさんがウキウキな声で「じゃあ俺やってみるな!お前らも続けよ」とパーティメンバーに声掛けてすっと転移した。


「おおっ」


どよめきが起こるがアルクさんのメンバーは次々と転移していく。フットワーク軽いというか好奇心旺盛というか。パーティ全員アルクさんと同じ感じなんだな。

慎重派っぽいロイさんも続くように転移し、フェイトさんも苦虫を噛み潰したような顔で一度俺を睨むと転移していった。

凄い敵意なんだが…

嫌なら着いてこなければいいのにね。


「では我らも」


マーヴィン第一師団長が騎士団のメンバーに声を掛け一斉に転移していく。

ベルトルドさん達もおっかなびっくりではあるが転移したようで調査メンバー全員が執務室からいなくなったのを確認し、残った商業ギルドのマスターや人がひしめいていて気が付かなかったけど謁見から戻って来ていたフェリックス総長さん達に調査は1~2日で終わること、調査が終わればここに転移で戻ることを伝えダンジョンに転移した。


「ほんとに一瞬で移動しちゃったよ!」


俺を見つけたアルクさんが転移初体験に興奮して飛び付いてきた。いや、止めて。男に抱きつかれても嬉しくないわ。


「ええまあ、それが転移魔法ですしね」


面倒くさいアルクさんを適当に躱しネラを探す。

ダンジョンの入口に近い場所でこっちを見ていたので、全員をネラの周りに集めバフを掛けて貰うと早速ダンジョンに入った。

遠足の引率者の気分でぞろぞろと引き連れながらダンジョン内に諜報君達を放ち、魔精錬石の探索魔導具を使う。


「1階層にはなさそうだな」


「ん、諜報君達の映像でも異常はなさそう」


「じゃあ2階層に行こう。諜報君の回収は後回しだな」


俺は魔精錬石の魔導具に反応が無いのを確認するとさっさと階層を移動する。

ぞろぞろと引き連れているせいで時間はかかるが夕方には順調に7階層まで降りていた。


「この辺りで今日は休みましょう」


ダンジョン7階層は石造りで作られた広大な遺跡のような造りで、迷路のように入り組んでいるが魔物の出ない小部屋も点在する。

俺達は比較的広い部屋に入り、そこを今日の野営地とすることに決めた。

各自テントを張って貰い、その間にマジックバックのテイで空間収納からノエル特製スープ、ふかふかパン、セリスタの宿屋の女将さん直伝である激うまファム、ピザやカルツォーネ、コロッケにカツや肉料理、そしてビールなどの酒類を次々に土属性魔法で簡単に作ったテーブルの上に出して行く。

その様子をあんぐりと口を開けて見ていたベルトルドさん達に椅子に座るように促すと、ヨダレを垂らした冒険者達が我先にと座った。


「ゼン、これは…見たことの無い料理ばかりなんだが我々が食べて良いのだろうか」


ゴクリと喉が鳴ったベルトルドさんはテーブルの上に並んだ数々の料理と俺の顔を交互に見つめ、もう一度喉を鳴らす。


「遠慮なくどうぞ。これらはうちの商会で出してる商品なので売るほどありますし。スープは売ってませんけど、調味料のマヨネーズやソース、ケチャップも売ってますので気に入った物があれば是非商会に買いに来てください」


俺はにっこりと蒼銀の月商会を宣伝しておく。

ま、売るほどあるのはほんとというか、今店開けてないから山積み状態ではあるんだよね。


「いやー!どれも美味しそうだね!ゼンは冒険者だけじゃなくて商会も営んでいるのか?」


アルクさんが目を輝かせて料理に手をつけた。カルツォーネを一口齧っては「うっま!」コロッケにマヨネーズやソースをつけて口に放り込んでは「何これ!めっちゃ美味いじゃん!」と大騒ぎだ。

他の冒険者達も似たようなリアクションで料理もビールも大好評だった。

その証拠にテーブルの上の料理がどんどん減っている。足りなくなりそうだし、追加するか…


「商人が本業ですよ、冒険者はオマケです」


そう答えながら、追加の料理をテーブルに置いていく。

置いた先から料理がなくなった。ネラにも空間収納から料理を出すよう指示をだす。もう無属性魔法のことはオープンにしたし、空間収納のことも隠す必要もない。まあ、上限なしってのは言わないが。


「えっ!希少なスキル持ちな上にめちゃくちゃ強いのにか!?」


ロイさんが驚愕の表情を向ける。


「まあ、確かに希少なスキルを持っててそのおかげで強くはなりましたが、元々商人になりたくて、自分の身を守る為と素材調達に便利なのでレベルアップしただけで、冒険者を前面に押し出すつもりはないですね」


冒険者にさして興味もないと告げるとフェイトさんがギリっと歯ぎしりし射抜くような視線を投げつけてくる。その手にはふかふかパンとビールが握られており、うちの食事を大いに楽しんでいるようではあるが。

ふかふかパンにジャムを塗っているところを見るに、実は甘党か?

俺はデザートにクッキーや生クリームたっぷりのケーキ、プリンや果汁を使ったシャーベット、そしてお気に入りのアイスクリームまで大盤振る舞いしてみる。

アルクさんのパーティにもロイさんのパーティにも女性メンバーはいるので、デザートは物凄く喜ばれたが、密かにフェイトさんもガッツリデザートを堪能しているので甘党は確実なようだ。これで印象は良くなったか?と内心ほくそ笑む。

ニヤニヤしながらフェイトさんを伺うもケーキに夢中だ。ふふっ食は大事だよな。


〔マスター、顔〕


あ、はい。すみません。


「とりあえず小部屋に結界を張っておくので夜の見張りは不要です。あ、お風呂入ります?必要なら風呂場作りますよ」


俺は主に女性陣に風呂の是非を問う。


「もちろんちゃんと見えないように四方を壁で囲みますし、湯も使いたい放題です」


俺とネラは異空間で風呂入るけど、冒険者さん達はそうもいかないから善意で提案してみた。


「お風呂入れるの!?」


アルクさんのパーティメンバーであるリコリーさんがぐりんっと勢い良く振り向いた。


「ええ、風呂場と湯船は土属性魔法で作ったものですし、お湯はこの簡易お湯蛇口の魔導具を設置するだけですけどね」


「うっそ、簡単な風呂場っていうけど、普通お風呂なんてお貴族様しか入らないのに、それを魔法で作るとかありなの?」


ロイさんのパーティメンバーのベルさんが若干引き気味で呟く。


「ゼン、それって俺達男も入っていいの?」


スっと後ろから両肩を掴みぬっと顔を出すと、とても良い笑顔で圧をかけてくるアルクさん。

この人ほんと無邪気というか好奇心旺盛というか…


「はいはい、男性用の風呂場も作りますよ」


俺は肩の手を払い除け「女性用と男性用の風呂場を作るので、入りたい方はどうぞ」と言うと、ササッと風呂場を作成した。

男性用は人数が多いので広めにしておいた。

身体を洗う為の石鹸も準備してある。至れり尽くせりだよ。

とりあえずこんだけやっとけば文句も出ないだろう。俺はネラと一緒に自分のテントに入り結界を張る。勝手に入ってこられても中には居ないからね。


「ネラ、今日はご苦労さま。悪いが明日もよろしくな」


ポンポンとネラの頭を撫で異空間の自室へ戻るとベッドに倒れ込む。

いや、ほんとに疲れた。

精神的に。

確かに俺はチートが過ぎるが、一々驚かれるのも、奇異な目で見られるのも、ついでに敵意を向けられるのも面倒だし、神経がすり減るんだよ。

明日には魔精錬石は見つかるだろうから、我慢だ我慢。

疲れきった俺は眠さに抗えず風呂に入るのを諦めてそのまま眠りにつく。

明日の朝に入ればいいさ…うん。


〔マスター、起きて下さい!〕



〔マスター、マスター!スタンピードです!〕


うぉ!はい!?なに!?


ナヴィの声に叩き起され俺はベッドから飛び起きた。


〔スタンピードが発生しました。発生源は15階層です。魔物達が10階層まで登って来ました、数は300程度で今も尚魔精錬石から続々と発生しているようです〕


間に合わなかったか!

ナヴィ、ネラを起こしてくれ。

俺はベルトルドさん達を起こしに行く!


「ベルトルドさん!アルクさん!ロイさん!フェイトさん!マーヴィン第一師団長さん!皆さん起きて下さい!スタンピードです!!」


テントから飛び出した俺はそれぞれのチームのリーダーを呼び全員叩き起すよう指示を出す。

寝ぼけている者も多い中、急いで身支度を整えスタンピードの発生をダンジョン内で食い止めるために9階層へ降りると告げると弛緩していた空気が一気に張り詰めた。


「ゼン!スタンピードだと!?魔物はどこだ!」


「数は!?どのくらいの規模かわかるかいっ?」


「ダンジョンの外には出ていないんだな!」


次々に質問が飛ぶなか、もう一度ナヴィに確認しつつMAP機能で8階層へ降りる階段の最短ルートを確認する。


「現在10階層を移動中!数は300~400!まだ魔物は発生中だと思われます!」


最新情報を共有し、全員の準備が整った事を確認すると「9階層に降りたら俺とネラで一掃します!皆さんは俺とネラの後ろから溢れた魔物の対処をお願いします!俺は先に行って転移先魔導具設置してくるので!ネラ全員にバフかけといて!」と叫び不服そうなフェイトさんを無視して走り出した。

正直一々噛み付いてくるフェイトさんに構ってられない。ノックスペインでスタンピードが発生したのなら、アイベルンやナントローモも発生する、いや既に発生しているかもしれない。

オルト達なら殲滅は簡単だろうけど、他の冒険者達がいる階層にまで魔物が来ていたら人命救助を優先させるとダンジョンから魔物が出てしまうかもしれない。


(ナヴィ!ノエルやオルトに情報共有!悪いが今から動いて貰ってくれっ)


〔承知しました〕


俺は全速力で8階層への階段を目指す。

そこから階段を降り更に先に進む。9階層の階段近く、転移先魔導具を設置しベルトルドさん達を転移させた。

土属性魔法で簡易な砦を作り、全員そこから出ず魔法攻撃で対応して貰うよう言い含め、MAPを見ながら索敵を展開。

どうやら他の冒険者達は居ないようだ。

魔物達も9階層を順調に進んでいるようで、もうすぐ視認出来る。


彼方に土煙が上がっている。

9階層は平原エリアの為、見晴らしが良い。


「見えた」


ボソッと呟く。

小さな声だったが声を拾った冒険者の何人かが唾を飲み込んだ。


「ネラ、思いっきりやっていいぞ」


「ん、狩りまくる。経験値いっぱい嬉しい」


分かりにくいが、ネラの口角が少し上がっている。瞳孔も開いておりどうやらテンション爆上がり中らしい。ちょっと魔物に同情を禁じ得ない…

俺とネラは砦から5m程前に出て範囲攻撃の届く距離に入った魔物達を次々と屠っていく。範囲外から溢れた魔物達が押し寄せて来るがそちらも階段を目指しているので結局は俺達の攻撃範囲に入った途端に塵と消えた。


「うへ~、ほんっと強いなぁ。Sランクになったからって俺は随分と調子に乗ってたのかも。正直ゼン達の足元にも及ばないわぁ」


アルクさんが頭を掻きながら呟いた。


「次元が違う…」


ロイさんも行進してくる魔物達が為す術もなく塵と消えていく様を凝視し、青ざめた顔でポソリと呟く。


「我らの指導を頼めるだろうか。強くなる為に教えを乞いたいものだ」


感心したようにマーヴィン第一師団長さんは独りごちる。なんか驚きの方向性が違う気がする。


ほどなくして魔物は殲滅されスタンピードも収束した。ネラの頑張りによって簡易砦に被害はなく、9階層には塵となった魔物の魔石がゴロゴロと落ちていた。とりあえず空間収納に収めつつ俺は15階層に行くかアイベルン、ナントローモのどちらかに行くか思案する。


〔アイベルンでもスタンピードが始まったようです。階層は30階層ですので、他の冒険者はおりません。オルトとエイダンが現在対応中で、このまま任せても大丈夫でしょう〕


(そうか、ナントローモの方はどう?)


〔まだのようです。フロアが広いのでジガン達もまだ22階層を移動中。魔精錬石は今のところ見つかっておりません〕


(わかった。じゃあ先ずは15階層の魔精錬石を見つけよう)


「皆さんスタンピードは収束したので魔精錬石を回収するため下層へ移動します。アイベルンでもスタンピードが発生しており、今うちのメンバーが対応してますが、他のダンジョンもそのうち次々と発生すると思いますので急ぎましょう」


「ゼン、みんな走らせる?時間かかる」


ネラがチラリとベルトルドさん達を見やる。


「確かに…」


だが、魔精錬石が15階層にあることを伝えると俺達が準備したと誤解されかねない。ナヴィのおかげで知り得た情報だと伝えるわけにもいかないし。

しょうがない、嘘も方便ってことにしておくか。


「魔物の発生源としては多分15階層です。諜報君達を偵察用に放ってましたが、12階層で検知しました。13階層以降もそのまま偵察させてましたが16階層にはスタンピードが発生した形跡はなく、15階層から魔物の大移動の形跡があったので、それを辿れば魔精錬石の場所は特定出来るはずです」


「諜報君とやらの魔導具を放って調査を続けていたのか…」


「ええ、ベルトルドさん。いつスタンピードが起きてもおかしくなかったので、情報収集は基本ですからね」


ごめんなさい、大嘘です。


〔マスター、ナントローモでもスタンピードが発生したようです。現在ジガン達が対応中ですが、魔物以外の介入が見られます〕


(は?魔物以外の介入って…魔精錬石を使ってスタンピードを発生させた存在ってこと?)


〔そのようですね、ジガン達と交戦中ですので。どうされますか?排除するか捕えるかジガンから指示を求められてます〕


(…ジガン達に排除は魔物のみ、原因と思われる者達には防戦のみで耐えるよう伝えてくれ。すぐに行く)


〔承知しました〕


「ネラ、ベルトルドさん達と一緒に魔精錬石を回収してくれ」


ナヴィとの会話はネラにも伝わっているので、それだけ伝えるとネラはコクリと頷くと「回収後は王都に戻る。ベルトルド達安全確保」と俺の意図を汲み取ってくれる。


「すみませんが今ナントローモでもスタンピードが発生しました。数が結構いるので、俺もそちらに向かいます。皆さんはネラと一緒に魔精錬石を回収後、王都に戻って他のダンジョンでもスタンピードが起きると伝えて対策をお願い致します」


「アイベルンに続いてナントローモまでも…」


ベルトルドさんの顔が真っ青になる。


「わかった、アイベルンとナントローモはゼン達に任せよう。俺達は魔精錬石を回収後、王都に戻ってすぐに対策を講じる。冒険者ギルドの総力をもってリオンテールのダンジョンに冒険者達を配置しよう」


「取り敢えず、魔精錬石の探索用魔導具をお貸ししますので、まだスタンピードが発生していないダンジョンはそれで回収してください」


「ゼン達はアイベルンとナントローモのスタンピードを制したら手伝ってくれるのかな」


アルクさんが小首を傾げて聞いてきた。

いや、なんで何でもかんでも俺達に頼るかな…

ただ、アルクさんの問いは全員の総意だったらしく、俺の答えを固唾を飲んで待っていた。


「正直、ここまで対応したのであとはそちらで何とかして欲しいのですけどね…」


「それは…そうなんだけどね」


えへへって笑ったって可愛くないんですよ、アルクさん。


「はぁ…申し訳ないですが、行ったことない場所へは転移できませんのであまり期待はしないでください。ネラ、悪いが王都で俺達との連絡係になってくれ」


「む…ネラよりオルトかナジが適任」


ちょっと眉間に皺を寄せネラがご立腹だ。


「わ…かった。後でナジと変わってもらおうな」


ご立腹なネラも可愛すぎるんだが‥


俺の判断に今度はご満悦になったネラが鼻歌交じりに全員にバフを掛け直して魔精錬石を回収しに行った。

早い!早いよネラ!もう少しスピード落としてあげてっ!!

ベルトルドさん達が着いていけないからっ!

俺はナヴィからスピード落とすようネラに伝えてもらい、ナントローモのダンジョン、ジガン達のいるフロアへと転移した。

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