第24話 オルトの思い2
なんということでしょう。
先程ナヴィ様から連絡頂いた内容に私はとてつもない衝撃を受けました。
ゼン様が新しく二人の奴隷を購入したそうで、どちらも錬金術スキルを潜在能力として保有しているのだとか。
私が錬金術スキルを習得出来ないばっかりに、ゼン様に要らぬ手間を掛けさせてしまったようです…
もっとお役に立たねば、と奮起した矢先の出来事です。商人ギルドで屋台の出店許可を貰うために手続きをしていたのに、ショックで思わず倒れそうになり、出店許可を貰い損ねる所でした...
はぁ...
今日はジガンに深酒に付き合って頂くとしましょう…
翌日から新しく仲間になった二人に私とナジが色々教えていきます。これもゼン様のお役に立つお仕事の一つですから手を抜くことなく全力で対応致します。
それでも今一番必要とされている事は錬金術スキルなので、正直グレイとエイダンがとても羨ましいですね。
ナジと一緒に一通りの事を教えると後はナジに任せノエルと一緒に屋台の準備をする事にしました。
蒼銀の月商会の素晴らしさを広め、商会を盛り立てる為に必要な事ですので、更に手は抜けません。
それでも気落ちしているのが分かるのか、ノエルに心配させてしまいました...
相変わらず気配りが上手ですね。
私は気を引き締め、平常心でお客様への接客を始めます。
ゼン様のお役に立ちたいという気持ちは、私だけではなくナジやノエルにも顕著に現れており、時折ナジとは相談し合っているのです。
ノエルに対しては相談し合うというよりも同士として互いに切磋琢磨する関係の中で、現時点で一番ゼン様のお役に立っている尊敬すべき同僚という存在なので、私から特に相談する事はありません。彼女は自分に出来る事を精一杯頑張っていますしね。...いえ、少し羨ましい気持ちがあって、素直に相談出来ないのが実情ですか。
それを言うとナジが私もとてもお役に立てていると慰めてくれるのですが。
もう私が錬金術スキルを習得する必要もなく、このまま酒作りに邁進するだけでしょうか…ならば新しいお酒について研究しなければ…
酒造スキルもレベルがMAXになったので、新しいお酒も作れるでしょう。
私は全く途切れることのないお客様への接客をしながら、次のお酒について考え始めました。
〔酒造スキルがレベルMAXになったのであれば、スキル自体のレベルアップをするのが良いでしょう〕
(これはナヴィ様!ご助言ありがとうございます。スキル自体のレベルアップとは...毒耐性と麻痺耐性で状態異常無効にレベルアップした時のような事で宜しいでしょうか?)
〔はい、スキル自体のレベルアップには複数のスキルを統合する場合と、レベルMAXからの上位スキルへの進化の場合がありますが、酒造スキルは上位スキルである醸造スキルへレベルアップが可能です〕
(醸造スキル...)
〔酒造スキルでは酒を対象としていますが、醸造スキルは食品材料を発酵、さらに熟成させる事で酒類だけでなく、みそ、しょうゆ、酢などをつくる事が可能なスキルです。みそ、しょうゆはマスターの元の世界での調味料であり、ルーツとなる思い出深い調味料です〕
(なんとっ!?そのような調味料を私が作る事が可能になるのですか!?)
〔可能です。ただし、みそ、しょうゆはあちらの世界で〈だいず〉と呼ばれているマメ科の植物と、〈こめ〉と呼ばれるイネ科の植物が必要です。アスガルディアにも似たような植物が存在しますが、どちらも雑草と認識されているため、種を採取してから栽培する必要があります〕
(だいず、こめ...)
私は必死にそれらの植物を思い浮かべる。
雑草というからにはきっと見た事はあるはずでしょうが、思い当たる物は名前からでは見当もつきません。
〔醸造スキルへのスキルアップと一緒に栽培スキルも習得すると良いでしょう〕
(承知致しました!)
おっと、余計な事を考えている場合ではありませんね。ナヴィ様のせっかくの助言です、集中して伺わなければ!
〔酒造スキルをレベルアップします...完了しました〕
〔栽培スキルを習得します...完了しました〕
(ナヴィ様!ありがとうございます!!)
あっという間にスキルがレベルアップ、それに栽培スキルも習得出来たようです。
錬金術スキルには素養がなかったようですが、栽培スキルは大丈夫だったみたいでナヴィ様に習得させて頂けたようです。
〔みそ、しょうゆの醸造に必要なみそ・しょうゆ蔵はジガンに作成して貰えば良いでしょう〕
(はいっ!)
〔だいず...大豆はその辺に生えていますが、米は水捌けの悪い所ですので少し遠いですが、植生地は把握しているのでオルトの都合の良い時に採取しにいきましょう〕
(ナヴィ様、何から何までありがとうございます!私はこれで更にゼン様のお役に立つ事が出来そうです!)
新しい目標が出来ました!
急にやる気になった私をノエルが訝しんでいますが、気にしてはいられません。
お客様への対応も疎かには出来ませんから、これからの事を考えながらも丁寧かつスピーディに接客をしなければ。
ああ!ですがどうしても新しい調味料、それもゼン様に馴染み深いという調味料を作る事が出来るかもしれないと思うと心が逸るのは仕方のないことではありませんか!
先ずは大豆と米の種の採取。
栽培場所の確保と栽培。
みそ・しょうゆ蔵の作成。
みその醸造方法としょうゆの醸造方法の確立。
試行錯誤しながらの醸造。
ナヴィ様に沢山ご助力頂かなければなりませんが、それでも自分に出来る事が増えるのは本当に嬉しく思います。
完成までは秘密裏に動くことが大事ですよ。
ゼン様を驚かせたいですからね。
ふふっ楽しみです。
今日にでもジガンとナジに相談しましょうか。
ジガンは面倒くさそうにしながらも、積極的に手伝ってくれるでしょうし、きっとナジは喜びながらも悔しがると思います。
そうそう、みそやしょうゆを使った料理を作って貰うためにもノエルにも協力を仰がなければいけませんね。現物が出来上がってからでも十分間に合うので、後にしましょう。
私はノエルにライバル心が少なからずあると自負しておりますので。もちろんナジにもですが。
レビーとネラは...手が必要になった時に相談すれば良いですね。
はぁ、今日の酒は一際美味しいことでしょう。
まだ何も始まってはいません。
それでも心踊る試みに、幸せを感じずにいられましょうか。
そろそろ屋台も終わりの時間です。
私は新たな目標を胸に会心の笑顔でお客様に閉店ですと伝えるのでした。
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