第25話

エイダンとグレイを迎えてから三日が経った。

初日に鍛治場や酒蔵さかぐらがある地下2階に錬金作業場を作ろうとしたら、鍛治場の音が気になるかもしれないので階を分けた方が良いとオルトから提案されたため、地下を3階建てにして1階を錬金作業場と調薬室、2階をゴーレムひしめくキッチンライン工場、3階を鍛治場と酒蔵に改造した。

地上3階建て地下3階建てとトータル6階建ての異空間になってしまったので、建築法上これはエレベーター必須案件では!?と、魔導具で作ろうとしたけど面倒くさかったので各階を移動出来る転移陣を設置する事にした。もちろん階段もあるけれど、2階から地下3階に移動するジガンやオルトが大変だろうからね。俺が移動するのが面倒くさいからではないのだ。うん、みんなのためである。


エイダンとグレイに作業場で魔導具作成を教えて2日目で二人とも錬金術スキルを覚醒させてくれたので、簡単なものからどんどん作って貰おうとしたが、MPが少なすぎてダメだった...

うむ、強くなって貰う必要もあるし、先にレベルアップだな。


「明日はナントローモに移動しよう。エイダンとグレイのレベルアップが必要だし、ナントローモのダンジョンは良い素材が取れるらしい。屋台組と素材狩り組に分かれて3日おきに交代するか。エイダンとグレイはしばらくは素材狩り組に同行してレベルアップに励んでくれ。あ、いや、いきなり素材狩りに混ざると下手したら死んじゃうか...護衛ゴーレムを何体か付けてしばらくは俺が一緒に付くよ」


俺は夕食の席でみんなに伝える。


「どのくらい滞在されますか?」


「ある程度レベルが上がったらセリスタのダンジョンで状態異常無効と精神異常無効のスキル習得するから3週間か4週間くらいかな」


「ゼン様、俺ダンジョン以外にも冒険者の依頼受けてみたいですっ」


「ん、面白そう。ネラもそれやる」


そういや冒険者としての働きを全くやってないね...

たまには冒険者ギルドに貢献しておくか。


「良いよ、でもレビーとネラだけじゃちょっと人数的に足りないからオルトかナジのどちらか一緒に行動してくれないか?」


さすがに子供だけでは強さではなく常識的に心配だよな。


「屋台はしばらくお休みしますか。素材狩りと冒険者の仕事となると人手が足りないと思われます」


「うん、そうしよう」


冒険者の仕事の引率はオルトとナジが交代でやる事で俺の許可を出す。ジガンはマイペースだし、ノエルだと子供だけになっちゃうからね。


そうしてザッケルの街を出てナントローモに向かうと、斬新!急病人がいるよ!

街道の少し鬱蒼とした林の近くでお腹を押さえて蹲ってる女性を介抱する年配の女性。

旅人を装ってるけど鑑定で丸分かりなのよね。

状態「正常」だし、レベル20以上だし、称号に「盗賊」って付いちゃってるのよ。

どうも盗賊として活動してると称号付いちゃうみたいね。今までの盗賊の皆さんにもきっちり付いてたからさ。

う〜ん、ガン無視してく?

どうせ林の中にいるんでしょ。無視しても襲って来るか…来るだろうなぁ。

とりあえずナヴィを通して急病人に扮した盗賊だと伝えて貰ったので、後はガン無視してみよう。

蒼銀の月商会の豪華な荷車は急病人を華麗にスルーして横を通り過ぎて行く。


「え、ちょっと待って!」


急病人を介護していた年配の女性が通り過ぎる荷車に飛びついてきた。

危ないぞー。


「ちょ、ちょっと!荷車を止めて!助けてください、病人が見えないんですか!?」


「ん~?病人?どこにいるんです?」


俺はわざとらしく窓から身を乗り出して辺りを見回した。


「なっ!そこに!蹲ってるでしょっ!」


年配の女性はキーキーと耳元でがなり立てる。


「病人ねぇ...めっちゃ健康みたいだけどなぁ」


ニヤニヤしながら「俺、人の健康状態分かっちゃうんですよね、ごめんね」と窓枠に掴まっている女性の手を叩き落とした。

キャー!って叫びながらもちゃんと受け身取れてんじゃん。さすがLV20。


急病人も年配の女性も捨て置いて荷車は街道を進んでいく。

計画が台無しになった盗賊達は慌てて木立から飛び出すと、荷車を追いかけ何やら叫んでいるのだが。


「面倒な...誰でもいいから捕まえてきて〜」


「俺が行く!」


レビーが喜び勇んで盗賊達の元へと荷車から飛び降り走り出した。荷車の後ろの扉が壊れるかと思ったよ...


「殺すなよー」


窓からレビーに声をかけるとグレイとエイダンが俺を凝視していた。

ん?


「あ、あの...レビーみたいな子供一人で盗賊達の相手は危ないのでは?」


エイダンが恐る恐る尋ねるが、危ないのは盗賊達の方だよね。ちゃんと手加減出来るかな。


「まあ、レビーも好戦的な部分はあるけど、大丈夫じゃない?ちゃんと手加減すると思うよ?」


「え?」


「ゼン様~終わりました〜!」


「レビー、空間収納からロープと猿轡を出して盗賊を拘束して下さい。私も手伝います」


「檻の異空間に入れるんじゃろ、ワシも手伝うかの」


レビーとオルトが盗賊達を縛り猿轡を噛ませていく。ジガンは異空間のドアを開けて拘束した盗賊達を次々と中に放り込んで行き、あっという間に街道には何事もなかったような静けさが訪れた。


ゴクリ...と喉が鳴る音が聞こえる。

音の方を見やると荷車の後ろの開いたままの扉から一部始終を見ていたエイダンとグレイの顔が真っ青になっていた。


「大丈夫か!?盗賊怖かった!?」


「い、いえ。レ、レビーがとんでもなく強くて驚いたと言いますか...皆さんも慣れた感じ...いえ、冷静に対応されてて...頭がついていかないと言いますか...」


エイダンがしどろもどろに言いながらグレイと顔を見合わせる。グレイは口をパクパクさせて何事かを言おうとしては、ノエルを見て、また何か言おうとして諦めたように息を吐き出した。


「レビーだけじゃなくて、うちは皆んな強いよ。エイダンやグレイもすぐに強くなるから安心してくれ」


にっこりと微笑んだら何故か二人が引き攣った顔になる。

なんで?

安心して下さい。すぐに強くなれますよ!


その後荷車は順調に街道を進み、程なくしてナントローモに到着した。

街は賑わいをみせ、人の往来が多い。その中でもダンジョンが近くにあるからか、冒険者を多く見かけた。

一通り鑑定してみたが、Bランクの冒険者が多くナントローモのダンジョンはやはりセリスタ近くのダンジョンよりも手強い事が窺えた。


しばらくはこの街に留まる予定なので、俺は宿ではなく空き家を借りたいと思っている。

人数も増えたし宿を取るのも無駄な出費になるためだ。


「空き家って借りれるものかな」


「商人ギルドで聞いてみましょう。斡旋してくれると思います」


「ボロくても良いから、即借りれるとこがあったらお願い」


「承知しました。ではこれから行ってきます」


オルトは一礼すると商人ギルドに向かう。


「ゼン様。俺は盗賊を冒険者ギルドに引き渡してきます。ジガン、レビー手伝ってくれますか」


ナジがレビーとジガンと一緒に盗賊を引き渡しに行くとノエルが「食材買いに行ってきますね」とにこりと言う。

ネラも無言で一緒に行くとアピールしているので「気をつけて行っておいで」と言うと満面の笑顔で頷いた。二人は手を繋いで市場へと向かう。仲良しさんだね。

さて、荷車はナジに任せたので、残ったエイダンとグレイを連れて武器や防具を買いに行くかな。

俺は二人に声をかけ武器屋に向かった。


武器屋に着くと店内は広く武器の種類も豊富だった。さすがBランク冒険者が多い街の武器屋である。まあ、それだけダンジョンの難易度が高いんだろう。ま、俺達にはあまり関係ないけどね。


「エイダン、グレイ、好きな武器選んで良いよ」


片手剣に両手剣、弓や杖等ざっと見ても質は良い。

二人はまだ戦闘系のスキルは何も無いので、好きな武器を選んで貰う方が良いだろう。


「選べと言われても...」


エイダンが八の字眉になっている。

グレイは両手剣の一つに手を伸ばし刀身に見入っていた。


「エイダンは性格を考えると中距離攻撃用の武器が良いかもね。とすると、弓か投げナイフかな。投げナイフは攻撃力は低いから、応用が利く弓が良いだろうね。スリングショットとかも面白いけど、こっちには無いだろうしな」


俺は一張の弓を選んでエイダンに渡した。

後でスリングショット、魔導具で作ってみようかな…


エイダンは弓を受け取ると番えてみては腕がプルプルすると更に眉尻を下げた。

まあレベルが上がれば余裕で番える事が出来るから、弓で頑張って貰おう。


「グレイはその両手剣にする?」


先程からじっと両手剣と睨めっこしていたので気に入ったのかと声をかけると「使ってみたいのですが重くて...」とこちらも八の字眉だ。


「今すぐは無理でもレベルが上がれば大丈夫だよ。どっちにしろレベルが5から10くらいになるまではパワーレベリングで上げて二人が戦う事は無いわけだし」


「ぱわー...れべり...ん?」


「二人よりレベルの高い魔物を俺がサクサク倒して行く事で、同じパーティメンバーである二人にも経験値が分配されるから、何もしなくてもレベルが上がっていくんだよ」


「は、はぁ...そう、なんですね?」


歯切れの悪い返事と困った顔でグレイが剣と俺を交互に見つめていたが、意を決して両手剣にすると剣を俺に差し出した。

鑑定した分には、特殊な付与効果が有る訳では無い普通の両手剣だが、魔石と魔鋼が使われており、グレイの魔力が馴染めば使い勝手も良くなりそうな剣だった。

武器は選んだので、防具屋に行き一揃購入するとオルトが空き家を借りる事が出来たとナヴィが教えてくれた。

早速MAPを頼りに空き家に向かうと、中心街からは少し距離はあるもののそこそこの大きさもあり、すぐにでも住めそうな家だった。

まあ結局異空間で生活するからどうでもいいのだけれどもね。


「オルトご苦労さま。いい家だね、ありがとうな」


「とんでも御座いません。すぐに入居出来る空き家があって良かったです。それと屋台の出店許可も一応取得しておきましたので、何時でも屋台を出せます。また、屋台で売る代わりに商人ギルドで魔導具を売って貰えるよう少し卸しておきました。手数料は取られますが、蒼銀の月商会の喧伝をして下さるでしょう」


にこりと笑うオルト。

蒼銀の月商会の副会長だけど、執事のような働きぶりだ。痒い所に手が届く。

蒼銀の月商会はオルトとナジが中心に上手く回っているんだよな。副会長と番頭が優秀過ぎて会長要らない節濃厚なんだが…

いやいや必要だから。俺必要だからね。


〔自己肯定は必要ですね〕


……うん。


ちょっと切ない気分で異空間に入ったのは内緒です……

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